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誌上個展

リンカーン・フューチュラ(レベル1/25)
LINCOLN Futura (Revell 1/25) 

by 田口博通 Hiromichi taguchi

 Vintage garageは創世記から1970年代までのビンテージレースカーとビンテージクラシックカーの連載コーナーです。クラシックな姿の中に優雅さと繊細さを内包した彼女達にしびれる方々も多いはず。 
 ビンテージ・ガレージは ビンテージカープラモデルの製作だけでなく、その独特の魅力を醸し出すビンテージカーが背景に持つエピソードにもスポットをあてています。 どうぞお楽しみ下さい。

 (ビンテージ・ガレージ バックナンバーは ページ末に→

  昨年8月からの第1シーズン6回の連載では 主にビンテージF1グランプリレースカーとルマンレースカーを取り上げました。
 今年7月号から始まった第2シーズン6回連載は主にストリートカーを取り上げています。
  今月は 最古のビンテージプラモデルにして、ビンテージな未来カー 1955LINCOLN Futura です。

 このLINCOLN Futuraはレベルから発売されたのが なんと 1956年と キットの裏にしっかりと刻印されています。58年前の昭和31年のことです。まだ 日本にプラモデルが伝来しておらず、もちろん模型店など影も形も無い年代のリリースです。


1955 リンカーン・フューチュラ(レベル 1/25)

実車について

 レベルからモデル化されている 「リンカーン フューチュラ」は1955年のシカゴ自動車ショーで、フォードのドリームカーとして、展示された車である。
 ドリームカー(夢の車)とは 今でいう、コンセプトカーといったもので、平均的な家庭の所有する車は近未来にこうなる!という デザイントレンドとメカニズムを歌い上げたもので、それゆえ この年のフォードのドリームカーの名称も”未来”という意味を込めて 「フューチュラ」となっていた。

 このフォードの「リンカーン フューチュラ」のデザインは 全長227インチという巨大なボディに、派手なクロームメッキのバンパーをつけて、 ジェット戦闘機をイメージしたプレキシグラス製のダブルバブルキャノピーに 飛行機の尾翼のようなピンと張った大型テイルフィンである。
 ボディはフォード社のスタイリング部門のウイリアム M シュミットがデザインし、イタリアのコーチビルダー ギアが制作した。
 メカニズムには 大出力6リッターV-8エンジンとオートマチック変速機、チューブラ・クロスメンバーシャーシーに全輪独立懸架 という当時としては最新、最強のメカニズムを内臓していた。 リンカーン フューチュラのテーマは、クルマと強くて速いジェット戦闘機最新テクノロジーイメージの融合だったのである。

 実際のところ、1955年にオートマチック変速機を装備していたのは、さすがに自動車大国のアメリカのことで、昭和30年当時 オート3輪がやっと走っていた日本ではまだ全く考えられない自動車技術を誇示していた正に近未来デザインの1台だった。
 
 また、この他国では絶対真似できないような超大型、大出力車で、大型テールフィンのデザイントレンドは
 強いアメリカの時代の象徴として、1950年代に大流行し 「フィフティーズ」と言われるアメリカの古き良き時代を謳歌していくのだ。

  本格的な冷戦に入る少し前の、アメリカ独り勝ち、一極集中の絶対的な時代で アメリカが本格的な消費社会を迎え、ガソリン浪費、アメリカンバブル最盛期の時代背景だったのである。
まるで、ジェット機のようなデザイン。


フューチュラのホワイトのボディは white pearlescent color treatments と称される当時の最新の塗装技術で 砕いたパール片を混ぜて塗装したという。 現代でいう「パールホワイトマイカ」塗装だと思われる。


ダブルバブルキャノピー中央部はF86Dセイバーの如く上に開く。




 ところで、フューチュラがただの未来カーとしてでなく、「フォード・リンカーン シリーズ」のコンセプトカーとして発表されたことにも 大きな意味があった。

 フォードのリンカーン シリーズは 現在も続くフォードの最高級車のブランド名で、第16代アメリカ合衆国大統領、エイブラハム・リンカーンにちなんだものである。GMのキャディラックと並んでアメリカを代表する高級車として知られる。
 リンカーンは元々は ヘンリー・マーティン・リーランドにより創業され、1922年にフォード・モーターに買収されて子会社となった高級車メーカー リンカーン・モーターカンパニーのブランドで、1940年にフォード・モーターのリンカーン部門に再編されている。
 
 第2次大戦後当時のリンカーン シリーズの状況であるが、全輪独立懸架と、新設計V型8気筒エンジン、そしてオートマチック変速機をオプション搭載したリンカーンとして「コスモポリタン」1949年式が発表されている。

 以後、リンカーンは1952年と1956年にフルモデルチェンジを行っているが、競合するキャディラックやクライスラーが過激な大型・大出力化を進める中、装備面はともかくパワーで劣ったリンカーンは、競合各車の後塵を拝することになり、パワーアップ競争に身を投じる状況となっていた。
 
 フォードとしては、"A $250,000 laboratory on wheels"(25万ドルの動く研究室) と表現された豪華、未来的なフューチュラを1955年のカーショーで リンカーン・ブランドで宣伝し、リンカーン ブランドを もう一度 最新、最強の高級車として アピールする必要があったのである。




キットについて


 このキットはなんと1956年の刻印が入った約60年前のビンテージキットではあるが、驚くことに現行品で売られている。 時々、ヒストリック シリーズとして 間欠生産されて市場に出回っているようで 2年前に模型店で入手した。  60年前のものといえば、一般的には骨董品となるのだろうが、プラモデルは それが 今でも現行品で売られていることが多い。考えてみれば 不思議なことだ。箱絵も発売当時のデザインのままである。

 ボックスアート 


 ボックスアートは、当時レベルのアートディレクターだったRichard Kishadyの手によるもので、ドリームカーらしく虹の中に エメラルドパールに キラキラと輝く、ゴージャスなフューチュラのボディを見事に描き出している。
 ボディからバブルコクピットへのラインや前後のフィンの曲線デザインが優雅で美しい。
  この箱絵の中に1950年代の豊かでハッピーなフィフテーズ・アメリカンライフのイメージが凝縮されていて、最新のドレスとブレザーをまとったカップルがこれから、豪華なディナーへお出かけという雰囲気を醸し出している。
 
 説明書も発売当時のままで、
copyright 1956 by Revell AMT.Inc と入っている。
1950年代当時のアメリカの雰囲気がそのまま伝わってくる。







部品
 自動車ショーの展示車はパールホワイトだったようだが、キットは 綺麗なエメラルドグリーン色のプラスチックで成形されている。塗装をしなくても、見栄えがするようにとの配慮だろう。
 部品点数は37点と さすがに プラモ創世記以前の1956年発売ということもあり少ない。
 外形だけのスケールモデルで、エンジンなどの内臓物はない。しかし、ドライバーと、同乗のレディは素晴らしいモールドで再現されている。また、シートとダッシュパネルの造作は今の目でみても秀逸だ。 
 ボディは5分割されているが 合いはそう悪くなく立派。また、当時のタイヤはゴムでなくもちろんプラ成形。メッキ部品のメッキは厚いが、ゲート湯口が目立つ所についているので、メッキ修正に骨が折れる。

部品ランナー

製作

ボディの組み立てと塗装
 ボディは5分割されていて、シートコクピットを下部胴体に乗せ、それを中心に、前部ボンネット、サイドボディ、後部トランクドアを組み合わせる構造になっている。
 合いは現代のキットほどには良くないが、それでも接着面のすりあわせだけで、パテなしで組み立て可能なのは、約60年前のプラモデルキットと考えると素晴らしい。
 シートと組み合わせるダッシュパネルのモールドも出色の出来だ。説明書の塗装指示の通り、シートをホワイトとエメラルドグリーンで塗り分けると、エレガントでハイセンスで、なおかつゴージャスな雰囲気になるのはアメリカン デザインの面目躍如だろう。 
 全体の塗装は、色々とカラーを物色した末に、ガイアノーツのNo.18 エメラルドグリーンを使った。 この上にパールを吹けば、雰囲気が出るのだろうが、あいにく Mrカラーのパール塗料が 近隣で入手できなかったので、ソリッド塗装のエメラルドグリーンで完了となってしまった。
 そのかわり、実車用のカルナバカーワックスを布につけて入念に磨き、ゴージャスな艶を出してみた。

 シルバーメッキ部分は湯口が目立つので 厚めのアルミ箔を貼って補正した。
 バブルキャノピーの枠もクロームシルバーとなっているので、アルミ箔を貼ってみた。

下部ボディにコクピットを載せる。

 
 シートとコクピットを塗装。

ボディをエメラルドグリーンで塗装


メッキ部品のクロームメッキは厚いが、ゲートが目立つので、アルミ箔を貼って、補正する。   バブルキャノピーの枠には やはりアルミ箔を貼っている。


 助手席の金髪のレディは1955年当時の最新流行のラメ入りドレスで、サブリナパンツというスタイルだ。アイシャドー、マニュキアも丁寧にさしてみた。
 女性らしい肩から胸、ウエストのラインなど、原型とモールドも秀逸で 1956年当時のアメリカの金型技術の高さを思い知らされる。 
 ドライバーは当時の映画から、ブラウンのブレザーにチョッキというスタイルにしてみた。
 箱絵の雰囲気をそのままに、ディナーパーティにおでかけというシチュエーションを連想させる。




 タイヤ
 タイヤは左右分割のプラ製なので、丁寧に接着面を整形しよう。 テープでマスキングしてホワイトタイヤに塗り分けた。
 タイヤは金属棒にメッキホイルを通して ボディにつけるだけの簡単なものだが、腰高にならず、上手に実車の雰囲気を出しているのには 感心する。
 
 





完成

 テールデザインは非常に綺麗だ。フロントのクロームバンパーがラジエターグリルと一体型になった大口の派手なもので これは好みが別れるかもしれない。
 アンテナの形がなんとも未来的だが、これはもちろん中波ラジオのアンテナである。丸い部分は飾りではなく、おそらくコイルで磁界感応型の設計となっていて、電界型の長いアンテナ線を必要としない最新の優れもの設計だったのだろう。余談だが、もちろん、当時はトランジスタなどなく、カーラジオも真空管だったはずだ。
 完成すると ボンネットが長く、1/25とは思えないような非常に大きな車となる。全体の曲面が優雅で、魅力的なスタイルである。 
 典型的なアメ車ではあるのだが、優雅で、未来車にしてフィフティーズのビンテージカーとなっている。 





リンカーン フューチュラ その後

 ショーの展示が終わると フューチュラは幸運なことにハリウッドに譲られ、1959年公開のコメディ映画「It Started With A Kiss」に赤く塗られて登場した。
 さらにその後 カスタムカーの大御所ジョージ・バリスの手に渡り、1966年にTV放映される「バットマン」の バットマンカーへと改造されている。アメリカンコミックのヒーロー バットマンの乗る黒く塗られたバットマンカーは アメリカだけでなく、日本でも大流行した。
 懐かしいイマイの1/40 バットマンカーを作られたオールドファンも多かろう。

 リンカーン フューチュラの未来的なスタイルは初代バットマンカーとして受け継がれ、我々の心に焼き付いていたのである。
 下写真はTV放映された初代バットマンカー
主人公が撮影がしやすいように中央キャノピーが取り払われ、セミオープンカーに改造されているが、ボンネット中央とバンパー以外は、フューチュラをほぼそのまま使っていることがわかる。


イマイのバットマンCAR プラモデルの箱絵
濃紺の車体に黄色のラインとして描かれている。

フォーチュラを改造した初代バットマンカーは 1966年のTV放映以来、プラモデルやミニカーとしても多く製品化された。
下写真は精密に再現されたミニカー


(資料および引用写真 wikipedia、グーグルなどより)

ビンテージ・ガレージ バックナンバー
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2nd
シーズン
2014年10月号 第10回 メルセデス・ベンツ540K(モノグラム1/24)
MERCEDES-BENZ540K (Monogram 1/24)
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2014年8月号 第8回 ド・ディオン・ブートン (1904年型)(ユニオン 1/16)
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2014年7月号 第7回 アルファロメオ2300 トゥーリング(1932)(ブラーゴメタルキット 1/18)
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1st
シーズン
2014年1月号  第6回 ベンツ 300SLR (レベルモノグラム 1/24) 
2013年12月号 第5回 BENTLEY 4.5L BLOWER (エレール 1/24)
2013年11月号 第4回 ブガッティ 35B(モノグラム 1/24) 
2013年10月号 第3回 BRABHAM F-3 (エレール  1/24) 
2013年9月号  第2回 ROB WALKER Team Lotus 72C (エブロ 1/20)
2013年8月号  第1回 ホンダF1 RA272(タミヤ 1/20)



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Vol75 2014 November.     www.webmodelers.com /Office webmodelers all right reserved /
                    editor Hiromichi Taguchi 田口博通 /無断転載を禁ず  リンクフリー

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