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誌上個展

震電 (タミヤ 1/72)を作る
Shinden (Tamiya 1/72)

by  田口博通 Hiromichi Taguchi




 タミヤから1960年代にリリースされた1/72日本機シリーズには 零戦32型、雷電、震電、2式ショウキ、4式ハヤテがありました。その中での一番人気は、やはりエンテ翼を持ち、プッシャー式プロペラの特異なスタイルの震電でした。 この人気の背景には、当時 少年キングで連載されていた「忍者部隊月光」の影響もあったことと思います。  このタミヤの72震電はとうの昔に絶版になっていますが、webモデラーズ誌でも話題に上ることが多い人気機です。 誌上の空撮写真作品を見るたびに 作りたいと憬れ続けていました。今回の「絶版キットを作ろう」の特集をモチベーションに、一念発起。押入れの段ボール箱の底に保存していたキットを掘り出して 作ることにしました。




 キットを購入したのは 忘れるくらい昔でしたが、デカールは別にしてナカバヤシフエルアルバムの中に密閉で保存していたので、幸運にも生きていました。我ながら、物持ちの良いことに感心します。
 
 1960年代といえば半世紀前いわば骨董品的な昭和の古典キットですが、今時のキットに比べると、表面モールドが凝っていて、パネルラインは凹彫りで、リベットは凸でしっかりモールドされています。実感たっぷりで、タミヤの当時の設計者のこの震電キットに込めた思いが伝わってくるようです。
 逆に、この50年の間に日本のスケールプラモデルは果たして進歩したのか? 素朴な疑問が湧きます。
 完成してみると、全体の形はイメージの中にある震電そのもので、しっかりしています。機体表面のリベットなど金属感が素晴らしいし、前脚、主脚とも少し前傾気味の俊敏そうな3点姿勢が魅力的です。個人的には大満足となりました。

製作

 過去の経験からわかっているのは、側面の空気取り入れ口から筒抜けになってしまうことです。 下の写真は 忘れるくらい昔に 胴体までで途中放置したものです。側面の空気取り入れ口から内部が筒抜けで見えています。




 というわけで、今回はプラ板を使い、側面の空気取り入れ口から筒抜けに見えないようにフタをします。
コクピットはパイロットがまたがる横棒が一本あるのみで、床板もありませんが、これは当時のキットの標準の構成です。パイロットを乗せれば、内部は見える広さではないので、そのままでパスしました。
 フラップは可動にしようと欲を出して、キットの主翼上面の深いスジ彫りに従い、上面部も切り取ったのですが、これは 間違いでした。造形村の1/32キットを見ると、下面だけが降りる普通のフラップでした。




 前脚式で、かつ全ての脚が前方に傾いているので、しりもちをつかないように、機首にはオモリを仕込んでおきます。胴体と主翼は合わせ目は仮組をしながら、すり合わせを行い、それでも残った隙間はパテで埋めます。  エンテ翼、垂直尾翼は後部を薄く削り、また、接着部のすり合わせを調整します。2枚の垂直尾翼がぴしっと決まれば、震電らしくなり、そこが最大のポイントだと思います。

 補助空気取り入れ口の開口部も薄く削っておきます。また、カウリング前部に小さい空気取り入れ口があるので、彫刻刀で取り入れ口に見えるように慎重に削ります。これで、ほぼ形になりました。  この後、接着面の成形で消えたパネルラインとリベットをカッターナイフと針先で、おおげさにならない程度に再現し、塗装に臨みます。


塗装

 1960年代リリースのいにしえの絶版キットにエアブラシ塗装というのも雰囲気が似つかわしくないので、ここは筆塗りで行きたいところです。
 1960年代の吹き付けといえば、手押しフマキラー式ぐらいで、郷里四国ではエアブラシ作品を見ることはありませんでしたから。ちまたでヤング88が話題になったのも1970年代のことだったと記憶しています。

 筆塗りには色々な方法があると思いますが、ここでは 筆者が使っている筆塗りの道具一式と方法を ご参考に紹介します。 

 「塗料パレット」には使い捨て方式の小さい紙パレット(10cm*14.8cm) を画材店で購入して使っていますが、30シートで180円です。今まで試した中では最もコストパフォーマンスが良いようです。
 
 Mrカラーのシンナーはホームセンターで購入した「洗瓶」に移し替えて使用しています。その左に写っている万年製金属皿に少し出して使います。
 
  筆は画材店で売っている安価な面相筆大(360円くらい)を使用。毛先が2cmあり塗料の含みが良くて使い易いようです。高価な面相筆を使う必要はなく、安価なものでも毛先の腰が強いもので、毛先が2cmくらいあれば、大丈夫です。

 まず、胴体下面の塗装ですが、MrカラーNo.35 明灰色(日本機下面色)は半光沢なので、ビンにNo.30艶消し剤を加えて、艶消しを強くしてから使います。 よくかき混ぜてから、パレットの上に少量出します。
 面相筆の先を金属皿のシンナーで湿らせてから、塗料に筆先をつけると 常に若干薄めの塗料を使うことができます。
  
 それを、胴体下面に塗って行きます。筆者の最近の筆塗り方法は、若干薄めの塗料を面相筆で、右斜め、乾燥、左斜め、乾燥、横、乾燥、縦、乾燥と塗り重ねて行く方法です。
 また、パレット上の塗料は、シンナーの蒸発に伴い、少しずつ表面が乾燥して硬くなりますので、時々、筆先のシンナーを加えて かき混ぜてやるとよいでしょう。





 面相筆の筆運びは まず1回目は、下の写真のように  「右斜め方向」に パネルごとを目安に塗って行きます。 1/72でしたら、5分くらいで1回目完了です。




 下は1回目が塗り終わった所ですが、「ムラ」が残っていても気にしないようにします。これで、しっかりと乾燥させます。 筆者はここでヘアードライヤーを使って、強制的にブワーっと乾燥させ、時間短縮を計っています。




 2回目は先ほどと直角の「左斜め方向」に面相筆で同様に塗装します。
1回目後の乾燥が不充分だと、先に塗った1回目の塗料がまた溶けて、掘れてしまうので、しっかりと乾燥させてから2回目を塗るようにするのがコツです。
2回目後に、また乾燥させます。下の写真のように、まだ少し 「ムラ」が残っているはずです。




 3回目は面相筆で機体横方向に塗り、また乾燥させます。
 4回目は縦方向(気流が流れる方向)に仕上げのつもりで、少し丁寧に筆先を使って塗り上げます。これで乾燥させると、下の写真のように、ほぼ「ムラ無く」塗り上げられると思います。
 この段階でまだ下地が見えているようであれば、もう一回 塗り重ねましょう。
 一般的に筆ムラと言われるものは、実は濃度のムラで、塗り重ねが足らなくて、下地の色が透けて見えている場合がほとんどです。
 面相筆の筆塗りでは 筆のタッチ(筆跡)はほとんど残りませんし、仕上げに艶消しクリアをエアブラシしてしまうと、逆に筆跡を残すのは難しいのが実情です。
 作者が「筆塗りだよ」と言わない限り、せっかくの筆塗の労作を 見た人に気づいてもらえない悲劇?もあるようです。




 上面色はMrカラーのNo.15濃緑色(日本海軍機色 半艶消し)に艶消し剤を加え、艶消しを少し強くしたものを、面相筆で下面と同様に 右斜め、左斜め、横、縦と 乾かしては、方向を変えて塗って行きます。
 さて、上下色の境界の「ぼかし」ですが、筆者は2色をパレットの上で混ぜて、筆先のシンナーで薄く溶いたものを境界線部分に慎重に塗り、ぼかしています。近くから遠目から見ると、やわらかい感じに境界線が見える程度で、いいと思います。
 主翼前縁の黄色警戒色は、細切りにしたマスキングテープでマスキング後、発色を良くするために、まず、下面色(明灰色)で下塗りします。
 筆先だけで直線に塗り分けるのはプロの日本画家だけが可能な技ですので、細切りにしたマスキングテープでマスキングするのが我々一般人には近道です。





 その後、黄橙色を塗り重ねると発色も良くなります。乾燥後、マスキングテープを剥がして、はみ出ている部分は面相筆で丁寧に修正タッチアップしておきます。 面倒でもタッチアップをしっかりしておくと、見栄えが全然違ってくるようです。




 1日かけて塗装を完全に乾燥させた後、薄く溶いた油彩のローアンバーで軽くウエザリングを行い、ふき取ります。
 その後、デカールを貼りますが、幸運にもデカールはカビも生えず生きていましたが、糊はさすがに弱くなってました。ここで 最近 発売になった「タミヤのデカールのり」が登場、快適に使えました。
 デカールが落ち着いたら、デカールの周囲の透明部分をカミソリでトリミングします。古いデカールは透明部が経時変化で黄変していることが多く、このトリミングをすると、ぐっと見栄えが良くなります。
 デカール保護のために 最後に 艶消しクリアを吹いておくと 塗装表面の艶ムラも消え、一石二丁です。
もっとも、ここで 艶消しクリアを吹きすぎると、筆のタッチが消えてしまいます。
 それで、ちょいとあざといですが、わざと筆ムラを見えるように残すために、艶消しクリアを吹かないという手もあります。
 




 プロペラはパイロット後部にありますので、裏面に防眩の黒塗装をする必要はなく、両面とも暗褐色のはずです。 
 脚の角度を慎重につけ、搭乗員を乗せ、キャノピーをかぶせれば見事完成です。海軍パイロットの憧れの白いマフラーは忘れずに塗っておくと、夢も広がります。


完成

 60年代のキットには、今時のキットには忘れられたリベットなど表面テクスチャーだけでなく、全体のフォルムにも優れたものが多いと感じます。 それが、絶版となっても 長く語り継がれ、愛されている理由でしょう。
 このタミヤの震電、今でも、魅力いっぱい、アップの写真にも耐えると思いますが、いかがでしょうか
 買ってもなかなか手をつけないうちに、いつのまにか絶版になっている なんてキットが家の中に多くなりました。 
タミヤ 1/72日本機シリーズ、タミヤ1/50日本機シリーズ、いずれも、買った頃の懐かしい心象風景が刻み込まれています。
ああ、いつかは 完成させて 並べたいものです。






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Vol.82 2015 June.   www.webmodelers.com /Office webmodelers all right reserved /  
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