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by 田口 博通 Hiromichi Taguchi      /

Big キット作り倒し (第8回) 
ダムバスター   レベル 1/72  



押入れを占領するBigキットを作り倒し バーンとスペースを空けようというBigな連載コーナー。
1/32と限らず、巨大な箱なら なんでも取り出します。
 
 デビスモンサンにモスポールされた可哀想なBigキットが再び、皆様のお役に立ちます。
 本誌創刊からスタートしたこの連載、8回目となりました。今月は レベルの名キット あの1/72 ダムバスターにチャレンジしてみたいと思います。
 イギリスの4発爆撃機で、1/72でも翼長40cmに達します。作り応え十分であります。発売時期は1960年代前半で、40年以上前に設計されたプラモキットです。
 表面ディテールは 凸リベット、凸パネルラインで、うるさいくらいですが、そのごつごつ感は ロンドンの戦争博物館で見たランカスターの印象そのもの。実感満点で、スタイルも良く、名キットであります。エルロン、フラップ、エレベーターと3舵面が可動、主車輪が引き込み式。銃座が回転、円筒型の巨大爆弾が回転します。当時流行の可動ギミック満載といったところです。

 最近、ハセガワから スジボリの端整なランカスターとダムバスターが発売され、これはこれで良いキットなのですが、醸し出す雰囲気がアジア的で、ごつごつとしたジョンブルのランカスターらしくありません。飛行機モデルというのは、スタイルや細部ディテールだけでなく、表面テクスチャーや、モデルが醸し出す雰囲気も大事な要素だと思うのですが、皆様、いかがお考えになりますでしょうか。
 という訳で、今回は練達のプラモデルマニアであれば、一家に一機、押入れには必ずストックされていると噂されている レベルのランカスターシリーズの中から、ダムバスターを引っ張り出して、まな板に乗っけてみたいと思います。
 といっても、今回使ったキットは貼り箱のグンゼレベル製でなく、10年くらい前にドイツレベルから再販された時に買い求めていたものです。こちらは、今風の印刷のデカールが付属していたので ありがたく使わせていただきました。
 40年前の日本で どこにでも売っていたグンゼレベル貼り箱版を 大切にストックされて来た方は墓場まで持って行かないで、このあたりで、日の目を見せてあげましょう。 モノが溢れる時代に 新しいものを買わず、昔のキットを取り出して、心ゆくまで楽しんでみる。ある意味エコな、最高な贅沢でありましょう。いつかは作ろうと、中学生から憧れてきた至福のプラモデルタイムを今、一緒に味わってみませんか。 
 さあ 前置きが長くなりましたが、今月も40年前に設計された名キットが完成品として、あなたの前に甦ります。


ダムバスターは 巨大な円筒型爆弾を胴体下面に抱いた 特異な外形だ

凸リベット、凸パネルラインだが、実感満点。


■実機について
 アブロ ランカスターは、英国が第2次大戦で使用した主力4発爆撃機です。B17のノルデン爆撃照準機による昼間精密爆撃を得意とした米軍に対し、英空軍の爆撃作戦は爆撃精度の必要がない夜間の無差別爆撃を主としていました。
 一方、ピンポイントの精密爆撃による特殊作戦専門のエリート部隊(617SQ)も存在し、このダムバスターに改造された機体は、秘密作戦にのみ使われました。
 有名な秘密作戦が、ドイツ ルール地方の大部分の電力を供給していた、モーヌ、エーデル、ゾルペの3つのダムの破壊作戦です。ダムには大きな水力発電所があります。ここを叩けば、ドイツの重工業、兵器生産能力を大きく阻害できるという、典型的な戦略爆撃作戦です。
 ダムの水をあふれさせて、下流をみずびたしにしようなどと姑息なことを考えていたわけではないのでした。
 
 厚さ42mもあるダムの壁を破るには特殊爆弾の開発が必要で、かつ深い山間部の谷をぬい、はりねずみのような高射砲群で守られたダムにピンポイント爆撃を行う極めて困難な作戦でした。
イギリス映画「暁の出撃」(原題 The Dam Busters)は、この作戦をテーマとして、実機を使って撮影され、爆弾の投下シーンが実写で克明に盛り込まれていました。

イギリス人というのは 最初にコマンド部隊を後方撹乱など 謀略戦に使ったことで有名なように、特殊な作戦や兵器の開発などには 特別のエネルギーを傾けるようです。さすが、007の国であります。
 重爆弾を水平爆撃で投下しても、ダムへの直撃命中はあまり期待できず、むなしくダムの湖水をたたくにとどまります。魚雷で攻撃しようにも、ダム壁の手前に魚雷防御網が張られており、阻止されてしまいます。
 そのため、Qと呼ばれる科学者により開発されたのが、この大直径円筒型爆弾。機体下の回転プーリーからベルトで高速回転をつけて湖水面に投下し、飛び石のように湖水面をスキップさせ、防護網の上をすり抜ける。ダム壁に達すると、壁にそって沈み、設定した深度に達すると水圧によって起爆し、爆圧と水圧によって 厚いコンクリートのダム壁を破壊しようという構想でした。いかにも 突飛なアイデアではありますが、理論的にはいけるはずと、ニュートンの生まれた国は大真面目です。必ず成功すると確信し、作戦は雪解け水が集まり水位がもっとも高くなる5月。満月の月明かりを利用した夜に決行されることになりました。乗員達はひそかに英国内のダムを標的に模擬爆撃する猛訓練を受けます。
 さて、うまく構想どおりとなるのか、サイは投げられました。1943年5月16日 19機のダムバスターが、超低空で侵攻し、秘密爆撃作戦を実施。モーヌ、エーデルダムの破壊には成功。しかし、強固なゾルペダムの破壊には失敗。2勝1敗という戦果でした。


特徴である円筒爆弾をぶらさげた 胴体下面。
実戦では 爆弾の前方胴体のモータープーリーと円筒爆弾間にベルトをかけて、爆弾を投下前に回転させる。
その回転力で水面を飛び石のようにスキップさせるというわけだ。
キットは主脚が可動引き込み式だが、脚扉が固定で片手落ち。がんばって、扉も可動に改造している。


製作

■胴体
 コクピットは 床とシート、操縦輪があるだけのごく簡単なもので、座席にパイロットをスカウトしてくるのもいいのですが、シートベルトを板鉛を切って追加としました。コクピット内の塗装は特殊作戦機というイメージで見える部分をつやけし黒で塗装。シートはオリーブドラブとしました。
胴体左右接着時に、回転機銃座、水平尾翼の昇降舵の連動パイプなどを組み込むような設定になっています。今回は塗装の便を考え、可動はあきらめて、塗装後で接着と割り切りました。こうすると、胴体の組み立ては非常に簡単となります。
 操縦席キャノピーと機首銃座付近のディテール
 主翼は大きく上下接着時に、可動フラップを組み込むようになっていますが、フラップは塗装後に組み込むようにヒンジを加工します。

 エルロンは可動ですが、だらっと下がっても格好が悪いので 可動をさらっとあきらめ、左右の回転軸を切り取り、金属線3本をヒンジとなる場所にさしこんで接着することとしました。 

 エンジンナセルを主翼に接着するのも結構難関。
エンジンナセルをつける前に主翼を胴体に接着し、上半角をきちっと出しておき、その後、ナセルのラジエターが地面に垂直になるように接着して行きます。
 
 プロペラは シンチュウ線の中心軸に改造し、塗装後に差し込めるように改造しました。

 
 エンジンナセルとプロペラ

 キットでは主車輪は引き込み式に可動ですが、扉が 固定いもづけとなっています。ここは、扉にヒンジをつけて可動に改造しました。
 方法は、写真のようにパイプと金属線を曲げたヒンジを用い、現物あわせで作っていきました。
可動状態は下の連続写真のようになります。
主脚支柱は太めですが、強度上の問題もあり、細く削るのは省略しています。
主脚扉にパイプと金属線を曲げたヒンジを追加して、扉を可動に改造する。

主脚収納のシーケンス
1 展開状態 2 主脚支柱が前に
3 ナセル内に主脚を収納 4 扉を閉める たて付けが悪く、若干スキマもできるが
ご愛嬌ということで


■ 塗装
 キットのデカール AJ ○Gは ダム爆撃作戦指揮官 ガイ ギブソン中佐のもの。塗装は 夜間作戦機の一般パターンです。
下面と胴体側面は つやけし黒に少し灰色とダークブルーを混ぜたようなナイトといわれる色です。
上面 ダークアースとダークグリーンの雲形迷彩 となっています。 いずれも グンゼカラーを使用。
主翼の国籍マークは上面のみで、下面にはありません。

胴体窓は つやありダークブルーの上にクリアブラックをかけています。それらしくということで。
プロペラおよびスピンナーもつやけし黒。プロペラ先端はイエローです。
デカールを貼った後、つやけしクリアを吹いて、デカールのつやと塗装のつやをそろえて、違和感をなくします。



 機首に2丁、尾部に4丁、下面に2丁あるハリネズミのような機銃は 太細シンチュウパイプを組み合わせ、先端銃口のふくらみ部分も肉厚のシンチュウパイプから強引にヤスリで削りだしています。多少デフォルメもありかも。 銃座は固定としたので、ピンを削り、最後に組み込んでいます。
 
 機首下になまずひげのようなアンテナが2本ありますが、折ってしまい、撮影時にはついていません。これから作られる方は忘れずにどうぞ。
       尾部銃座 
          胴体下面銃座          胴体下の円筒爆弾

完成
 ぜひ ストックがあれば完成させてあげて下さい。 可動が多いために 決して たてつけはよくありませんが、ベーシックの部分は全てクリアしています。 

40年以上前に これだけのキットが設計できていたアメリカのプラモデル成型技術に驚きます。実機を彷彿とさせる 実に魅力的なプラモキットであります。

後部車輪も回転するようになっている。可動フラップを下ろしている。


 

Vol.8 2009 Sept.        www.webmodelers.com          Office webmodelers all right reserved   無断転載を禁ず  リンクフリー
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