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熱く、ギミック飛行機を語れ

by 加藤 寛之

これはおかしなタイトルで、どこも動かない飛行機なんて存在しない。動かないのは、プラモデル側の都合である。ここでいう<ギミック飛行機>は、“大胆な動きだ”とか、“変形がちょっとナ”とか“これも動くの?”という実機のことである。こういう実機の超ギミックは、何か設計上でムリをしているときに発生している気がする。ムリを通したから道理が引っ込んだとも言える。 模型的には、そこが面白い。ここでは「オスプレイ」なんかは当然過ぎて採り上げないし、ギミックそれ自体が目的の実験機もダメ。マジメなのだが、努力の結果で普通じゃなくなった飛行機なのだ。勝手な基準なのだ。とりあえず書いてみるが、機種選定の賛否は分かれることだろう。まあ、ゆるい気持ちで読んでもらいたい。


飛行機のプラモデルは、大きく動くところはほとんどない。ところが、可変後退翼機になるとだいたいが動く。これは不思議な価値観だが、翼が動かないとか位置の選択ができないキットだったら私も買わないだろう。だから、可変後退翼機は主翼の動きだけでは足りない。そんな可変後退翼機ならば、初のキット化だったモノグラムの1/72「F‐14トムキャット」を推したい。 このキットは、実機では極初期に廃止された主翼固定部のベーンが動くらしい。これは興味深い。残念なことに、これも私は作ったことがない。ところが、これには欲しかった記憶がない。あまりにも高価すぎて大気圏外にあったことだけでなく、“出来がよくない”と評されていたからである。“だからボクは欲しくないんだ”と言い聞かせた成果かもしれないが。


大胆に翼が動くといえば、「XB‐70バルキリー」は凄い。高速飛行中に主翼が真ん中あたりからグイ~と下がる。2号機は上反角が大きかったから、その翼を下げた姿はさぞ豪快なものだったろう。ただこれは、飛行中の姿にしないとおかしい。スタンド付キットはプラモデル業界から絶滅したのだが、この飛行機は飛んでいる姿がとくにステキだ。 実は一度、旧サニーの小さなキットでやってみたことがある。ところが翼断面形がぶ厚くて、カッコよく再現できなかった。そして2号機は砂漠ではなくてゴミ箱へと姿を没した。


着陸を楽にしたくて主翼を広げて速度を下げる可変後退翼方式以外に、「F8Uクルーセーダー」のように主翼を上げて前を見やすくするのもテである。見慣れているが、これは大胆な機構である。不思議に思わないのは、カッコイイからだ。当然、「F8Uクルーセーダー」のプラモデルで主翼を持ち上げると見栄えは良いのだが、実機はこのときに主翼の前縁フラップが下がる。 プラモデルの場合、前縁フラップは別部品でもよいが強度面で不安だし、開閉どちらかの状態で翼上面がスッキリしなくなる。流行のコンボ・キットでも、上げ状態と下げ状態の専用主翼パーツが各1あって胴体2本みたいな組み合わせならば納得できるのだが、そういう商品はないだろう。



前をよく見るには、機首を下げてもよい。「Tu‐144」や「コンコルド」がそうだ。これは可動キットにすると段差がひどくなりそうだが、ニットーの1/100コンコルドは機首を可動にできたような気がする。でも、形としては「Tu‐144」がすばらしい。細長い前翼がス~と垂れ下がって広がる、怪しい感じが魅力的だ。プラモデルでは選択固定にしなと弱くなりそうだ。そういえば、しばらく前にレベルの「ボーイングSST」の再販があったが、これは機首を下げて主翼を広げたキットと主翼後退角を最大にした高速飛行状態のキットとのコンボだ。なんだ、形状違いのコンボって、あるじゃないか。 機首下げといえば試作機だけれども、フロッグのキットに「フェアリー・デルタ2」があった。これは可動機首キットであった。私は2回作ったことがある。2回目は機首を通常状態に接着して組んだが、今から思えば可動でもよかったかもしれないが、ガタガタだったから・・・ね。


もうちょっと、普通の路線にしよう。私が先日にキットを組んだ「F‐94Cスターファイア」(←これで普通か!)なんか、実機は主翼のポッドにも無誘導のロケット弾が入れてあり、発射時には先端の尖ったコーンを吹き飛ばしてからバババババっと撃つのだという。・・・となると、発射後は撃ちカスのポッドが主翼に残るのだろうが、先端がないから機速は低下するだろう。 さらに、乱れた気流の後方でエルロンがマトモに利くのか、やや不安だ。元に戻らないのをギミックというかどうか疑問だが、赤い星の爆撃機を撃墜できれば合衆国の栄光は守られる(あとは知ラン)ということなのだろう。軍人とはツライものだ。


そうなると、同時代でも「F‐86D」はマトモだ。この飛行機には、胴体下面にあるロケット弾ケースが上下するギミックがある。実機はこれを下げてババババッバッと撃ち、引っ込める。ここが「F‐94Cスターファイア」と違うところだ。マルサン1/50のキットは、ここが可動になっている。 ところがこのキット、ロケット弾の数が実機よりも少ない。設計者の橋本喜久男氏は、当時の金型工作の限界で実機と同じ数の穴をあけられなかったが鑑賞上は問題ない、と説明している。こういった金型上の限界問題は昨今でも言われることがあるが、値段は高いがエッチングパーツで処理するテがある。ところが別会社製品は見事なプラ成形パーツを入れてあったりする。これはナゾだ。


上下する、という機構ならばフランスの「モランソルニエMS406」は、機首下面の冷却器が上下したような気がする。これは下面とはいっても模型でも見える場所だし、そこそこ変形して見えるから、まあ、ギミック飛行機の仲間に入れることにする。プラモデルならば、位置選択式で充分。
ところでだ、これを認定すると「Bf309」にも同じようなギミックがあったように思う。この飛行機、本当に人気がないような気がするが、どうだろうか。「Bf109」の後継機だったのに、空想ドイツ機よりも無視されているように思う。


「F‐94Cスターファイア」のように邪魔者を吹き飛ばすのは凄いが、日本の「一式陸上攻撃機」の爆弾倉扉は、分けがわからない。この扉は、実は覆いだ。11型は小型爆弾や魚雷を積むときには最初から外してしまうという。扉を外すと空気の流れが悪いので内側に整流板をいれるようだ。大型爆弾のときは穴が開いた別の覆いをつけるのだそうだ。だから、お腹を切り欠いて爆弾や魚雷を積んだ姿が標準だ、と言われても納得できない。 偵察飛行のときは完全に覆いをつけるらしいのだが、爆装時にはプラモデルならば“を付けたり外したりできます”“整流板もつけられます”でいいけど、実機がこれでいいんだろうか。「一式陸上攻撃機」も22型からは胴体下面に膨らんだ扉がある。ところがこれは、ちゃんと閉まらないらしい。外してしまったものも多いのだという。なんだか不思議なギミックだ。


実機では、多座機の後席機銃に出し入れギミックがつきものである。多くの機種が、多少は変形する。比較的動きが大きくて面白いのは、「デファイアント」だろう。大きなアタマの機座を整流しようと、前後に収納式のカバーを設けている。“さあ、撃つぞ”というと、このカバーがガタガタと(音は知らないが)引っ込んで、機速もついでに低下しちゃって、“あら、いやだワ”となるのだろう。 あまり機動しない爆撃機が相手ならばこういう銃座も使えようが、戦闘機はご遠慮しますと言えないのが実戦である。この飛行機の新しい72キット、エアフィックスさん、再度お願いします。そういえば、試作段階の「月光」なんか、ガガーと開いて戦艦みたいな銃座が出てくる猛烈な機構だったな。


もっと凄い変形をするのが、意外にもWW2の「ヘルダイバー」である。後席の窓は前にずらし、両脇を開け、垂直尾翼前は水平尾翼にも及ぶほど大胆に引っ込める。もう、胴体の形をしていない大変身で、着艦時に胴体が歪みそうなほどの切り欠きだ。
どなたか、この状態をプラモデルで再現してみたらどうだろうか。展示会での注目は間違いないが、魅力的な姿だとは言いがたい。


そろそろ止めるが、あと2機、書きたい。
1機めは、「紫雲」だ。主フロートが落ちる。“ワレニオイツクテツキ”がきたら、ポーンと落してブーンと逃げる、はずなのだ。だが、よく考えてみると、着水はどうするんだ、となる(たぶん、撃墜されるよりもマシに降りられるのだろう)。
しかもだ、設計時の模型テストでもフローロ投下は上手くいかないことがあったらしい。紫雲は補助フロートも収納できるし、二重反転プロペラだし、プラモデルならばガチャガチャとつけたり取ったりして面白いが、実機ではどうもダメだ。

最後は「F8Fベアキャット」だ。当初、翼面に加重がかかりすぎたときには翼端がポキッと取れる仕組みが検討されたという。片方だけ取れるとキケンなので止めたというが、そりゃそうだろう。でもね、「Bf109」の前縁スラットだって、左右はつながっていないんだから、工作レベルの信頼性というのか、思想というのか、簡単に“片方だけ動くと、ヤバイから”では説明できない。 プラモデル的には、主翼端が取れる機構の不採用は、ちょっと惜しかった気がする。「99式艦上爆撃機」でも検討されたらしいが、当時の日本の製品管理で同時離脱はキビシイな。

 とりあえず、今回は(いずれ、まだ書く)ここで止める。ちょっと話題が濃かったから、波長が合わなかった方もおいでだろう。そういうときは、ここに出てきた飛行機のプラモデルを作るのです。
そうすれば設計者の悩みが共有できて、またこの文章をよみたくなるでしょう。では、さようなら。

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Vol 57 2013 July.    www.webmodelers.com /Office webmodelers all right reserved /editor Hiromichi Taguchi 田口博通
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