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飛行機プラモデルの製作

愛知B7A2艦上攻撃機 “流星改” 製作記
(Hasegawa 1/48)

by Kiyoshi Iwama(ひやめし会)


愛知 流星改 (1/48) Hasegawa Box Art より

 私の所属するスケールモデルクラブでは、5月に開催される”静岡ホビーショー・モデラーズクラブ合同作品展“に毎年参加しています。参加に当たってはクラブ内でテーマを設定し、それに因んだ作品を1つは展示する暗黙の了解があります。そして今年のお題は「魚雷」でした。魚雷と聞いてイメージしたのが、雷撃機です。数ある雷撃機の中から選び出したのは、ハセガワの愛知 B7A2流星改(1/48)でした。流麗なスタイルのこの機体は以前から作りたかったもので、やっとその機会がやってきました。 しかし今回の主役は魚雷。搭載魚雷について何か工夫を凝らしたいと、流星改に関する資料をいろいろ調べましたが、流星改は機体自身の写真も少なく、特に魚雷を搭載した写真で見つかったのはWikipediaで見つけた、九一式魚雷を抱いて飛行する横空の流星改の解像度の低い写真だけでした。それでも無いよりはまし。この写真とボックスアートの小池繁夫氏のイラストを頼りに、そして九七艦攻の資料も参考にして、雷撃姿の流星改にトライしてみました。


魚雷を搭載した流星改(出展:Wikipedia)


 ここで、旧日本海軍機の魚雷の搭載方式について少し触れておきます。九一式魚雷は日本海軍唯一の航空魚雷で、その射程は2000m、全長5.27m、直径40cm、重量850kg、弾頭炸薬量200kgと大型で、爆弾倉を有する流星改も倉内には搭載できず機外搭載となっています。またその長さ故、エンジンオイルの冷却用ラジエータとの干渉を避けるため、搭載位置を機体中心線からずらし、九七艦攻、天山では右舷より、流星では左舷寄りに搭載されました。そして日本海軍では、魚雷をフックで吊るすのではなく、機体から吊るしている抱締め索というスチールワイヤーにより魚雷を引っ張り上げ、機体下面に取り付けられた振れ止め金具に押しつけながら機体に固定しています。 魚雷投下時には、抱締め索を締め上げ、固定しているフックが、爆撃航法士の操作する制御索によって外れ、魚雷が抱締め索から解放され、自重で落下する。恐らくこういう仕組みだと思われます。(ここに述べた魚雷搭載及び投下のシーケンスは、諸資料を読んでの著者の推定であることをお断りしておきます。)なお抱締め索は、魚雷投下後も機体に残るもので、抱締め索をたらして飛行する九七艦攻の写真でも確認できます。

実機紹介
 流星の開発は、昭和16年、海軍が雷撃、水平爆撃、急降下爆撃の三用途を1機で賄う艦攻・艦爆統合機計画に始まりました。この高性能の新型艦上攻撃機は、十六試艦上攻撃機と名称が与えられ、試作メーカに愛知航空機が指名されました。その要求性能は少々現実離れしたもので、発動機:誉11型、搭乗員2名に爆弾800kg、もしくは魚雷を搭載して最大速度:300ノット(556km/h)、航続距離:1000カイリ(1850km)、運動性:零戦並み、武装20mm機関砲×2、13mm×1、などがあげられ、愛知航空機の技術陣に重くのしかかります。 爆弾倉を設けたため中翼となり、魚雷の機外搭載を考えると主脚が長くなりすぎるため主翼には逆ガルを採用、その他にもフラップ兼用補助翼、尾翼連動式フラップなど新機軸が適用されました。そして昭和17年12月に主翼が楕円翼の試製流星試作1号機が完成します。しかし結果は重量過大により要求性能を満たせず、改良されることになりました。


 改良設計には思わぬ時間を要し、パワーアップした誉12型の搭載、主翼の直線テーパー形状への変更など、様々な改良が加えられます。しかし時遅く、流星改11型初号機の完成をみたのは、終戦間際の昭和20年3月でした。その後量産されたものの完成機は117機を数えるのみで、結局、その性能を発揮することなく終戦を迎えることになった次第です。 試製流星改11の主要諸元を下記に示します。
   乗  員: 2名
   全  長: 11.49m
   全  幅: 14.40m
   全  高: 4.075m
   総重量 : 5,700㎏
   発動機 : 誉12型(1670馬力)
   最大速度: 293kt (543km/hr)@高度6,200m
   固定武装: 20㎜機銃×2、7.7mm or 13mm機銃×1
   搭載兵装: 爆弾800kg×1 or 500kg×1 or 250kg×2 or 800kg航空魚雷×1

製作

1.コクピット
 コクピット内はかなり多くの部品で構成されています。大きくは床と左右各2枚の内壁です。床面にはサイドコンソール、フットペダル、操縦桿、無線機、爆撃照準器、座席などを、内壁には各種機器、ハンドル類、酸素ボンベなどを取り付けますが、その前に塗装を行います。塗装色はMr. Colorの三菱系機内色をベースに、無線機や計器類にはつや消しの黒を吹き付け、グレーで軽くドライブラシをして立体感が出るようにしてみました。 主計器盤には計器のモールドが施されていますが、その上から軟化剤を使ってデカールを貼っています。出来上がった床面と内壁の一枚が、写真1、2です。床面にはその後、シートベルトを取り付けた座席等を載せるとコクピットの床面が完成です。(写真3)さらにコクピット床面の側面に内壁を、また下面に爆弾倉の天井板を接着します。これで胴体内に収めるコクピットが完成です。


写真1 コクピット床面

写真2 胴体内壁(パイロット席左舷側)


写真3 完成したコクピット床面

2.胴体・翼
 胴体、主翼、尾翼と、全てを接合してから塗装することにしました。胴体は左右分割、前方に付くエンジンカウリングは上下分割のカバーとリップ部から成り、胴体との間にカウルフラップが入ります。カウルフラップは開・閉二種類が用意されていますが、作例では閉タイプを選びました。また胴体下の爆弾倉には扉を取り付けますが、扉は最終組み立てまで仮付のまま作業を進めました。  まず胴体の左右接合ですが、その前に主翼の取り付け部を青竹色に塗っておきます。そして左右接合時には、コクピットと爆弾倉を組み込みます。左の胴体部にこれらを組み込んだ状態が写真4です。続いて胴体の左右を接着します。仮組ではある程度フィットしていても接着後、左右に僅かな段差の出る部分もあり、面一になるように整形します。アンテナ柱とループアンテナの取り付く胴体中央部の合わせ目(塗装済みの部分)に段差が生じたため、整形し直し、塗装もやり直しました。出来上がった胴体が写真5です。コクピットと爆弾倉内は写真6と7に示す通りです。ここまで終わると次に2枚の水平尾翼を胴体に接着します。



写真4 左側胴体に組み込んだコクピットと爆弾倉

写真5 左右接合し、合わせ目の修正と塗装をやり直した胴体

写真6 胴体に組み込まれたコクピット

写真7 胴体に組み込まれた爆弾倉


 次に主翼ですが、逆ガルの主翼は上下の貼り合わせで、左右からそれぞれ、胴体に差し込みます。若干のすり合わせが必要のようですがパテの必要はなさそうです。接着に移る前に主翼の脚収納部を青竹色で塗っておきます。次に主翼の上下を貼り合わせ、前後縁を整形した後胴体へ接着します。 つなぎ目に若干の段差ができたため、周囲をテープでマスキングし、耐水ペーパーをかけて段差を無くしていきました。(写真8)この作業が終わると、機体はしっかりと「士」の字となり、塗装の準備が完了です。


写真8 主翼接合部の整形

3.機体の塗装
 既に塗装の終わっているコクピットや脚収納部をマスキングし、爆弾倉にはマスキング代わりに扉を両面テープで貼り付けておきます。こうすれば一石二鳥です。そして機体下面を明灰白色で塗装していきます。オイルクーラの取り付けは、エンジンカウリングの接着後となりますので、この段階では未装着ですが、同時に塗装を済ませます。下面の塗り上がった姿が、写真9です。 次に上面の塗装ですが、その前にコクピット内の残りの部品の取り付けと、風防やキャノピーの接着を行います。取り付ける部品はアンテナや照準器、後部座席の13mm機銃などです。(写真10)風防とキャノピーは見事に胴体にフィットしますが、プレキシガラス部のマスキング作業は、老眼の目には苦痛でしかありません。また風防とキャノピーは、胴体に接着する前に、まず機内色を吹き付けておきます。そして接着です。写真11が風防、キャノピーを接着した姿です。


写真9 下面の明灰白色を塗り終えた状態


写真10 照準器などの取り付け

写真11 風防、キャノピーの接着


 次に機体下面のマスキングです。上下面の塗り分けパターンは機体によって変わっていますので、製作する第752航空隊第5飛行隊所属機のマスキングパターンを取説の側面図を見ながら作成し、機体に貼っていきます。マスキングパターンのエッジの部分を少し浮かせると、塗り分け部にぼかしを付けることができます。いよいよ上面色の塗装です。中島系暗緑色を一気に吹き付けていきます。塗り終わった状態が写真12です。 上面色の後は主翼前縁の識別帯塗装です。マスキングをしてから白を吹き、その上から黄橙色で仕上げです。これで大半の塗装作業は完了です。写真13はマスキングテープと仮付のカウリングを外し、エンジンを取り付けたところです。(風防とキャノピーのマスキングは、クリアをオーバーコートした後外します。)この後、カウリング、オイルクーラを本付けすると機体の全形が出来上がります。(写真14)黄橙色の識別帯が鮮やかです。



写真12 機体上面の暗緑色を塗り終えたところ

写真13 機首のカウリングを外しエンジンを取り付ける


写真14 機体の塗装を終え、マスキングを外した状態

4.九一式魚雷
 今回の目玉です。魚雷本体は上下の貼り合わせで出来上がり、これにスクリューと安定板を取り付ければ完成です。頭の形状が何となくすっきりせず、紙やすりで削って整形しました。魚雷全体は銀(Mr. Colorの8番)で、弾頭部を少し焼き鉄色を混ぜた暗銀色で塗装しました。安定板は木製ですのでウッディ・ブラウン色を塗っています。  次に抱締め索とフック部です。フック部はエバー・グリーンのプラ材を使って適当に、それらしく作り、これにφ0.3mmのステンレス製ワイヤで魚雷周囲を巻く4本(左右各2本)の抱締め索を作りました。フック部に2本のワイヤを取り付けたのが写真15 です。機体側に固定される振れ止め金具の真ん中の金具を先に魚雷に接着し、ここに抱締め索を固定します。(写真16)次に残りの振れ止め金具2個も、魚雷側に固定します。これで魚雷は完成です。(写真17 )



写真15 フックと抱締め索  

写真16 フックと抱締め索を魚雷に取り付けた状態


写真17 完成した九一式魚雷

 次に魚雷の機体への搭載ですが、魚雷の振れ止め金具は爆弾倉の扉に固定され、また魚雷投下の制御索もこの扉を貫通する形で抱締め索のフックに繋がります。従って爆弾倉の扉に魚雷を吊るす形にします。爆弾倉の扉には予め制御索の貫通する穴をピンバイスで開けてありますので、ここからφ0.1の銅線2本を撚って自作したワイヤを通し、このワイヤの先端を、フック部の2本の抱締め索の間に瞬着で固定します。 そして魚雷に固定された3つの振れ止め金具を扉の所定位置に接着し、固定後2本の制御索を爆弾倉扉の内側で締め上げ、固定します。これで抱締め索、投下制御索を魚雷に取り付けた状態が出来上がります。(写真18)後は扉を爆弾倉に接着するだけです。


写真18 爆弾倉扉に取り付けた九一式魚雷


5.その他部品
 残る部品は、プロペラ、主脚、主輪、尾輪、着艦フック、20mm機銃、ピトー管、翼端灯等です。プロペラはスピナー、ブレードとも赤褐色でブレードの根元を金属色で塗装、ブレードの黄色のラインはデカールで済ませました。(写真19)。主脚はシリンダー部もゴムの蛇腹で覆われているため黒一色で済みます。主輪はタイヤをタイヤブラック、ハブを銀で塗装します 。(写真20)実機が空母から運用されなかったこともあり、取説には着艦フックの先端をカットし、根元だけを機体に取り付けるよう指示されていましたが、艦上機に着艦フックは不可欠と、本来の姿で完成すべくそのまま取り付けることにしました。20mm機銃は先端をピンバイスで開口してみましたが、あまり効果はなかったようです。



写真19 完成したプロペラ 

写真20 塗装の終わった主脚


6.完成へ
 いよいよ完成へ、最後の作業です。機体にデカールを貼り、つや消しクリアでオーバーコーティングをした後パネルラインへ墨を入れ、軽く汚しを付けます。そして風防とキャノピーのマスキングを外し、脚柱や機銃、エンジン排気管、翼端灯、プロペラなどを取り付けていきます。最後に少々厄介なアンテナ線を張り、完成です。 途中いろいろミスがありましたが、優美な流星改の姿を何とか蘇らすことができました。如何でしょうか?


写真21 完成した流星改艦攻(アンテナ線を張る前)


写真22 完成した流星改艦攻


写真23 完成した流星改艦攻(魚雷搭載部)


写真24 完成した流星改艦攻の雄姿


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Vol.84 2015 August.   www.webmodelers.com /Office webmodelers all right reserved /  
           editor Hiromichi Taguchi 田口博通 /無断転載を禁ず  リンクフリー

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