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誌上個展

三菱九六式1号艦上戦闘機製作記
(Fine Molds 1/48)

by Kiyoshi Iwama


九六式一号艦戦 (1/48) Fine Molds Box Art より

 今年の夏、スタジオ・ジブリの「風立ちぬ」を見ました。映画だけでなく、主人公の堀越次郎さんもいろんな雑誌で大きく取り上げられたのはついこの前のことでした。映画では堀越次郎さん設計の九試単座戦闘機が、海軍の要求を上回る性能を発揮する飛行シーンが出てきます。このシーンが頭に焼き付いていたのか、丁度仕掛品の中にファインモールドの九六式一号艦戦(1/48)があるのを思い出し、再び取り出して製作に取り掛かりました。それが、このキットが完成に至ったいきさつです。このキットは、プロペラ、エンジン、座席、操縦桿などの部品がホワイトメタル製の限定版で、そのままお蔵入りはもったいなく、完成に至ることができたのはこの映画のおかげと感謝しています。 この映画の影響か、同じメーカのファインモールドさんから九試単戦のキットが最近発売されたようです。このキットは全体のシルエットは正確で、パネルラインの筋彫りも繊細に彫り込まれています。ホワイトメタル製の部品もキットの仕上がりを引き締めてくれます。比較的パーツの合いもいいのですが、機首の機銃カバーとその下の前胴部との接合に課題があり、パテを盛って胴体ラインを修正しました。一方デカールは昭和13年に中国大陸で使用された第12航空隊と第13航空隊の機体用のものが付属しており、発色も表面への馴染みも優れたものでした。紹介するキットでは第12航空隊の銀塗装の機体に仕上げています。


実機紹介

 九六艦戦は帝国海軍の昭和9年の試作計画によって開発がスタートしている。この年の2月海軍は三菱と中島に対し、「九試単戦」の試作を発令した。三菱はその設計主任に堀越二郎を任命する。 堀越は、「九試単戦」の前に試作した七試単戦でも設計主任を務めたが、開発に失敗したこともあり、かなりの重責の中での開発作業となった。七試単戦での経験を踏まえ、堀越が九試単戦で設計方針としたのは、

空力形状抵抗の低減(金属製片持ち式低翼単葉機とし、機体に流線形を採用)
空力摩擦抵抗の低減(機体表面の摩擦抵抗低減のため、世界で先例のない枕頭鋲の採用)
重量軽減(機体構造、偽装部品など大半をアルミ合金製構造とする)
発動機に中島製寿五型減速型(600馬力)を採用
プロペラ効率向上のための形状配置
空戦性能向上のため、世界で初めての主翼端捩り下げの採用

などであった。こうした結果、開発された九試単戦は、昭和10年3月の飛行試験において海軍の要求を上回る450km/hrという最高速を出し、当時の戦闘機の速度レベルを100km/hrも上回る快挙を成し遂げた。世界水準を超える性能の実現に海軍も大いに喜び、九試単戦は量産化への道を歩む。そして試作試験で発見された不具合点を改善し、昭和11年11月、九六式1号艦上戦闘機として正式採用されるに至った。 しかし量産化に当たり、多少ながらパワーアップした出力630馬力の寿2型改1発動機が採用されたものの、量産化改良での機体重量がかさみ、最大速度は406km/hrまで低下することになる。

最大速度は若干落ちたものの量産化された九六1号艦戦は、昭和12年7月7日に始まった日中戦争に投入され、その能力をいかんなく発揮することになる。

 九六式1号艦戦の主要諸元を下記に示す。
   乗  員: 1名
   全  長: 7.71m
   全  幅: 11.00m
   全  高: 2.66m
   総重量 : 1,500㎏
   発動機 : 中島製 寿2型改1(630馬力)
   最大速度: 406km/hr@高度2500m
   武  装: 7.7㎜機銃×2

製作

 今回の製作にあたっては、5月の静岡ホビーショーで目にして購入した、有限会社「和巧」の紙製シートベルトを使用してみました。日米英独の大戦機用シートベルトが、1/32、1/48.1/72などのスケールでそろっていた様に記憶しています。 使用した感じは、金属エッチングのものより立体感を感じさせるものでした。

1.コクピット

 コクピットの製作から始めます。コクピット内の操縦桿、フットパネル、座席がホワイトメタル製のため、サンディングして形状を整え、メタルプライマーを塗っておきます。塗装はインストの指示通り、主計器盤、座席、胴体内側と青竹色で塗装しました。主計器盤もキットのデカールを使ってあっさりと仕上げ、コクピットに取り付けました。(写真1) 胴体側面の機器類は艶消しの黒で筆塗りし、銀で軽くドライブラシをかけて完了です。(写真2)



写真1 デカール仕上げのコクピット

写真2 胴体内壁の計器類 


 次に座席に紙製シートベルトを取り付けます。少し硬めですが、水で濡らして柔らかくするとなじみやすくなります。濡らし方が難しいですね。それでも写真のように革のベルトのような感じに見えます(写真3)


  写真3 座席と紙製シートベルト
この座席と操縦桿を取り付けるとコクピットの完成です。(写真4)


  写真4 完成したコクピット

2.胴体・翼

 胴体、主翼、尾翼、主脚カバーと、全てを接合してから塗装することにしました。まず胴体の左右接合ですが、このときコクピットも組み込みます。次に主翼の上下接着ですが、先に主翼の上下面を接着してしまうと、フィレット部のテーパーとの関係で後から胴体が入らなくなりそうでしたので、次のような手順で胴体と主翼を接合していきました。 まず片側の主翼上面を主翼下面に接着し、その後胴体を主翼に載せて接着、最後にもう片方の主翼上面を接着するという手順です。そうして胴体と主翼の接合が終わった後、組立の終わった左右の主脚カバーを主翼下面へ、また尾部には水平尾翼を取り付けます。これで機体はしっかりと「士」の字となりました。


 次は全体の整形です。接着した部分で段差や隙間の生じたところを修正していきます。胴体の最大の難点であった、機首機銃カバー部と前胴部との間に生ずる段差についてはモリパテを盛って、サンドペーパーで整形しました。写真5がその部分です。サンドペーパーをかけた後、繊細なパネルラインが消える個所も出てきますが、その部分はナイフやPカッターを使って彫りなおしていきます。 またこのキットの主翼の翼端灯は、キクリア・パーツが準備されてないため、透明ランナーから削り出して自作しました。少し大きい目の翼端灯パーツを削った部分に瞬着で固定し、ナイフとサンドペーパーで整形、そしてコンパウンドで磨いた後、クリアレッドとクリアブルーを塗ると翼端灯が完成です。整形の終わった機体が写真6です。(この時点ではまだ翼端灯を付けていません) 


写真5 機首の修整部


写真6 工作が終了した機体


 この段階で、風防のクリアパーツと胴体との接合具合もチェックして、修正を加えておきます。風防の胴体との接合面は微妙なカーブとなっており、そのままでは隙間が空きます。 そこで風防のクリアーパーツ下面を少しずつサンドペーパーで削りながら隙間が最小になるように風防の下部形状を調整していきました。

3.機体の塗装

 機体の形が出来上がりましたので、次に塗装に移ります。キットは“第12海軍航空隊 昭和13年 中国大陸”の機体に仕上げることにしました。そのため、機体全面を銀塗装で、尾翼と主車輪カバーを識別色の赤で塗ることになります。
まずMr.カラーの銀(8番)を全面に吹き付け、乾燥してからマスキングして、尾翼と主脚カバーにMr.カラーの赤(3番)を吹き付けました。(写真7と写真8)
 銀塗装1色は単調になりがちのため、トーンの異なる銀で塗り分け、アクセントをつけようかとも考えましたが、実機の写真も入手できなかったため、墨入れと適当な汚しで逃げることにしました。


写真7 銀塗装を終えたところ


写真8 識別色の赤を塗ったところ



4.エンジン、プロペラ、車輪等

 エンジンカウリングは上下2分割になっています。まずこれを接着、整形し、Mr.カラーのカウリングブラックを吹き付けます。エンジン、減速機、排気管、そしてプロペラがホワイトメタル製です。エンジンと減速機と排気管はバリ取りを行い、サンドペーパーで軽く磨きます。 そしてメタルプライマーを吹き付けた後、エンジンと減速機にはMr.カラーのメタルブラックを、そして排気管には焼鉄色を塗りました。プロペラについては、翅の部分が光るまで磨き上げ、プライマーを吹き付けた後、翅端のデカールを貼り、その後クリアーでコーティングを施しました。これらを組み上げたものが写真9です。


写真9 エンジンアセンブリー


 次に主車輪のことを少し述べておきます。車輪はカバーの内側にあるピンに嵌め込むようになっているため、左右2つ割になっている主車輪カバーを接着する前に、嵌めこんでおく必要があります。しかしその方法だと塗装が大変になるため、車輪を後で装着できるよう、写真10のように主車輪にスリットを入れることにしました。こうすることにより塗装が大変やり易くなりました。写真11は主車輪カバーに車輪を嵌めこんだところです。左側の車輪に嵌めこむ際のスリットが見えます。

 写真15に少し見えますが、キットには胴体下に増槽が付きます。よく見かける筒状のものでなく、これについても詳細情報が入手できず、適当に筋彫りだけを入れ、それらしく済ませてしまいました。

写真10 スリットを入れた主車輪


5.完成へ

 ここまでくれば完成まであと一歩です。機体にデカールを貼り、クリアーでオーバーコーティングをした後パネルラインへの墨入れ、そして軽く汚しを付け、風防やピトー管などを取り付ければ完成です。デカールは貼りつきが良く、発色も優れていました。胴体の紅白の線は塗装にしようかデカールにしようか迷いましたが、結局デカールにしました。 湾曲面に真っ直ぐなラインのデカールを貼るのはなかなか大変でした。でも完成すると「風立ちぬ」の感動再来です。完成品の写真を以下に紹介して製作記を閉じます。



写真11 完成した九六式1号艦戦



写真12 完成した九六式1号艦戦



写真13 完成した九六式1号艦戦(胴体中央部)



写真14 完成した九六式1号艦戦(尾部)



写真15 完成した九六式1号艦戦(下面)

The End 


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