Home > グラビア > 前テーマ>  Photo特集 イギリス博物館めぐり (その2) シービクセン >次テーマ

シービクセン 

小柳 篤司    コヤナギアツシ       . 
 イギリス博物館めぐり第2回目はシービクセンです

 <実機解説>
デ・ハビランド・シービクセンとはイギリスのデ・ハビランド社が開発した双ブーム形式のユニークな姿のジェット戦闘機で、イギリス海軍の全天候艦上戦闘機として採用されました。デ・ハビランド社の前作、バンパイア、ベノムの流れを汲む双ブーム戦闘機の最後で、同社が開発した最後のジェット戦闘機でした。
 第二次大戦後の1947年1月、イギリス海軍は双発複座の全天候艦上戦闘機の要求仕様N.40/46、イギリス空軍は全天候戦闘機の要求仕様F.44/46、海軍空軍共に似通った要求を提示し、それに答えデ・ハビランド社は両方の要求を満たす機体としてDH.110開発を決定した。
 機体形状はバンパイア、ベノムと同様の双ブームで片発停止時の安定を考慮してエンジンを中部胴体後部に並列に配し、主翼平面形は無尾翼実験機DH.108で経験した後退翼を採用した。並列複座だがキャノピーはパイロットが搭乗する左側だけに設けられ、レーダー手はキャノピーの無い胴体の右側に搭乗する非対称の変則的な配置になった。当時のレーダー画面は暗かったのでレーダー手は上部ハッチと胴体右に小窓だけ設けられた胴体内に閉じ込められたが、この様なコクピット配置は他に例が無い。
 1947年11月にイギリス海軍は全天候艦上戦闘機に、安価な単発機デ・ハビランド・シーベノムを選んだので,DH.110は 海軍に採用されなかったが、イギリス空軍はグロスター社で

開発中の全天候戦闘機、グロスターGA.5が開発失敗した時の保険としてDH.110に興味を持ち、1949年4月に供給省は原型機9機を発注した。競作となったグロスターGA.5とデ・ハビランドDH.110の原型機は両機とも2機発注に減らされた。
 DH.110の原型1号機WG236は1951年9月26日に初飛行したが、イギリス空軍は1952年7月7日にグロスターGA.5をグロスター・ジャベリンとして採用した為、残る採用見込みはイギリス海軍向けだけとなった。原型2号機WG240は1952年7月25日に飛行したが、原型1号機WG236が同年9月6日のファーンボロー・エア・ショーで観客を巻き込む事故を起こした為に飛行テストは中断した。事故原因はロール時に外翼部に加わった疲労だったので外板が強化された他、垂直尾翼の面積拡大等の改修が施された2号機WG240は1953年7月17日に飛行した。
 デ・ハビランド社はイギリス海軍にシーベノムの後退翼型DH.116を提案していたが1953年にイギリス海軍は双発のデ・ハビランドDH.110が優るとし、DH.116をキャンセルした。デ・ハビランド社は要求に答え、翼折り畳み機能追加、武装は機関砲を止めミサイルのみ、エンジンはロールスロイス・エイボン208sに換装等、DH.110の再設計に取り掛かり80%が新規開発となった。1954年2月に発注された準海軍仕様の先行量産型DH.110 Mk.20Xは脚周りを強化され着艦フックを装備したが、空母の発着艦テスト用なので翼の折り畳み機能は無く武装も火器管制装置も装備しなかった。
            (下に続く→)

撮影時期:2009年2月14日
撮影場所:ヨービルトンFAA博物館 http://www.fleetairarm.com/


(写真1)  斜め前から。コクピット右側のハッチ周りが盛り上がっているのが分かります。


(写真2) 前部胴体側面。 レーダー手が外を見れるのは右側面の小窓だけです。


(写真3) 胴体側面。


(写真4) 翼折り畳み部分。


(写真5) 胴体上面の点検口は赤線で標記されています。
何故か分かりませんが、動物の縫ぐるみが置かれています。


(写真6) 空気取り入れ口はカバーで塞がれています。


(写真7) 前脚のアップ。


(写真8) 翼折り畳み部分のアップ。胴体下面エアブレーキの内側も見えます。


(写真9) 翼折り畳み部分と主脚を後方から。


(写真10) テイルブームとコンフォーマルタンクに段差が有ります。


(写真11) 折り畳まれた主翼の上面。手前に見えるのはラムエアタービンです。


(写真12) ラムエアタービンは胴体上面から飛び出します。


(写真13) 着艦フックです。


 (上からの続き)

1955年5月17日に初飛行、9月28日にファイアストリーク・ミサイルの発射テスト実施、1956年4月5日に空母アークロイヤルで初の発着艦テストが実施された。
DH.110 Mk.20Xが初飛行前の1955年1月にデ・ハビランド社は量産型78機を受注、1957年3月5日に公式にシービクセンと命名され、量産型FAW.1の初号機は3月20日に初飛行した。シービクセンは赤外線誘導のファイアストリーク・ミサイルを主装備し、固定武装を持たない初のイギリス海軍戦闘機となった。艦隊防空の他、攻撃戦闘機の能力を持ち、通常爆弾やロケット弾等も搭載可能だった。
1958年11月4日にヨービルトンでシービクセンの訓練部隊No.7000 Sqが編成され、1959年10月に初の実戦部隊No.892 Sq所属機が空母ビクトリアスに着艦した。
シービクセンFAW.1はイギリス海軍に配備が始まり、同型は計119機生産された。
 FAW.1に続く量産型FAW.2は搭載燃料を増加する為にテイルブーム上部にコンフォーマルタンクを追加し、空対空ミサイルは射程距離5マイルのファイアストリークに換わり射程距離7マイルのレッドトップを4発運用可能になった。ファイアストリークと同様レッドトップも赤外線誘導だがファイアストリークは目標の後方から狙えるだけだったのに対し、レッドトップはシーカーの性能が向上したので前方から狙える様になった。FAW.2の初号機は1962年夏に初飛行し29機製造され、119機製造されたFAW.1の内、69機がFAW.2仕様に改修された。 
 シービクセンのレーダー手はキャノピー右側の胴体上面のハッチから出入りし、ベイルアウト時はハッチを投棄して射出されるが、FAW.2の後期生産ロットからスルーキャノピーで脱出出来る様、ハッチは金属から射出座席で破砕出来る材質に改修された。金属製ハッチの機体は胴体と面一だが、改修された機体はハッチの周りが盛り上がっているので識別出来る。
  1960年代後半、イギリスは国防予算削減に伴いアークロイヤルを除く空母の退役が決定、後継機にF-4ファントムが採用された為、シービクセンの退役が始まり1970年7月の空母ハーミスが最後の航海となった。
 第一線から退役後に殆どがスクラップにされたが、少数は1980年代半ばまで標的曳航等に運用されていた。
 
●仕様●
乗員:2名
全長:16.94 m
全幅:15.54 m
全高:3.28 m
翼面積:60.19 m2
空虚重量:12,679 kg
運用時重量:
最大離陸重量:16,783 kg
動力:ロールス・ロイス製 エイヴォン RA28 Mk 208 エンジン× 2
推力:5,094 kgf
最大速度:1,040 km/h
航続距離: km
上昇限度:14,600 m

●参考資料●
De Havilland Sea Vixen: De Havilland's Ultimate Fighter Aircraft
Richard A. Franks Dalrymple and Verdun Publishing

Warpaint Series No.11: De Havilland Sea Vixen
Steve Hazell Hall Park Books Ltd.

Dehavillan Twin Booms: Vampire, Venom and Sea Vixen
Adrian Balch Airlife Publishing Ltd

X-Planes Profile-5: Prelude to the Sea Vixen DH.110
Henry Matthews HPM Publications

 (上に戻る→)


Vol.6 2009 July.        www.webmodelers.com          Office webmodelers all right reserved   無断転載を禁ず  リンクフリー
「webモデラーズ について」

資料記事

TOTAL PAGE