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誌上個展

隼3型の塗装 ほかにも少し

  by 加藤 寛之

 基本的に無塗装だった日本陸軍戦闘機は、大東亜戦争の局面悪化にともない上側面の迷彩塗装が製造現場で行われるようになった。隼の場合、3型は迷彩塗装、という印象がつよい。 最近、隼3型の色について資料を書き出すことがあったので、備忘録を兼ねてここに投稿しておく。


 隼の塗装説明で使いやすく、かつ新しい資料に『一式戦闘機「隼」』(学習研究社、歴史群像太平洋戦史シリーズ52、2005年)がある。これに掲載された片渕須直(かたぶつすなお?)氏の記述によれば「3型も初期には、工場出荷時には・・・無塗装だった」「最初の500機程度は無塗装で完成したようだ。それ以降は工場での『黄緑七号色』塗装に変わり、同時に機首上面の防眩塗装は廃止された」とある。 下面色は「海軍機と同じ『J3灰色』に変更されたと考えられる」。「統一方燃料タンクは『黄緑七号色』で塗装されたものが多く使われた」。「19年後期から陸軍機用プロペラに新塗装が出現している。これはブレードの表裏全体をグリーンに塗装したもので指定塗色名はあきらかでない」とある。この記述は、次から述べる下采(しもうね)昇氏の証言と独立した記述であることで重用だ。


 隼3型の塗装は、実際に製造に携わった下采(しもうね)昇氏の証言によるところが大きい。渡辺洋二『空の技術』(光人社NF文庫、2010年)に「3型に携わって」という記事があるが(初出『航空ファン』2007年5月号)、その「学徒動員の場合」の取材対象の方だ。
 以下、下采氏による隼3型の塗装に関する記述をまとめておきたい。
まず、『プラモ・ガイド』1968年(「航空情報別冊」、p43)に次の記述がある(論文ではないので、行がえは詰めてある)。
 「3型の塗装は、上面は暗い土色に塗った。ミドリ系統ではなくて茶系統である。(中略)筆者は当時、無塗装の1式戦を見なれていたので、何とキタナイ色をぬったのだろうとなげいたものだ。現在のプラモデルのモールド色でいえば、モノグラムのP-40、P-51の色が近いと思ってよい。(もう少し明るいが)。(中略)
さて、1式戦にもどるが、下面はグレーといいたいところだが、ネズミ色でなくて上面の土色を白でうすめた色をぬった。
これはまったくツヤ消しになっていた。上下色の境界は吹き付けによる軽いボカシ状であった。無塗装機のような機首の黒い反射よけは全機ぬってなかった。キャノピ内の頭当ては黒でその後方のメタノールタンクのキャップは銀色、その他は上面色をぬった。座席はジュラルミン地のままで、機内は防錆塗装されなかった。日の丸標識は全部白フチなし。ただし胴体、主翼とも白帯の中に日の丸を入れたものも組立ラインで見られた。プロペラとスピナはエビ茶色で先端近くに黄線が1本あるのは他機と同じだが、末期には濃緑色プロペラを装備した。左翼上面の付根に胴体にそって細長いサンドペーパー状のすべり止めがはってあり、操縦者はこれをふんで座席に入った。胴体には足かけがなくて、座席から緑色のヒモを1本のばしておき、それを持って乗りこんだ。脚収納孔は全部防錆塗料の「青」にぬられた。市販のものではハンブロープのメタリック・ブルーがこれに近い色である。翼端に上下にとびだしている航空灯は赤と緑(青もあった)で決まりきったことだが、点灯しない時はどちらも黒っぽく見える。尾灯は白。アンテナ柱はえび茶色だった。」


 同p45には、飛行第48戦隊の機体の塗装説明があり、「上面は暗い茶色で下面は灰白色に少し茶色をまぜた色。日の丸は現地で細く白フチを入れた」としている。
 『プラモ・ガイド』1972年春号(「航空情報別冊」、p84)にある隼3型についての塗装説明は、上述を参考にしたものであろう。


 『航空情報』1995年4月号p104には、渡辺利久氏が「下采昇氏にお伺いした」内容を記述している。これも転載する。
 「3型上面塗装は暗褐色で、日本塗料商組見本1991年版ではR28-336が最も近く、日の丸は暗褐色塗装をした上から重ね塗りしたため、それまでの隼の無彩地に赤の明度に比べて遥かに暗い色相となっている。
下面色はそれまでとは違って上面色を白で薄めたもので、寒色あるいは無彩色の下面を見なれた目には、暖色系のこの色は何やらピンク色に見えてしまい、妙な感じだったということである。(中略)また増槽(爆弾)架は無塗装で先端部のみ木製でニス仕上げになっていたということである。」


 さらに前掲『空の技術』p28には次のようにある。
 「・・・そのうちに、甲の完成機のペラも緑灰色の先太タイプに変わった。3型完成機の目立った変化は、外形よりも塗装だ。
無塗装のニ型は末期分(集合排気管を単排気管に変えた、いわゆる2型改)に濃緑の迷彩がなされたが、これが黄土色に黒を混ぜたような、表現しにくい冴えない暗色に変わった。」


 前掲『一式戦闘機「隼」』p66~67を見てほしい。解説によれば「無塗装で完成した機体と考えられる」とあって必ずしも適切な対象でない可能性はあるが、この機体と下采氏による記述を比較してみたい。「増槽(爆弾)架は無塗装で先端部のみ木製でニス仕上げ」のように見える。また、「キャノピ内の頭当ては黒でその後方のメタノールタンクのキャップは銀色、その他は上面色をぬった」には、頭当てはクッションだけが黒くて一致する。ただし操縦席内壁には色が塗ってあるようだ。「左翼上面の付根に胴体にそって細長いサンドペーパー状のすべり止めがはってあ」る。 「日の丸は現地で細く白フチを入れた」ためか、フチの塗りが雑である。「アンテナ柱はえび茶色だった」ためか、胴体の色よりも暗く見える。p132にある写真を見ると、先端黄色の「緑灰色の先太タイプ」プロペラには、型式を記した四角形の銘板が見られない。脱線して風防について書いておくと、この一連の写真で第1風防の前上部にあるワクは内側にあること、第2風防内側上部には手掛けの横棒があり、第3風防の後端内側にも半円のワクがあることが分かる。また第一風防の前方ワクは断面が凹型らしいくみえる。ついでに書くと、羽布張りである補助翼や昇降舵は平らで、波状にはなっていない。


 次に『世界の傑作機』№113「特集・一式戦闘機 隼」(1979年9月号)p41上の写真を見ると、「脚収納孔は全部防錆塗料の「青」にぬられ」ているためか、フチが剥げており、少なくとも色が塗られていることが分かる。
この写真とp41をあわせてみることで、胴体下にある燃料冷却器の前にあるU字型をした空薬莢を左側に放出するためのカバーの形が分かる。燃料冷却器の台座のかたちは、p59上の写真が分かりやすい。


 『ミリタリー エアクラフト』1994年9月号「太平洋戦争日本陸軍機写真集」p2上、あるいは『世界の傑作機』№65「陸軍1式戦闘機「 隼」」(1997年7月)p2~3下の隼2型甲のカラー写真では、日の丸の赤と地色処理をしていない赤帯とでは彩度が異なることが分かる。 長年たったカラー写真を印刷したものなので色を云々できる資料ではないが、「日の丸は暗褐色塗装をした上から重ね塗り」したら沈んだ赤色であったろうことは、容易に想像できる。


 型式は分からないが、隼の機体内の色については『航空ファン』1967年7月号「超音クラブ」の投稿につぎの記述がある。
 「・・・例外的に頭に残っているのが、機体内に塗られてあった防錆塗料の色です。とくに「隼」は整備のため、各点検用パネルをはずした機体があったので、充分に観察することが出来ました。
リブや貫通材、それに脚引込み口内部などには、おそろしくハデな青緑色の透明塗料が施され、一見メタリックカラーのような効果が強烈な印象を与えたのです。その他、油圧系統のパイプやタンク、シリンダーなどは同じように鮮烈な青色と赤色に塗り分けられていました。これも同様に透明塗料です。」下采氏も「脚収納孔は全部防錆塗料の「青」にぬられた」としており、一致している。


 冒頭の片渕氏の記事にあるように3型も最初は無塗装だったようだ。『日本陸軍一式戦闘機隼の塗装とマーキング』(モデルアート社、1992年)p56の上写真は、無塗装で機首に防眩塗装がある機体に上面塗装をしたように見える機体。
下写真は暗褐色らしいが機首に防眩塗装をした機体が掲載されている。この機体は、頭当ての保護柱まで黒いようだ。
 

 プロペラやアンテナ柱にもちょっと触れる。『世界の傑作機』№13「陸軍1式戦闘機「 隼」」(1988年11月)p66上写真の機体は、赤褐色のペラのようだが先端は黄色ベタになっている。「先端が黄色ベタだから全体は緑灰色のはずだ」とまでは言いにくい。 また3型の「アンテナ柱はえび茶色」なのは木製だからか、と思えば、『世界の傑作機』№13「陸軍1式戦闘機「 隼」」p64~65の2型の立川での製造過程の写真では銀色だ。そうなると「えび茶色」は塗装した色だろうか、ということになる。事実は複雑なのだ。


 最後にひとつ。『日本陸軍一式戦闘機隼の塗装とマーキング』p56の下写真で、右端に注目してほしい。キ109が写っていて、その機首右側にパネルがあり開いていることが分かる。同じ写真は『航空ファン』1970年7月号p60にあって、こちらの方がハッキリと分かる。つい先日に発売になった『日本陸軍機データベース』(モデルアート社、2014年)p130の記述の根拠になる写真の一つがこれなのだ。 ※ 引用等に当たり、例えば「三」「Ⅲ」などは「3」に統一しました。


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