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創刊10周年記念アンケート 私の(思い出の)模型店ベスト10

<思い出の模型店~Kさんのこと>

by Windy Wing 2013

 私はあまり行きつけの店を持った経験がないので、今年の「ベスト10」の趣旨からはいささか逸脱してしまいますが、以下は今はなき模型店にまつわる小話です。

 昔、大阪にマックス・ホビーという模型店があった。地下鉄西九条の高架駅を降りるとすぐ目の前にある、間口三間ほどの小さな店だ。私は近くに住んでいたわけではなく、年齢も幼かったので、そう頻繁に通うことができず、年に2,3回行くのがせいぜいのことだった。
 だが、この小さな店は訪れるたびに私の夢をすべてかなえてくれた。近隣のおもちゃ屋では絶対に手に入らないフロッグ1/72の新製品Ta152Hも、行けば当たり前のようにぶらさがっていた。通信販売で子供には敷居の高かったマニア1/72の九七戦も段ボールボックスのまま積まれて、予約もしていないのに普通に分けてくれた。ある時などは「さすがにこれは売り物やないんやけどな」と言って、レベルIL-38バイソンの中身も見せてくれた。
 その店主をKさんという。当時、レディバード・クラブというプラモ愛好会の世話をしていた人だ。このクラブはエアブラシよりリアルにモットリングを筆塗りするSaiさん、キャノピー・ヒートプレスでは右に出る者のないSakさん、そしてTanさん、Satさん、Eriさん、と、今思い出しても体が震えるような関西きっての名人上手が居並ぶ神集団だったが、その達人たちの中にあってなお、Kさんは一目置かれている、という噂は聞いていた。ただ、稼業がお忙しいせいか、寡作な方で、実際にKさんの作品を拝見する機会にはなかなか恵まれなかった。
 そんなある日、久しぶりに訪れると、運よくKさんが店でオーロラ1/48のアルバトロスDⅢを作っていた。Kさんはキットから頭を上げずに、仁王様のような目だけをギョロッと向けて「いらっしゃーい」と言った。 DⅢは機体の木目塗装を終えて、これからまさに胴体に2本のストライプを入れようか、というところだった。私も、ストライプというのはテープできっちりとマスキングをして塗料がはみ出ないように注意せよ、という程度の知識を持ち始めたころだったので、その胴体に描かれるであろう幅3mmほどの白と青の帯のためにKさんは何をどのように下準備するのか、その工程を興味津々で見守った。そしていよいよ白と青の塗料が小皿に用意された時に「こういう機体にはやっぱりテープは細めの方がいいんですか?」と尋ねると、「テープ? そんなもん、使わへんで」というなり、細筆に白の塗料をつけて、グルッと胴体を一回り、さらに同じように青で一回り、まさに一瞬で円錐形の胴体に2本の帯を画き上げた。

 あれから四十五年、私は当時のKさんよりも年上となり、キットや筆材も比べものにならないほど進歩したが、それでも今も、私はあの時のKさんの背中を追いかけている。
(このKさんの作品は航空ファン1973年10月号に掲載されています)


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