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特集 イギリス

 SEPECAT Jaguar GR.Mk1A 製作記(Hasegawa 1/72)

by Kiyoshi Iwama(ひやめし会)


SEPECAT Jaguar GR.Mk1/A (1/72) Hasegawa Box Artより

 調べものをしていたときのこと、航空機イラストレイターの小池繁夫さんの公式サイト(https://koikeshigeo.com/)に偶然出会いました。富士重工のカレンダーを長年手掛けられてこられましたが、私が氏を知ったのはハセガワのボックスアートからでした。その画に魅せられて購入したハセガワのキットもありました。画集“Flyover”の第1作も本棚に並んでいます。既に2019年に引退されたとのことで、新しい作品にお目にかかれないのは残念です。このサイトには小池さんが自分について語ったインタビュー記事などが掲載されており興味深く読みました。イラストレイターとして航空機関係に関わった第一作は、第1回日本航空宇宙ショーのポスターだったそうです。その後数多くの航空アートが産み出されるわけですが、数ある小池さんの作品の中でも、今回の製作テーマにしたハセガワの“SEPECAT Jaguar GR.Mk1/A”のボックスアートはお気に入りの一つです。トップの画がそうですが、この迫力ある構図はどのようにして生み出されるのでしょうね。今月のテーマの一つ、”イギリス“に合わせ、昨年完成させた英国空軍のJaguar GR.Mk1A (1/72)を紹介します。

実機紹介

 1960年代の初め、英空軍はFolland GnatとHawker Hunterの後継となる高等練習機を、また仏空軍はFouga MagisterとMirage IIIとの中間的存在で、将来的には戦術攻撃機として使用できる機体を模索していました。両者はお互いの案を持ち寄り一つの機体に集約できるか検討を進め、1965年5月17日に共同開発の基本合意が締結されました。こうして軍用機としては英仏初の共同開発プロジェクトがスタートしたのですが、当初計画は二転三転します。最終的にはBreguetの戦術機案をベースにJaguarの基本形態が定まり、1966年5月にはJaguarの製造会社”SEPECAT”がフランスに設立されたのです。

設計はBreguetにBACが協力する形で進められました。 “阻止”と“近接支援”が主任務のウェポンキャリアーとしての最適性や低空での高速安定性を求め、後退角40°の高翼式の主翼が選ばれ、外翼前縁にスラット、後縁には全幅にわたるダブルスロッティッドフラップが設けられました。また短距離離陸や敵戦闘機とも渡り合える機動力を確保するため、アフターバーナー付きのエンジンがロールスロイスとチュルボメカにより共同開発されることに決まったのです。さらに未舗装滑走路からの離発着を可能にするため、低圧のダブルタイヤを装着した頑強な主脚が設計されました。一方、電子・通信・航法装置は、それぞれの国で選定調達されることになり、そのため機体の一部形状が英仏機で異なっています。

試作機は英仏それぞれの要求に基づき、A型(仏空軍用単座)、B型(英空軍用複座)、E型(仏空軍用複座)、M型(仏海軍用単座)、S型(英空軍用単座)の5種8機が製造されましたが、試験評価の結果M型は不採用となり、英仏空軍向けのA,B,E,S型のみが量産に移行することになりました。量産機は、英仏それぞれ200機を調達することになり、英空軍の内訳は、S型165機、B型35機、仏空軍の内訳は、A型160機、E型40機となっています。またJaguarには輸出型のJaguar Internationalが計画され、後にエクアドル、インド、ナイジェリア、オマーンに輸出されていますが、これらの仕様は、英空軍向けのS型、B型をベースにしたものです。

以下は英空軍が採用したJaguar Sを中心に述べます。S/B型には制式呼称としてそれぞれ、Jaguar GR.Mk1とJaguar T.Mk2が与えられました。GR.Mk1は、機首先端の左右両面がそぎ落とされたような形状をしているのが特徴で、その中にFerranti製のレーザ測的装置LRMTS(Lasar Ranger and Marked Target Seaker)が収納されています。低空侵攻を主任務にするGR.Mk1では、慣性航法装置と電波高度計を頼りに予め設定された飛行コースを目的地まで飛行し、最終フェーズでLRMTSが計測する標的までの距離や角度情報を加えて火器管制計算を行い、火器投下のタイミングが決定されます。こうした情報はパイロット前面のHUDや計器盤下方に設置されたMMI(Moving Map Indicator) に表示されるようになっています。GR.Mk1の主な諸元を下記に示します。

GR.Mk1の主な諸元
機体全長 :16.38m(ピトー管含まず)
機体全幅 :8.49m
最大離陸重量 :15.7ton
エンジン :ロールスロイス/チュルボメカ Adour Mk102
最大速度 :マッハ1.6@36,000ft
固定武装 :30㎜アデン砲×2

英空軍の量産機は1973年~1978年にかけて生産され、順次英空軍に納入されました。後に75機のGR.Mk1が、高出力のAdour Mk104エンジンへの換装をはじめ、電子機器のアップグレードや自己防御システムの追加などの改良が施され、呼称もGR.Mk1Aに変更されています。自己防御装置はAN/ALE-40フレアディスペンサー、AN/ALQ-101(V)-10 ECMポッド等で、AAMもMATRA550 Magicに加え、AIM-9G(後に9L)の搭載互換性が与えられ、1991年の湾岸戦争時にはオーバーウィングパイロンの搭載が可能となり、搭載ストアの数も増えました。


SEPECAT Jaguar GR.Mk1A Hasegawa(1/72)

キット紹介

 Jaguarのキットは比較的少ないため、初回リリースが1984年と古いハセガワの1/72スケールのこのキットは貴重なキットと言えるのではないでしょうか。しばらく店頭では見かけませんでしたが、ハセガワのホームページを見ると発売中となっていたので再版されているようです。価格1200円も今のご時世では非常に良心的と言えます。さてキットですが、パーツ表面全体に細かいパネルラインが筋彫りされており、当時のハセガワさんの意気込みを感じさせるものです。前胴部と中胴部以降が別パーツになっており、英空軍のGR.Mk1とフランス空軍のJaguar Aの両方に対応できるようになっています。ウェポンとしてはクラスター爆弾、ロケット弾ポッド、マトラマジックAAMが付属していますが、増槽が無いのが残念です。またデカールはこの2機種に加え、輸出用のJaguar International用のものも付属しており、3種類から好みの機体を製作することができます。 

製作

 製作に入る前にJaguarの情報集めを始めました。手持ちの資料も数冊あるのですが、細部のカラー写真となると意外に少なく、ネットのWalkaroundを利用して欲しい写真を探索しました。もう一つ欲しかった情報は、英空軍のJaguarに施されているオーバーオールカモフラージュ塗装の下面パターン情報でした。上面と下面の迷彩のパターンは連続につながっているのでしょうか?インストのパターンでは上下面では不連続となっています。結局答えは分からず仕舞いで、自分なりに考え連続パターンとなるように下面の迷彩パターンをインストから若干修正することにしました。 また今回の製作にあたってはeduald製 エッチングパーツ(FD72380)を利用して、部分的に少しアップグレードしてみました。タイトルがGR.Mk1Aとなっているのは、このエッチングパーツの中にあるフレアディスペンサーを組み立て、胴体下面に取り付けたことによります。
では各部の製作過程のポイントについて順を追って紹介していきます。

 まずはフィットチェックです。胴体の左右、胴体と主翼、ウィンドシールドやキャノピーと胴体、垂直尾翼の取り付け部などなど、各部の合わせ目をチェックしておきます。

1. コクピット
 まずコクピットから始めました。キットのコクピットはバスタブ方式で、計器板やサイドコンソールはデカール仕上げとなっています。ここにはエッチングパーツを使用してアップグレードします。バスタブのコクピットにはエッチングパーツのフットペダルを取り付けてダークグレーに塗ります。コクピットの底は前脚収納部になっていますのでこの部分はインテリアグリーンで塗りました。
(写真1)がコクピットです。主計器盤はキットのパーツを使用せずエッチングパーツに置き換えます。
(写真2)がエッチングパーツの主計器盤で艶消しの黒を塗っています。計器の部分には裏側から印刷した計器盤を貼り付けるようになっています。サイドコンソールも艶消しの黒で塗装し、スイッチ類を白やグレーで塗分けますが1/72スケールでは目が痛くなるだけです。
操縦桿も取り付けて出来上がったコクピットが(写真3)です。

 (写真1) バスタブコクピット 
  (写真2) エッチングパーツの主計器盤

(写真3) 出来上がったコクピット



2. 前胴部の組み立て
 コクピットが完成したので、これを組み込む前胴部を組み立てます。まず左右の前胴部パーツの内側を塗装します。1項で書きましたように前脚収納部はインテリアグリーンですので、(写真4)のように上部をダークグレー、下部をインテリアグリーンで塗分けます。
次にコクピットを組み込み、前胴部左右パーツを接着、更に機首先端部を接着し整形します。(写真5)
 ここでピトー管部をこの段階で取り付けるかどうか迷ったのですが、機首先端のウィンドウの塗装との関係でこの段階で接着することにしました。接着して整形後LRMTSのウィンドウの塗装を行いました。(写真6)
ウィンドウ部は平面ガラスなので光線が当たって反射すれば光って見えるのでファインシルバーを塗って上からツヤ有クリアでコーティングしました。乾燥後この部分はマスキングして最後までカバーしておきます。

 (写真4) 前胴部内側の塗分け
    (写真5) 前胴部と機首先端部の接合状態


(写真6) ピトー管部とLMRSTのウィンドウ塗装



3. 中後胴部と主翼の組み立て
 中後胴部は左右と底面の3パーツから構成され、主翼は左右2枚で、これ等を一気に組み立てました。さらにベントラルフィンも取り付けてしまいます。(写真7)
そして左右のベントラルフィンの内側にエッチングパーツで組み立てたフレアディスペンサーを2個取り付けました。(写真8)
主翼の取り付けには左右の取り付け角度が同じになるように注意が必要です。

 (写真7) 中後胴部に主翼を取り付けた状態


 (写真8) ベントラルフィンとフレアディスペンサー



4. 前胴部と中後胴部の組み立てとエアー・インテイク部の取り付け
 まず前胴部と中後胴部を結合します。若干のすり合わせは必要ですが、精度よくフィットしました。インテイクを取り付ける前に側胴部に位置するインテイク部の取り付け面をツヤ消しの黒に塗っておきます。(写真9)
次にインテイク部を取り付けます。インテイク部は2つのパーツから構成されており、接着前に内面をダークグリーン(Mr.Color 330)に塗っておきます。インテイク部とその取り付け部には少し段差が生じたので、サンドペーパーで面一にしました。そのためパネルラインが薄くなり一部彫り直しています。(写真10)またこの段階でインテイク下部にある30㎜アデン砲の砲口をピンバイスで開口しました。(写真11)後に真鍮パイプを埋め込んでいます。

(写真9) 前胴部と主翼を取り付けた中後胴部を結合した状態


 (写真10) エアー・インテイクの取り付け
  (写真11) アデン砲の砲口を開け


5. 塗装
 水平尾翼と垂直尾翼、そしてキャノピー、ウィンドシールドのフィットチェックは終わっており、後付け可能と判断しました。そこでこの状態で塗装に入ります。機体の塗装の前にウィンドシールドとキャノピーの窓枠以外をマスキングし、ツヤ消しの黒を塗装し、機体に仮付けし(写真12)、
次に後部エンジン排気口周りを金属色(銀+焼鉄色)で塗ります。(写真13)
次にエンジン排気口周りとエアー・インテイク内側をマスキングし、全体にダークシーグレー(Mr.Color C331)を吹きつけました。(写真14)

(写真12) 機体塗装の準備状態
  (写真13) エンジン排気口周りの金属塗装

(写真14) ダークシーグレー塗装

 乾燥後オーバーオール迷彩にするためのマスキングを行います。キットのインストの塗装図を1/72スケールに拡大し、型紙を作り、マスキングテープを使って機体全面にダークシーグレーの部分をマスキングしていきました。(写真15)が機体上面、(写真16)が機体下面、(写真17)が水平尾翼上面です。

  (写真15) 機体上面の迷彩塗装のマスキング


  (写真16) 機体下面の迷彩塗装のマスキング


(写真17) 水平尾翼上面の迷彩塗装のマスキング


  そしてダークグリーンを吹き付けてオーバーオール迷彩は出来上がりですが、まだ細部の塗装が残っています。機体背部のブレードアンテナをクリームイエロー(前縁が黒)に、右翼付け根をツヤ消しの黒、アデン砲の砲口周りをココアブラウン、エアーブレーキ収納部をダークグリーン、主脚収納部をインテリアグリーン、尾端を黒に等々、兎に角塗分けが大変でした。出来上がった機体上面と下面の塗装が(写真18)と(写真19)です。

  (写真18) 塗装を終えた機体上面


 (写真19) 塗装を終えた機体下面



6. その他機体部品・外装品の紹介
 これまで紹介した部分以外にも機体に取り付ける数々のパーツがありますが、代表的なものをいくつか紹介しておきます。(写真20)がエジェクションシートです。エッチングパーツのシートベルトとヘッドレストのカバーを取り付けています。
(写真21)はキャノピー。ハンドルとリアビューミラーを追加しています。
(写真22)が主脚、(写真23)が前脚でいずれもエッチングパーツのブレーキパイプを追加しています。
(写真24)がエッチングパーツで作ったエアーブレーキで、パネルに開いた穴がリアル感を与えてくれます。
最後が搭載ウェポンです。左から自衛用のMATRA 55 Magic AAM、LR155ロケットランチャー、BL755 クラスター爆弾です。(写真25)

(写真20) エジェクションシート
 
  (写真21) キャノピー

(写真22) 主脚 
 
    (写真23) 前脚

  (写真24) エアーブレーキ


  (写真25) 搭載ウェポン



7. デカール貼りと組立・仕上げ
 組立の終わった機体にデカールを貼っていきます。完成させる機体はRAF Coltishallの第38航空大隊第54飛行隊所属のJaguar GR.Mk1Aです。キットの付属デカールには機首のシャークマウスが付いていますが、これは貼り付けないことにしました。35年ほど経過お使用しましたが、保存状態が良かったのかバラバラになることなく貼ることができました。貼り終えた状態が(写真26),(写真27)です。

( 写真26) デカールを貼り終えた機体


(写真27) デカールを貼り終えた機体


  少し前後しますがウィンドシールドの取り付け前にエッチングパーツで作成したHUDを取り付けています。(写真28)

(写真28) コクピットに取り付けたHUD


 デカールが乾燥したところで、ツヤ消しクリアでコーティングします。最後にパネルラインへの墨入れと多少の汚しを加え、6項で紹介した機体部品や外装品を取り付けて完成です。(写真29~33)が完成写真です。

(写真29) 完成したJaguar GR.Mk1A


(写真30) 完成したJaguar GR.Mk1A


(写真31) 完成したJaguar GR.Mk1A


(写真32) 完成したJaguar GR.Mk1A


(写真33) 完成したJaguar GR.Mk1A



 “山椒は小粒でもぴりりと辛い”と言いますが、まさにこのJaguarはこの言葉にぴったりの機体です。1/72ではピトー管を含め全長220㎜ほどでしかありませんが、手ごたえのあるキットでした。塗装が思ったより大変でしたが、出来上がると苦労が報われた感じです。最近ハセガワさんから昔のキットの再販が増えているようですが、飛行機ファンにとっては嬉しいことです。できればマーキングも新しいものにしていただけるとありがたいのですが、如何でしょうか?


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