映画「大脱走」で涙腺が切れそうになるのは、ジェームズ・ガーナー演ずるヘンドリックスが操縦し、ドナルド・プレゼンス演ずるコリンが同乗するドイツ軍機が、スイス目前で不時着して、目の不自由なコリンがドイツ兵に射殺されるシーンではないでしょうか。
飛行の途中には、ドイツ観光の華であるノイシュヴァンシュタイン城の脇を通過する美しいシーンもあり、二人の脱走劇の悲劇的なラストを際立たせていたかと。
原作から見ると、映画の前半と後半では、史実に対しての距離が異なり、まるで二つの映画を合わせたような感じがします。特に飛行機による脱走は、実際には盗み出そうとして果たせず、投降していますが、映画では軍用機を強奪し、あわや脱走成功まで進めています。けれど史実にはない空中大脱走の成功と失敗を加える事で、イカロスの翼
の比喩を観客に思い起こさせ、単なる脱走劇ではない、「人間」を描けたと思います。
また視覚的にも地下(トンネル)、地上面(列車、トラック、オートバイ、自転車、ボート、貨物船)、空中と、三次元をフルに活用したダイナミックスさに圧倒されます。
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さらに「コルディッツ精神」に溢れていた当時のイギリスの映画製作陣は、コルディッツ特別捕虜収容所でイギリス兵捕虜が作った脱走用グライダーを、形を変えてでも映画の中で、飛ばせてみたかったのではないでしょうか?
なおトリビアになりますが、ドナルド・プレザンスは第二次世界大戦当時、ランカスターの搭乗員で、撃墜されてドイツ軍の捕虜になっています。
さて、二人の乗った機体がBü181ベストマンなのは、皆さんご存知の事かと思います。
並列複座の小型練習機で、固定脚。操縦席からの視界は良好そうで、素人目にも 初等練習機としては手頃だったろうなと思います。 開戦直前の1939年2月に初飛行し、標準初等練習機に指定され、ドイツ占領下の オランダやチェコスロバキアでも生産され、戦後もチェコスロバキアやエジプトで生産されていますので、現在でも多くの航空博物館で目にすることが出来ます。そのうちの幾つかをご紹介させていただきます。 |