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 懐かしのB級キット(第14回)
愛知特殊攻撃機 晴嵐(アオシマ 1/72)

by 田口博通

  玩具から始まったプラモデルが ギミック路線か、それとも 全く動かないけれども精密なモデルの方向に行くか メーカーによって多様性に溢れていたのが 1960年台でした。
 当時から、精密というには?がつくけれども ギミックが面白いプラモデルを日本メーカーが多く発売していました。エルロン、方向舵可動は当たり前、というか それが当たり前のトレンドの時代だったともいえます。
 学校前の文具店でプラモデルが売られていることも多く、箱絵が魅力的でショーウインドーに釘付けになり、学校帰りに店の前の道路で座り込んで、プラモを作った経験のある読者も多いはず。小学生の遊びの一部として当たり前にプラモデルがあり、今からは想像も出来ないプラモ黄金時代だったと思います。

 
 金型精度が追いつかず、可動部がガタガタで、細かいディテールは?が二つくらいつくが、デッサンはなんとなく実機の雰囲気を再現しているという今でも捨てがたいキットが多くありました。既に絶版になっているものが多いのですが、幸い、その中には今でも生き残って現役のプラモキットもあります。

 このシリーズは そんな 懐かしいB級キットを取り上げて行こうという連載です。形状とか デイテールを求めるならば、後発の決定版を購入すればいいわけで、ディテールの修正などをせず、オリジナルの雰囲気を壊さず、完成を目指したいと思います。




 今回の「懐かしのB級キット」で、取り上げるのは 青島の晴嵐です。
 晴嵐は、イ400超弩級潜水艦(潜水空母)に搭載して パナマ運河攻撃を夢想した特殊攻撃機です。フロートは発進の時のみに使用し、攻撃前に投下して速力を増し、帰投時は潜水艦の近くに不時着して機体は廃棄し、乗員だけ収容するコンセプトでした。
 青島の水上機は4月号で紹介した瑞雲と 今月の晴嵐、それから紫雲とありますが、どれも特徴的なスタイルをそれ以外には見えない程度によく表現していました。
初出は1960年代のことですので、当時の技術と資料ではこの程度が限界だったのではないでしょうか。
  
 晴嵐の実機は直径3.2mの円筒内に全てが収まるように設計されたため、主翼だけでなく、水平、垂直尾翼まで折りたためる設計になっていました。
 しかし、この青島の晴嵐の可動ギミックはエルロンだけで ちょっとおとなしめなのですが、機首が流線型で恰好がよかったので、人気があったと記憶しています。また、置台もついていました。
 フロートを接着せず、差し込んだだけにして ブーンと暖降下攻撃し、「フロート投下」と叫んで遊んだ記憶があります。今よく考えてみれば、当時はフロートを爆弾と勘違いしていたのかもしれません。
 




 この青島の晴嵐はタミヤ 1/72が90年代に登場するまで「唯一もの」であり、希少価値があるキットでした。
箱絵とデカールがリニューアルされたものが、後年発売されていまして、今回はそれを使用しました。

さて、キットの出来はというと、「デッサンがそれなりに」の部類で、実機に近い程度です。機首下面のエアインテークも開口されていません。リベットラインも結構ごつい感じです。そういえば水中舵もついていませんでしたね。

  1972年発行の航空情報別冊 プラモガイド54頁の評価を引用しますと 
 『珍しい機体なので、希少価値はあるだろうが、全体的に考証不足で、各部の仕上げも荒っぽい。おまけに1/72 と称しながら実測値は約1/80しかない。各部に手を加えて、根気よく修正してもあまり満足のいく仕上がりにはならず、修正の限界を思い知らされるキットである。細かいことに こだわらない人か、熱狂的な日本海軍機ファン以外は手を出さない方が無難である』
との まことに辛い評価ではありました。

 タミヤの晴嵐が出てきた今、スケールモデルとしての希少価値は無くなっているかもしれませんが、エルロンも可動しますので、細かいことにこだわらず、素直に組む分には B級プラモ工作の楽しさを堪能することができます。
 メーカーの青島さんにはこのシリーズをまた市場に流通させていただきたいところです。


箱絵 (リニューアル版)

 全体塗装は青系統に見えます。胴体の赤帯と機首下面エアインテークの黄色の塗装が スポーツ機ばりの 凄い迫力のある絵です。梶田画伯の筆になるもので、フロート支柱の足かけ、胴体下に懸架している800kg爆弾など、細かい点も非常によく書けています。
もう一回作ることがあったら、ぜひこの箱絵の塗装にしたいものです。
部品 一式 シンプルな構成です。

製作について

 この晴嵐のキット まず、大き目のやすりが必要です。幅10mmくらいの半丸ヤスリを用意して、機首接合部を入念に削って行きましょう。これだけで かなり印象が違ってきます。


機首下面のエアインテークは開口されていませんので、半身にうちに カッターナイフで削って開けておきます。
後で、プラ板で胴体側に目隠し板を貼れば、それなりに見えます。
 エルロンはダラッと垂れ下がるのも恰好が悪いので、ガンダム用の細いスプリングを切って、仕込んでおきますと、可動しても中立位置に復元するようになります。

胴体下面とと主翼の接合部には隙間ができるので、0.5mmプラ板で埋めておきます。


フロート上面接合部が型抜きの関係で尖ってしまうので、やすりでざくっと平坦に削ります。
主翼フラップと垂直尾翼ラダー部は筆者は何もしませんでしたが、気になる人は動翼らしくスジ彫りしてみて下さい。

塗装



 上面 Mrカラー 濃緑色、下面 明灰白色で筆塗で塗装しました。
フロートの赤帯は、テープでマスキングして手書きしました。
デカールは全て、他キットから流用です。
 
 尾翼のマークですが、昭和20年7月に伊400潜水艦など第1潜水隊部隊に搭載されてウルシー攻撃に片道出撃した第631海軍航空隊”神龍特別攻撃隊”機は K6-01 から始まる記号がついています。
(出撃の舞鶴港で、七尾湾で爆撃の猛訓練をしてきた晴嵐搭乗員に対して 本攻撃が当初想定の800kg爆弾による爆撃攻撃とは異なり、体当たり攻撃を前提とした特攻であることが伝えられました。搭乗員の心中いくばかりだったかと察せられます。幸い、航海途中で終戦となり、実戦に参加できませんでした。)

 B級プラモとしては命を捨てての特攻隊は余りに悲しいので横須賀の海軍航空技術廠飛行実験部として コ-35 としてみました。
 
フロートの赤帯位置をテープでマスキングする。
下塗りとして艶消し白で塗装。
赤で上塗り 
 

完成

 
 キャノピー透明度がよくありませんので、内外にクリアラッカーを塗っています。少し改善できます。フロート操舵舵はぜひ自作して追加したいところです。
ピトー管とアンテナ柱も自作して接着し、見事 完成となりました。
  中学生の時に1度作っていますが、今回 作ったのは数十年ぶりです。エルロンがダラッと下がるのも スプリングを仕込んで防止できました。これも ガンダム(パーツ)の普及のおかげです。
 B級キットにはそれなりの楽しみ方があるようです。
B級キットは、素直に作れば、大変楽しめますが、逆にスケールモデルを目指して修正しようとすると 楽しみから苦しみに変わり、完成がおぼつかなくなることは、過去の経験からよくわかりました。
 大げさにいうと、「多様性をどれだけ受け入れられるようになったか 『大人力』が試されている」といえるのかもしれません。いや、それは『子供力』かも。

 また B級コレクションに一機加わりました。
 おつきあいいただき ありがとうございました。







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Vol.59 2013 September.      www.webmodelers.com /Office webmodelers all right reserved /editor Hiromichi Taguchi 田口博通
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