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誌上個展

ウルトラQ、他(メガハウス)   

by  Windy Wing 2013

 web-modelersまさかの怪獣特集ということで、今回はいささか「語り」が多くなっております点、先にお詫び申し上げておきます。

<ペギラが来た!>


 まずはメガハウス社の「開田裕治アートワークス」シリーズから<ペギラが来た!>のモノクロ・リペイント。
 原画はレーザー・ディスクのジャケットなのですが、これが秀逸で、「氷山/たか丸/ペギラ」の遠近感が絶妙のパースで構成されています。フィギュアもこのイラストを見事に立体化していて、半開きの眼や短めの両翼など、ウルトラ怪獣がまだ不気味だったころの特徴をよくとらえています。
 ドラマ本編としては、別にどこからか「ペギラが来た!」わけではなくて、もともと彼は南極でひとり機嫌よく遊んでいたのです。それなのに、いきなり犬をけしかけられるわ、観測用ロケットを打ち込まれるわ、温暖化で北極に引っ越しを強要されるわ、その挙げ句に爆薬仕掛けのペギミンHを口につっこまれるわ、と、災難このうえありません。
 そんな「南極の怒り」をこの一幅のジオラマから感じとっていただければ幸いです。


<ナメクジのお化け>


 続いて、同シリーズ<宇宙からの贈り物>から「ナメクジのお化け」。
 この元ネタとなるイラストはやや立体感に乏しく、初期の作品のように見受けられます。私はその出自を知らないのですが、やはり何かのジャケットなのでしょうか。一方のフィギュア本体は、吊りの加減で根本が垂れ下がった触角などもよく表現され、「殻の中でヌトッとうねっている尻尾」までのぞけるのは立体物ならではの楽しみです。
ところで、ウルトラ・シリーズの物語にはノストラダムスなど足元にも及ばない「予言」がいくつか含まれていました。この<宇宙からの贈り物>も「火星探査衛星が数枚の未確認物体の写真を送信してきたあと原因不明の通信途絶」と1988年のフォボス1/2号事件を予見しているようにも思えますし、後のウルトラマン・シリーズで「日本人宇宙飛行士の名前は『毛利博士』(「科特隊宇宙へ」)」とまで言われると、背筋が寒くさえなります。
 あるいは、当時のライターたちは本当に2020年の未来人たちと交信しながら、これらの脚本を書いていたのかもしれません。


<フランケンシュタイン対地底怪獣>


 こちらは東宝怪獣シリーズの中から<フランケンシュタイン対地底怪獣>。
 原画はやや劇画っぽいので、造型家は映画のシーンをベースにこのフィギュアをデザインしたようですが、難しい人間型モンスターの表情が豊かに再現されているのには感心します。

 本編の方は、これが大人の鑑賞に耐える最後の怪獣映画かもしれません。「三大怪獣地球最大の決戦」でモンスターが人間と幼稚な意志疎通を始めてしまったころからその凋落は始まるわけですが、相手が人造人間であれば、それもなんとか許されるでしょう。
 それにしても、「炎の森の仁王立ち」という映画史上に残る名ラストシーンよりも、唐突でもなんでも、大ダコが出てくればうれしい、という米国人の特撮文化に対する未熟さは、最新の「GODZILLA」に至るまであまり変わっていないようです。真のCool Japanを共有できるのは、やはり日本人だけです。


<U-28号事件>


<U-28号事件:1933年12月19日付Deutsche Allgemeine Zeitung紙>
 第一次大戦下の1915年、、哨戒中のドイツ海軍潜水艦U-28はフランス西海岸沖においてイギリス商船イベリアン号を発見、U-28はただちに魚雷により同船を撃沈した。そして商船沈没の数秒後、ボイラーの誘爆と思われる大爆発が水面下でおこり、船体の残骸が空中高く舞い上がった。ところがこの瞬間、同時に巨大な生物が10m以上も海面上に放り出されるのを、戦果確認を行っていた艦長以下複数の乗組員が目撃する。その後、そのまま海中へと姿を消してしまった当該対象は、後日、軍本部に提出された報告書では「ワニに似た頭部と二対のヒレ状四肢を有する全長20mの大型生物」と記録されている。敵船監視について日常的に訓練を行っている水兵たちがサメやクジラなどの他種生物や船体の残骸を誤認する可能性は低く、現時点において、本記録はモササウルス類に代表される白亜紀後期の海棲爬虫類の現存に関する重要な知見と考えられている。
 これは水中爆発の衝撃の凄まじさを知らない素人による作り話であることは自明ですが、一般に水棲未知生物はその部分しか目撃されにくい状況に対して、本話は「爆発による吹き上げで全身像を観測しえた」とした妙味において、私の大好きな海洋伝説のひとつです。
 ジオラマはこの話をモチーフに、5cmほどのお菓子のおまけで作りました。


<ウルトラ4>


 今回のリペイントにあたって、ウルトラQシリーズのブルーレイを見なおしてみましたが、人間の過誤によって自然界のバランスが崩れ、それがモンスターの形となって現れ、ささいな点からその弱点を推測し、ついにはこれを退治する、というSF王道の起承転結にあらためて感銘を覚えます。この侘び寂びは、「空を蹴破って飛び出してきたモンスターがヒーロー光線でこっぱみじん」という後世のキャラクターには求めるべくもないでしょう。  開田裕治氏の画集「アートワークス」はこの25分間のドラマを一枚の構図の中に埋め込んでしまう手腕において、一級の作品群であることに疑いがありません。「ペギラ」「ガラダマモンスター」、そして「バルンガ」と、もしもご興味があれば、図書館で一度、氏の作品集をご覧になられてはいかがでしょうか。ひょうきんキャラだとばかり思っていたカネゴンに、あるいはちょっとゾッとさせられるかもしれません。


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Vol.73 2014 september.   www.webmodelers.com /Office webmodelers all right reserved /
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