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誌上個展

オースチン ヒーレー 100-6 (レベル1/25)
AUSTIN HEALEY 100-SIX (Revell 1/25) 

by 田口博通 Hiromichi taguchi

 Vintage garageは創世記から1970年代までのビンテージレースカーとビンテージクラシックカーの連載コーナーです。クラシックな姿の中に優雅さと繊細さを内包した彼女達にしびれる方々も多いはず。 
 ビンテージ・ガレージは ビンテージカープラモデルの製作だけでなく、その独特の魅力を醸し出すビンテージカーが背景に持つエピソードにもスポットをあてています。 どうぞお楽しみ下さい。

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  昨年8月からの第1シーズン6回の連載では 主にビンテージF1グランプリレースカーとルマンレースカーを取り上げました。
今年7月号から始まった第2シーズン6回連載は主にストリートカーを取り上げています。
 
 第2シーズンのラストバッターとして、今月登場するのは 1950年代の代表的なブリティッシュライトスポーツカー オースチン ヒーレー100 です。カニ目のヒーレースプライトの先代といえばいいでしょうか。
 このオースチン ヒーレー100のプラモデルはレベルからアメリカで発売されたのが 先月のリンカーン・フューチュラと同時期のプラモデル黎明期1950年代中頃です。ヘッドライトの透明部品もついていませんが、全体のプロポーションが良く、しかも、組み易さと実車構造がキットの中で両立して再現されていて教育的雰囲気に溢れているのです。


オースチン ヒーレー 100-6(レベル 1/25)

実車について

 オースチン・ヒーレー 100 は ブリティッシュライトスポーツカーを代表する美しい2シータースポーツカーで、その姿に魅了される人が多い。
 日本では後継のカニ目のヒーレー スプライトのファニーフェイスの方が有名だが、これに対し、ヒーレー100は どこにおいても絵になる車で、最近では アニメ「ギャラリーフェイク」の冒頭に 主人公が乗る似た車が登場している。

 この美しいスポーツカーの開発から生産の経緯は ちょっと変わっている。
 1950年代当時、イギリスで売出し中のカーチューナーだったドナルド・ヒーレーにより、彼の小さな会社で、オースチンA90アトランティックのメカニズムを母体にして開発され、美しいボディがデザインされた。ヒーレーは1952年のロンドンモーターショーに出品し、ブリティッシュ・モーター・コーポレーション(BMC)・オースチン部門のトップであったレナード・ロードはそのデザインに強くひかれた。

 その後、レナード・ロードと、ドナルド・ヒーレーとの間に20年間の合弁事業契約が結ばれ、「オースチン・ヒーレー」は、イギリスのスポーツカーブランドとして誕生したのだ。BMCは あの箱型オースチンタクシーで有名な大手メーカーで、その大メーカーの生産販売力と 街のガレージチューナーが提携したようなものと考えれば いいだろう。
 オースチン・ヒーレー100は 1953年から1959年にかけてブリティッシュ・モーター・コーポレーション(BMC)で生産された ベストセラー スポーツカーシリーズとなった。当時、実に3万台が生産されたのである。
  レベルからモデル化された 「100-6」はその最後期型で 1958年から生産された6気筒2639ccエンジン型で4シーターとなっている。「100」よりも最終型の「3000」と多くの共通点を持ったモデルで、+2(後席)のスペースを作るため、ホイールベースは2インチ拡大されている。車体重量2,478lb.(1.12トン)で 最高速度105m.p.hを出した。

 「100」という名をドナルド・ヒーレーがつけたのは、この時代にはほとんど存在しなかった100 m.p.h(時速160kmに相当) を達成できる車両であることに由来する。
 それだけ、この車が速かったということであり、ヒーレー100は美しいだけでなく、1950年代のカースポーツを牽引した有名な車となった。各地の草レースをはじめ、当時のスポーツカーレースにはことごとく登場している。


キットについて

 このキットは1996年にレベル・モノグラムブランドで再販されたので、その時期に入手された方も多いと思う。先月のリンカーンフューチュラと同時期リリースのいにしえのキットである。それが今でも、、時々、ヒストリック シリーズとして 間欠生産されて 現行品として市場に出回っているのは嬉しいことだ。  ボックスアートも昔のままで再販されたため、 1950年代の素朴な草レースの雰囲気を見事に描き出している。絵のタッチが素晴らしい。

 ちなみに1960年代初頭の日本ではマルサンがレベルの代理で720円で売っていた時期があったようだ。その当時の舶来品の価格720円は非常に高価であった。

 1996年再販時のボックスアート オリジナル版と同一  



 オリジナル版の箱絵には easy to assemble plastic kit (プラスチック製の組み立て易いキット)とあり、
・トランク内にバッテリーとスペアタイア、
・ボンネットフッドとトランクがヒンジで開閉できる。
・バケットシートが前傾可動する。
・精密なワイヤーホイール 
 と特徴が書かれている。

発売当時としては、これでも 可動ギミック満載のキットという位置づけだったのだろう。
   最近のクラシックス版箱絵

ボンネットとトランクが開き、バケットシートが前傾できる。
ワイヤーホイールは一発抜きのボディと同色のプラ製で、塗装する必要がある。

製作

部品 部品ランナー
  部品点数は意外に多く、オープン ザ ボックスをすると 右のように車体とシャーシー部品がばらっと入っている。

タイヤはゴム製ではなく、この時代共通の2つ割りのプラ部品が入っている。 また、メッキ部品のメッキは厚い。 

 ボディは下のように4分割されている。
可動金型の技術は当時は一般的ではなかったということだろう。

ボディは4分割されている。

 
 組み合わせると きちんとボディの形となる。接着部のスジはしかりと消しておこう。

組みあがり塗装が済んだ下回り シャーシー、エンジン、コクピット



 下回りは裏返すと下写真のようにラダーフレームシャーシーになっている。

 キットはセンターパーツをラダーフレームと床板、後部燃料タンクを一体として強度を持たせている。そこに前後のサスペンションを組みつける方式にして、組み立て易くなるように考慮されている。
また、後輪サスペンションと後輪軸下部が一体成型されている。これも強度を上げて、組み立てやすくするアイデアだろう。


 これが、再現された見事な前車輪部のサスペンション構造だが、このプラモデルキットが設計されたのは 1950年代ということをお忘れなく。
 後部サスペンションは完成すると、見事に実車構造を再現している。


 組み上がったシャーシーの上に、インサイドボディパネル、防火壁、トランスミッションカバーを組んで行く。
 トランクフロアと後部シートを組みつければ、ボックス構造のコクピットが完成する。


 さて、この時期のレベルのカープラモデルが素晴らしいのは、組み立て説明書で、全ての部品名が記載されているのである。 キットと説明書で 自動車の構造と部品の役割を理解し、メカ好きな子供達を育てる非常に教育的な内容になっている。
 きっと、欧米では その時代に出現したこのような自動車プラモデルを組み立てた少年たちが、大人になり 1960年代以降のモータリゼーション社会を支え、 ロケット、航空機、コンピューターと高度な科学技術開発を担う人達になっていったに違いない。まさに映画の「ロケットボーイズ」の世界である。 
 一方の日本では、1960年以降流行したのはドンガラディに車軸がついただけの、プアなオモチャなプラモデルであった。現在の日本でも 車のプラモデルは良くなったとはいえ、基本的には同じで、説明書は立体組み立てパズルのそれである。たとえ組み立てても、部品の名称、その働き、車の構造をうかがい知ることはできない。うわべだけを真似て売れれば良しとする日本の特性と 内容や構造を重要視するアメリカ、ヨーロッパとの国情の違いとはいえ、50年以上 遅れていて、残念な思いを禁じ得ない。日本のプラモデルメーカーになんとかして欲しいと思う部分である。
 オースチン ヒーレー100 組み立て説明書から

 昔からずっと疑問だったNo.40 の捩じりバネのような部品は 説明書によると 「SWAY BAR」というそうである。
あなたは 知ってましたか?



 ダッシュパネル、エンジンなどを取り付け、塗装を行う。コクピットの内装はハンブロールのレザー色を使ってみた。ギアシフトは折ってしまったので、虫ピンで自作した。




塗装
 ボディの塗装は 箱絵はツートンカラーとなっているが、クラシックなイメージを大切にしたくてオフホワイト単色とした。Mrカラーのレーシングホワイトを使ったがアイボリーでも良かったかもしれない。
 ウインドシールドフレームはクロームシルバーに塗装しなければならないが、今年の静岡ホビーショーの合同作品展示会場でハセガワトライツールの「ミラーフィニッシュ」を細切りにして貼ると良いと教わり、使ってみた。曲面追従金属光沢シートというのを使うのは 初めてだったのだが、確かに使い易く、綺麗に仕上がり 光沢も素晴らしい。
 ヘッドライトとテールライトが透明部品でなく、メッキ部品なのはご愛嬌というところで、気になる人は 自作しておけばよいだろう。
 



完成

 全体のデザインは非常に綺麗だ。完成すると ブリティッシュ ライトスポーツカーそのものの雰囲気を再現していて、魅力的なスタイルである。    




オースチン ヒーレー その後

 オースチン・ヒーレー100は エンジン排気量を大きくし豪華になった3000シリーズに進化し、1967年まで生産が続けられた。
 また、カニ目が有名の オースチン ヒーレー スプライトはライトウエイトスポーツカーとして1958年に登場し、1971年まで生産された。
 そして、オースチン・ヒーレー ブランドは、1972年の20年間という合意期限満了まで続けられ 終了した。
 
 ヒーレースプライトは イギリスらしいが実質「財布の軽い中年のためのスポーツカー」のコンセプトで、徹底して安いスポーツカーをめざした。そのため、パワートレーンやサスペンションはモーリス・マイナーの量産部品流用でコストを抑え、エンジンを小さくし、軽量化するため、オープンカーのボディとしては世界初の「モノコック構造」で設計されている。 ドアノブやトランクドアを省いてまで、車両重量602kgとして、非力な水冷直列4気筒、948ccの43馬力エンジンを搭載し、最高速度130km/hを出せた。価格が安い軽量スポーツカーという目論見がヒットし、5万台を発売する車となっている。

(写真) オースチンヒーレースプライトMk-1 (グンゼ 1/24)
webmodelers2012年5月号掲載 by クラキン  



 ドナルド・ヒーレーは、満了以前の1968年に合弁事業会社から離れているが、おそらく ブリティッシュ・モーター・ホールディングス(1966年にBMCとジャガーの合併により誕生した)がレイランド・モータースと合併し、ブリティッシュ・レイランド・モーター・コーポレーションとなった時に 何事かあったに違いない。

 さて、大手オースチン・ブランドの行方であるが、2005年にブリティッシュ・レイランドの後継会社であるMGローバーグループが破産した。
 この時にニュースになったので ご記憶と思うが、中国の「南京汽車」が買収し、現在のオースチンは、「南京汽車」が所有しているのである。

 一方のヒーレーブランドは ヒーレー・オートモーティブ・コンサルタントが所有していたが、2005年ドナルド・ヒーレーの家族によりHFIオートモーティブに売却された。
 2007年6月、南京汽車とヒーレー・オートモーティブ・コンサルタントとHFIオートモーティブは、オースチン・ヒーレーおよびヒーレーブランドを南京汽車製MGの一部として再現することに関し、協力する合意に署名したようである。 中国国内でのMGブランドの復活は、2007年末とされた。 
 しかし、ヒーレーおよびオースチン・ヒーレー両ブランドの復活へのスケジュールは提示されていない。

 さて、筆者は中国で長年仕事をし、暮らした経験があるが、個人的偏見では、中国でブリティッシュのテイストと精神を残したデザインが可能であるとは思い難い。
 中国内で、中華的なMGもどきがデザインされ、また、中華的ヒーレーもどきが 排気ガスで充満の汚い道路を 不動産利権と株でしこたま太った政府関係者の子息が 我が物顔で走る日が来ないことを祈るばかりである。

 (参考資料 wikipediaなど)




ビンテージ・ガレージ バックナンバー
ビンテージ・ガレージ バックナンバー
2nd
シーズン
2014年11月号 第11回 リンカーン・フューチュラ(レベル1/25) 
LINCOLN Futura (Revell 1/25)
2014年10月号 第10回 メルセデス・ベンツ540K(モノグラム1/24)
MERCEDES-BENZ540K (Monogram 1/24)
2014年9月号 第9回 デユーセンバーグ・モデルSJ(モノグラム1/24) 
DUESENBERG SJ (Monogram 1/24) 
2014年8月号 第8回 ド・ディオン・ブートン (1904年型)(ユニオン 1/16)
DE DION BOUTON 1904 (UNION 1/16 )
2014年7月号 第7回 アルファロメオ2300 トゥーリング(1932)(ブラーゴメタルキット 1/18)
ALFA ROMEO 2300 TOURING(Burago Metal Kit 1/18)
1st
シーズン
2014年1月号  第6回 ベンツ 300SLR (レベルモノグラム 1/24) 
2013年12月号 第5回 BENTLEY 4.5L BLOWER (エレール 1/24)
2013年11月号 第4回 ブガッティ 35B(モノグラム 1/24) 
2013年10月号 第3回 BRABHAM F-3 (エレール  1/24) 
2013年9月号  第2回 ROB WALKER Team Lotus 72C (エブロ 1/20)
2013年8月号  第1回 ホンダF1 RA272(タミヤ 1/20)



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Vol76 2014 December.     www.webmodelers.com /Office webmodelers all right reserved /
                    editor Hiromichi Taguchi 田口博通 /無断転載を禁ず  リンクフリー

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