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Lockheed S-3B “Viking”(Italeri 1/48)

by Kiyoshi Iwama(ひやめし会)

Lockheed S-3B “Viking”(Italeri 1/48) Box Artより


 横須賀を母港とした空母ミッドウェイが退役し、交替に配備されたのが空母インディペンデンスでした。空母の大型化に伴い空母航空団の編成も更新され、厚木を本拠地とするCVW-5の主役もF-14Aを装備する、VF-154 “Black Knights”とVF-21 “Free Lancers”に交代しました。このとき新たに追加されたのが、対潜水艦戦(ASW)を主任務とするVS-21”Vikings”のS-3B ”Viking”でした。S-3も既に退役し、飛行する姿を目にすることはできなくなりましたが、TF34の大口径ターボファンエンジンが奏でる独特のエンジン音と共に、その愛嬌ある姿は記憶に焼き付けられています。今回はそんなバイキングを作りたくなり、イタレリの1/48キットを組み立ててみました。

S-3B “Viking” Italeri (1/48)

実機紹介

 S-3 “Viking”の誕生は1966年に遡ります。米海軍内では老巧化した当時の艦載用対潜哨戒機グラマンS-2トラッカーに替わる新しい機材について議論が交わされており、その後継機VSXの仕様がまとまりRFP(提案要求)が発出されたのが、この年の冬のことでした。RFPに対してはマクダネ社を中心とするチームとロッキード社を中心とする2つのチームが提案を競い、後者が選定されました。ロッキード社と組んだのはLTV社のヴォート部門とデジタル計算機システムで有名なユニバック社です。ロッキード社は、P-2、P-3の陸上型対潜哨戒機の開発生産実績があるものの艦載機の経験はなく、それをヴォート社がサポートし、P-3のシステムで経験のあるユニバックがウェポンシステムをサポートしたのです。確かにS-3の足回りを見ると既存機体のものとよく似ており、主脚はF-8 クルーセイダーの脚を強化したもの、また前脚はA-7 コルセアIIのものが流用されています。またASWミッションを担うデジタルコンピュータはP-3オライオンで実績のあるUnivac1831デジタルコンピュータが使用され、ウェポンシステムやマンマシーン・インターフェースのコアとなりました。

 S-3の試作1号機(BuNo.157992)は、1971年11月8日にロッキード社バーバンク工場でロールアウトし、翌1972年1月21日にパームデールで初飛行に成功しています。飛行試験と評価には8機の試作機YS-3Aが投入され、1972年5月から約2年の歳月を費やし、1974年3月に大変満足のいく結果を残して試験評価を終了しました。試験評価と並行して進められていたS-3Aの量産も順調に推移し、1974年2月には量産初号機が太平洋艦隊のS-3転換飛行隊となるVS-41 “Sharmrocks”に配備され、その後同年末から1977年の年末にかけて艦隊運用飛行隊への配備が進められ、太平洋、大西洋の両艦隊にそれぞれ5個飛行隊が編成されます。バイキングが本格的に運用されるようになると、空母部隊のASW能力はS-2時代に比べ格段にグレードアップしました。しかし一方でソ連原潜の静粛性が向上し、また破壊能力も強化され、加えて水上部隊の脅威も増大することとなり、対水上戦能力に不足するS-3Aに対し、早くもアビオニクスや搭載兵装を大幅に能力向上させるプロジェクトが立ち上げられます。能力向上機には後にS-3Bの呼称が与えられますが、1983年には2機のS-3A(BuNo.159742 & 160591) がB型仕様に改修され、試験評価が進められました。評価の結果は上々で、その後1987年から実戦部隊の機体改修が始まり、合計119機のS-3AがB型に改修され艦隊飛行隊へと配備されていきました。主たる改良点は、ESMの領域拡大やレーダ信号処理能力の向上などアビオニクスの改良と、AGM-84 ハプーンミサイルやAGM-65Fマーベリックミサイル等の搭載兵装の拡大で、特にAN/APS-137レーダに付与されたISAR(逆合成開口レーダ)機能は、水上艦艇の画像化により全天候下での艦種判定や敵・味方特定を容易にしています。

 しかしその後世界情勢が大きく変化します。1989年にベルリンの壁が崩壊につづき、1991年にはソ連邦が瓦解すると冷戦構造が一気に崩れ、ソ連潜水艦の脅威も無くなったかに見えました。これは米海軍の対潜作戦にも少なからず影響を与え、バイキングにも余波が押し寄せます。バイキングの任務もASW主体から、対水上艦戦闘、機雷戦、電子偵察、空中給油、捜索救難と拡大し、多任務機として使用されるようになりました。そして1999年にはS-3BからMADやソノブイが外されることになり、対戦機から海洋制圧機へと転身します。さらに2004年には海軍がバイキングの引退時期を決定したことにより、2009年1月29日、バイキング最後の運用部隊VS-22 “Checkmates”が解隊され、S-3バイキングの35年にわたる米海軍での任務に終止符が打たれたのです。

S-3B “Viking” Italeri (1/48)

製作

 イタレリのキットではS-3A/Bとなっていますが、もとは1980年代にESCIからリリースされたS-3Aのキットに新しいデカールを付けたものです。キットには3飛行隊分のデカールが付属していましたが、作例では別売のCAMデカールを使用し、VS-33 “SCREWBIRDS“ のCAG機に仕上げました。CAG機と言っても湾岸戦争時代で、垂直尾翼のマーキングはカラーですが全体的にはライトゴーストグレイ一色のロービジ塗装です。最初はB型の後期型にするつもりでしたが、Wolfpack Designから発売されていたA/A42-R1 給油ポッド 等のレジンパーツが入手できず、MADブームやソノブイ・シューターを取り外す前の前期型で製作しています。

S-3B “Viking” Italeri (1/48)



 ではキットを見ていきます。まずは大きいという印象です。本機は翌幅が大きいのでキットもそれなりの大きさで、組み上がると全幅は40㎝を超え、全長も30㎝を超える大きさとなります。パーツの方は、太目ではありますがパネルラインも凹で綺麗に彫りこまれています。パーツの合いもまずまずです。多少の段差が出るところもありますが、これだけ大きいキットなら仕方ありません。すり合わせながら組み立てていきます。キャノピーはスモークのクリアでこのまま使用できます。MADブームと空中給油ブームが可動になっていますが、MADブームだけ可動にし、給油ブームは取り付けずにカバーで塞いでしまうことにしました。主翼と胴体の接合部は多少すり合わせが必要になりそうですので、ハンドリングが大変ですが、胴体と主翼を接合してから塗装することにしました。以下、各部の工作過程のポイントについて紹介していきます。


1. コクピット
 まずコクピットの組み立てですが、キットは主計器盤とサイドコンソール、オーバーヘッドコンソールをデカールで仕上げるようになっています。スモークのウィンドウを通して見るにはこれで十分かもしれませんが、Eduardのカラーエッチングパーツを使って計器盤類やエジェクションシートを作りこみました。戦闘機のコクピットと違い広いスペースに取り付けるものであまり苦労なく組み込めました。
(写真1)がエッチングパーツの計器盤とコントロール・スティックを組み込んだコクピットです。
(写真2)がオーバーヘッドコンソール、
(写真3)がシートベルトを取り付けたエジェクションシートです。シート上部の補強バーはプラ棒で自作しました。
シートをコクピットのパーツに組み込むと、(写真4)のようになります。

(写真1) コクピット
(写真2) オーバーヘッドコンソール

     
(写真3) エジェクションシート

(写真4) シートを組み込んだコクピット



2. MADブーム&アレスティングフックASSY
 次に胴体内に入れるのは、胴体後部に取り付けるMADブームとアレスティングフックのASSYです。アレスティングフックはライトゴーストグレイ(FS36375)とダークゴーストグレイ(FS36320)の濃淡グレイに塗り分け、MADブームと共にハウジングに組み込みます。(写真5)がこのASSYです。

(写真5) MADブーム&アレスティングフックASSY


3. 胴体と主翼の組み立て
 胴体の左右パーツを接合する前に作業がいくつかあります。コクピット後方のTACO/SENSO席の窓を内側から接着しなければならないのですが、外面塗装の時のマスキングが厄介なので窓の周囲(外面)を予め機体外面色であるライトゴーストグレイに塗っておきます。
そしてコクピットとMADブーム&アレスティングフックASSYを胴体に取り付けます。(写真7)
またこのキットには尻もち防止の錘が必要で、インスト指定の20g+の鉛板の錘を(写真8)の様に入れました。

(写真7) コクピットとMADブーム&アレスティングフックASSYを取り付けた右胴体パーツ


(写真8) 尻もち防止の錘


 この後胴体左右のパーツを接着し、その後尾部底面のソノブイ射出口のモールドされたパネルを接着するのですが、穴が浅いので接着前にドリルで穴を開けておきました。接着後の状態が(写真9)です。

(写真9) ソノブイ射出口


 この後全体を整形し、主翼を取り付けます。主翼の写真はありませんが、上下に貼り付けるだけの簡単な構造です。長い主翼ですので胴体との接着にあたってはしっかりと固定することです。整形にあたって注意したことは、垂直尾翼付け根の冷却空気取り入れ口の整形と胴体や主翼にモールドされているアンテナがA型仕様となっているので、不必要なもの、位置の違っているものを削り取る、そして主翼と胴体の接合部には若干段差が生じるのでしっかり整形し、消えたモールドラインを削り直すことでした。


4. エンジン
 TF34ターボファンエンジンは直径も大きく目立つ存在です。キットではファン部カウリング、パイロンと一体のタービン部カウリング、そしてファンの前段と後段、排気タービンから構成され、少ない部品点数でうまく形状を表現しています。注意するのはファンカウリング部の左右接合部分です。ファンカウリング内部は後で塗装ができないので仮組で合わせ目をよく整形してからインシグニアホワイト(FS17875)で塗装しておきます。前後段のファンは銀に少し焼鉄色を混ぜ塗装しました。
内部を塗装したカウリングに前後段ファンを接着状態が(写真10)です。タービン部のカウリング内側と排気タービンは焼鉄色で塗装しました。
(写真11)が排気タービンをタービン部カウリング内へ接着したものです。

(写真10) エンジンファン部

(写真11) エンジンタービン部

 塗装後デカールを貼って完成したエンジンポッドが(写真12)です。外面のライトゴーストグレイがファンカウリング内面に入り込んでいるのが分かります。この部分は外側からマスキングをして塗装しています。
(写真12) 完成したエンジンポッド


5. 塗装とデカール貼り付け
 機体の色は前述したように全面ライトゴーストグレイで、脚収納庫、爆弾倉、乗員昇降口がインシグニアホワイトです。またウィンドシールド全面のグレアシールド塗装とウォークウェイ、そして下面のブレードアンテナの先端はダークゴーストグレイで塗装しました。そしてデカールを貼れば、機体はほぼ出来上がりです。
(写真13)がデカールを貼り終えた機体上面、(写真14)が下面です。

(写真13) デカールを貼り終えた機体上面


(写真14) デカールを貼り終えた機体下面


 ここで少し捕捉します。爆弾倉は開状態として魚雷を搭載することにして少し手を加えました。上の写真でも少し見えますがエッチングパーツとプラ板で搭載ラックと倉内の電気品を作って取り付けました。(写真15)

(写真15) 爆弾倉



6. その他部品
 まず前脚ですが、ほとんどキットのままですが前照灯がついてなかったので自作して追加しました。(写真16)
 また昇降口のステップですが、滑り止めを追加しています。これは1000番の耐水ペーパーを利用しました。(写真17)、
 次に爆弾倉の扉ですが、エッチングパーツとプラ棒でヒンジの部分を追加しました。(写真18)
 (写真19)が主翼端に取り付けるESMアンテナポッドです。側面に航法灯がついているので左舷側をクリアレッド、右舷側をクリアブルーで塗っています。
 最後にウェポンですが、主翼に取り付けるAGM-84 ハプーンミサイル(写真20)と爆弾槽内に取り付けるMk46対潜魚雷です。(写真21)
ハプーンの方はロケットモータのノズルを追加し、またMk46魚雷は訓練弾の塗装にしました。


(写真16) 前脚

(写真17) 昇降口ステップ

(写真18) 爆弾倉扉 

(写真19) 翼端ESMポッド

(写真20) AGM-84 ハプーンミサイル

(写真21) Mk46 対潜魚雷


7. 最終組み立てと仕上げ
 塗装とデカールを貼り終えた機体やウェポン類は艶消しのスーパークリアでオーバーコートし、適度に墨入れと汚しを施します。
 その後上記部品等を組付けていきました。(写真22)はその途中の写真ですが、主脚や主脚扉を取り付け、魚雷を組み込んだ状態です。

(写真22) 魚雷を組み込んだ状態



そして(写真23~26)が完成機の写真です。

(写真23)  完成したS-3B “Viking”


(写真24)  完成したS-3B “Viking”


(写真25)  完成したS-3B “Viking”


(写真26)  完成したS-3B “Viking”


  元をただすと古いESCIのキットですが、完成した作品を見ていると現在でも十分通用するように思います。大きなキットの割に適当な部品点数でそれほどストレスなく組み立てることができました。完成してみると大きくて置き場に困るのが難点ですが、ハイビジのもう少し派手なバイキングも作ってみたいと思うようになりました。



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Vol.165 2022 May.   www.webmodelers.com /Office webmodelers all right reserved /  
           editor Hiromichi Taguchi 田口博通 /無断転載を禁ず  リンクフリー
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