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誌上個展

<日本航空史>飛燕の四角い胴体

  by 加藤 寛之
プラモデル コラム

  飛燕とは、なんと読者ウケを狙ったテーマだろうか。ゆえに、航空史というよりはプラモ中心で書くことになる。飛燕の模型というと液冷エンジンを装備した機首の形とその周辺がウリであることは間違いないけれども、ここでは胴体の後ろ半分の話になる。
 土井武夫氏が設計に関わった単座戦闘機に共通した特長は、四角い胴体断面を基本にしているということだ。つまり、適度な丸みを付けてはいるが液冷エンジンを基本にした四角い胴体で、それより上の部分で風防前方へは操縦席の高さを確保するために持ち上げた分の整流と斜め前方への視界を確保するために半円形にした覆いをのせ、風防背後には比較的単純な整流覆いを載せた形になっている。これはきっと、ドイツ人のフォークト技師の設計哲学が土井氏に移植されたのだと思う。WW1が終わると優秀な設計者でも仕事がなくなってしまい、それが日本への技術移転につながって、川崎ではドイツ流の四角い胴体になったということだ。土井氏の個性は、細長い翼にこそある。




 さてそれでは、あなたならば飛燕の胴体の側面をどのように膨らめて、どのように絞り込むだろうか。胴体は四角い断面形の液例エンジンを前に付けた形から始まるのだから、小さな全面面積を活かして無駄をなくせば胴体も四角いに決まっている。ここで前方の幅と大まかな断面形が決まる。先端はスピンナーを付けて整流したいので四角から丸く絞るだろう。これも当然。エンジン後方は、人の肩幅と手の動きを考えると、その寸法が胴体の幅になる。あとは重心位置に近いところに重量物や燃料タンクを置くために幅はそのままで必要な長さを確保、そこから後ろは飛行安定性に必要な長さ終わるように絞るだろう。後胴を丸い断面にすることも出来るが、平らな側面を活かせば方向安定に寄与するだけ垂直尾翼を助けて胴体を短縮、軽量化もできそうだし、おそらく失速からの回復特性も良くなるんじゃないかと思う。飛燕の胴体側面はこんな形になっているのだと思う。  結果、どうなるか。操縦席から後方への胴体断面形は、側面が途中でプニョっと膨らむことはない。例えば『世界の傑作機』「陸軍三式戦闘機「飛燕」」№17(1989年)p.43 の逆立ちした機体の胴体側面を見てほしい。膨らんでいないことが明瞭に分る。P.35の上写真では、パネルやリベットラインでそれが良く分る。P.30でも分る。ところが、操縦席のやや後部から日の丸の前付近で胴体が膨らんでいる飛燕のプラモデルは実に多い。完成品の胴体中央あたりの左右を指で挟んで、ス~と後部へ滑らせれば簡単に分る。ただし、展示会などで勝手に触るのはマズイし、そんなチェックに使われたら製作者の機嫌を損ねること間違いない。まあ、慎重に。



 では、なぜ膨らんでいるキットが多いのか。現代であればソフトウェアの問題かもしれないが、膨らんで見える写真も多いことが分る。同『世界の傑作機』p.10やp.21上、p.23下写真はどうだろうか。これらは膨らんでいるように見える。「飛燕の胴体側面は、日の丸の前付近で膨らんでいる」という印象がある(かも知れない)という事だろう。それならば、商品としては膨らめておくのも悪くない。プラモデルは実機の縮尺模型ではあるが、似顔絵的要素もある。どう表現するのかが、その会社の製品の個性なのだから、多少の誇張は好ましいことである。あとは購入者、つまりモデラーがそれを好意的に受け入れるのか、避けたいと思うのかということだと思う。
 掲載写真はいずれも購入したもので、ボケボケのカラー2枚は「犬山ラインパーク航空博」のものらしく、昭和54年10月13日のメモがある。現存のⅡ型改には、こんな塗装のときもあった。モノクロは原版の出所不明の新しいもので、廉価だから買った。胴体側面の影でスッキリとした絞りの形を見てほしい。




 蛇足1:主翼フィレットの胴体と翼面のつながりの形は、プラモデルでほとんど気にされていない部分だと思う。上で示したP.35の上写真は、その曲面の流れがわりと良く分る。だれも気にしなので、どっちでもイイんだけど。
 蛇足2:実戦時期の写真をみると、プロペラは上2枚のYの字型で駐機している。これが標準位置とのこと。ところがキ60やキ61の試作機では下に2枚の位置が目立つ。早い時期のどこかで、標準となるプロペラ駐機位置が変わったのかもしれない。


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