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誌上個展

<日本航空史> アンサルドSVA 9

  by 加藤 寛之
プラモデル コラム

 今回は、後胴の断面形が三角形が特徴の「ズバ」(スバとも書く)とよばれる複葉機のお話。
 2021年12月に航空自衛隊の浜松広報館へ行った。9年ぶりで展示機がだいぶ入れ替わっていたが、イタリアのマークをつけた複葉機SVA-9は展示が続いていた。実機とかモックアップとか風洞実験模型とか、いずれにしても実物が並んでいるなかでSVA-9に違和感があったので、何気なく解説担当の方に「あれはレプリカですよね?」と聞いたら「ホンモノです、自衛隊は本物を持っていますから」と話してくれた。
 水嶋英治『航空博物館とは何か?』(星林社、1993年)に、陸軍アンサルドSVA九複葉機として次の記述がある。「海外からの最初の訪日機。世界初の欧亜連絡機としてイタリア大使館から、日本陸軍に寄贈された。浜松南基地に現在も保存されている」。この記述は、日本陸軍に寄贈された機体と浜松広報館の機体が同一と読める。



 斎藤茂太『飛行機とともに』(中公新書301、1975年)によれば、SVA 9が日本に展示してある理由は1920年(大正9年)5月31日にローマを出発したフェラリン、マシェロ両中尉の操縦するSVA-9の2機が代々木に到着したことによる。出発は10機ほどだったが次々に落伍、両機も予定外の着陸や代替機への乗り換えなどの結果の到着だった。当該書には出発から106日目とある。「2機のうち1機は日本側に寄贈されて、その後ずーっと東京九段靖国神社の遊就館にかざられてあったが、第二次大戦の敗戦の混乱とともに行方がわからなくなった。しかし、われわれは、昭和45年大阪万国博のイタリア館前の庭に展示されていたなつかしいズバ機に再会することができたのである。このズバ機は復元機で、万博終了後日本に寄贈されて、いまは航空自衛隊浜松基地に保存されているはずだ」とある。
野沢正編『日本航空機総集 第6巻 輸入機篇』(出版協同社、1972年)には、寄贈から「その直後京都で開催された空中文明博覧会に出品されたあと、ながいあいだ九段の遊就館に保管展示されていたが、のちに日本飛行学校の教材として払い下げられた。昭和45年の万博には、本機の復元機が、出陳された」とある。



 木村秀政『飛行機の本』(新潮社ポケット・ライブラリ、1962年)に107日間(※日本航空協会『日本航空史 明治・大正編』(1956年)は107日とある)かかった理由が書いてあり、「よく晴れた日―彼等が飛ぶことができたのは、そういう日だけだった」「当時は、地図を頼りに、自分の飛んでいるコースを肉眼でたしかめながら飛ぶほかなかった。107日もかかったのは、飛行機のスピードがおそかったというよりも、飛べる機会を待つ日数が多かったためである」と。実飛行時間は94時間40分とある。17年後の1937年(昭和12年)の神風号による東京~ロンドンの94時間17分56秒は途中で着陸しての睡眠や給油時間も含んでいて、実飛行時間は51時間19分23秒。そのまた17年後の航空界はレシプロからジェットの時代へと移行する時代だった。木村秀政氏はその変化を楽しんだようで、上掲書にローマから東京まで「与圧のきいた乗心地のよい客室の中で、南欧産のブドウ酒を味わったり、本を読んだりしながら、プロペラ機で35ないし40時間、ジェット機なら20時間で」と書いている。木村氏はプロペラ機とジェット機の両方を体験したようだが、ひたすらの高速化はここまで。その後の民間航空界が大量輸送へと向かうことになったことは、本「日本航空史」でもふれたことだ。



 掲載は、浜松広報館のSVA 9展示機と、来日時に発行された彩色絵葉書。彩色絵葉書は白黒写真を原版にして、メモしてきた色を基本にして色版をおこしてカラー写真みたいに刷ったものでだから、実機と色が違っていても仕方がないものなのだ。2枚は別印刷とみられるもので、だいぶ色が違う。ただし現在ある浜松広報館の展示機の色が来日機と同じかどうかもよく分からないので、再現度はともに程度の問題だろう。ちなみに大正時代の寄贈は12971号のフェラリン機だとか。



 私は、浜松広報館にあるSVA-9はレプリカとみている。1970年の大阪万博から50年が経過して、いつしかホンモノになったのではないかと、私は明るい気持ちでいる。展示機にしても絵葉書にしても、それで大飛行の時代とイタリアの友好を感じることの方がずっと大切だ。


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