Home  >九三式中間練習機”赤トンボ”製作記(LS 1/72)

特集 複座練習機

九三式中間練習機”赤トンボ”製作記(LS 1/72)

by Kiyoshi Iwama(ひやめし会)
飛行機プラモデルの製作

日本海軍K5Y1 九三中練(1/72)LS Box Art より



 日本海軍の練習機の代名詞ともなった、通称“赤トンボ”と呼ばれた九三式中間練習機は、総計5,589機(水上機型含む)が生産されました。生産当初は、この機体の原型となった九一式中連を開発した川西航空機が昭和8年から生産を始め、その後は中島、日飛、三菱、など6社で生産が続けられました。生産数では日本軍機で、零戦、隼に続く第3位に位置しており、いかに多くの乗員の養成に貢献したかがうかがえます。  機体構造は、フレーム構造に、上下面は金属表皮、側面は羽布張りとなっています。エンジンは300馬力の天風11型エンジンで、九三式四型木製2翅プロペラが取り付けられました。最大速度は200㎞/hを超え、上昇限度は6,300mに達しました。また上昇力は高度1,000mまで3分33秒と当時の練数機としては十分な性能を備えていたと言えます。


 さてエルエスのこのキットはかなりの年代物ですが、少ない部品点数で組み立て易く、アウトラインもしっかりとしたものです。いくつか課題もありますが、できあがれば赤トンボそのものです。 インストの最後に「箱絵などを参考にして張線をミシン糸でつけると一層引き立ちます。」とあり、1/72スケールの小さな機体ではあったのですが、今回は張線にチャレンジしてみました。

完成したLSの九三式中練 “赤トンボ”(1/72)

製作

 キットのデカールには「カ-835」という機番が印刷されています。カは霞ケ浦海軍航空隊の所属を示しており、果たしてこの機番の機体が存在したのか少し調べてみました。世界の傑作機No.44「93式中間練習機」調べてみると、渡辺飛行機(後の九州飛行機)と日飛が生産した、K5Y2タイプの機体で霞ケ浦空に配属になった機体が801~899の機番を付けていたとの記述を見つけました。次は尾翼の色です。尾翼の赤色の保安塗粧は昭和15年からは新造機には適用されなくなり、17年3月には正式に廃止されたようです。 一方、K5Y2タイプの機体の製造は、昭和12年から14年の間に163機が生産され、昭和14年から20年にかけて709機生産されているようです。835号機がどちらの製造ロットに当たるのかは明確に決めることができませんが、後者の可能性が強いと考え、今回は全面オレンジイエローの機体に仕上げることにしました。また世界の傑作機によると、上翼上面中央部に記されていた機番は昭和13年12月29日付の航空本部通達により廃止され、胴体側面と下翼下面の機番も部隊符号を省略するようになったとあり、この情報を反映して仕上げることにしました。なお、オリジナルデカールの日の丸は、赤丸と白縁が芯ずれを起こしていたため、日の丸マークはライジングデカールの97艦攻用から流用しています。


1.コクピット
 キットのコクピットは床もなく、1/48スケールかと思える座席が2つ、胴体内の出っ張りに直付けするように指示されています。そこでまず、座席を1/72スケールに作り直し(写真1の左側が作り直した座席)、 床板、操縦桿、ペダル、ベルトをプラ板とプラシートで自作し、コクピットに組み立てました。(写真2)計器板も作ってみましたが、組み込んでしまうと見えなくなりました。

 (写真1) 改修した座席    (写真2) 自作したコクピット


2.エンジン回り
 キットでは天風11型エンジンを、上下2分割したカウリングに挟み込むようになっています。上下2分割したカウリングの分割ラインが目立たないように整形するため、エンジンとカウリングの内側を先に塗装し、カウリングを接着後整形し、カウリングをセミグロス・ブラックで塗装しました。(写真3) (写真3) カウリング内に納めた“天風11型”エンジン


3.胴体と主翼の組み立て
 主翼上翼下面、下翼上面の塗装を考えると、上下翼の接合は塗装後が望ましく思われました。このため、まずは胴体内にコクピットを収めて左右を接着、その後主翼下面、水平尾翼、垂直尾翼、そして脚支持フレームを取り付け、接合面を整形しました。(写真4) 水平尾翼下面の支柱は、張線後に取り付けます。 

(写真4) 胴体ASSY 



 次に、主翼上翼です。上翼には翼端部で上下翼を結合するN字型支柱と中央部で上翼と胴体を結合するN字型支柱を取り付けます。しかし上下翼の位置決めが必要となるため、先に組み立てた下翼付きの胴体を利用しました。上下翼を結合するN字型支柱に木工ボンドを軽くつけて下翼の支柱取り付け溝へ取り付けます。(左右2個)同様に上翼と胴体を結合するN字型支柱も胴体の取り付け位置に木工ボンドで仮接着します。  そうして支柱がある程度固まったところで各支柱を上翼下面の取り付け溝へ嵌め込み、前後左右から上下翼の位置関係を確かめます。位置が定まったところで、流し込み接着剤を上翼下面のN字型支柱取り付け溝に流し込み、しばらく保持していると支柱と翼とが結合されます。上翼とN字型支柱とが完全に接着部が固まったところで、上翼を下翼から外します。そして木工ボンドを綺麗に除去しておきます。こうして出来上がった上翼が(写真5)です。

(写真5) 上翼ASSY



4.塗装
 胴体のコクピットと前方の開口部とをマスキングし、機体全面をオレンジイエローに塗ります。上翼が付いていないため、塗装もスムーズです。同様に上翼もオレンジイエローで塗装します。 座席の前方周辺部には革製のクッションがついているので、その部分を艶消しの茶色で筆塗りしました。(写真6)キットの色がオレンジでモールドされているため、塗装を終えても変わりばえしません。

写真6 機体に納まったコクピット



5.上下翼の結合と張線
 上下翼の結合は、予め位置決めをしてありますが、支柱のスプリングバックもあり、若干の位置ずれは避けられません。それでもまずは翼端の支柱を下翼の溝に嵌め込みます。 そして中央の支柱を胴体側の位置決め穴に嵌め込んで瞬着で固めてしまいます。中央部の支柱が完全に固定されたところで翼端支柱を流し込み接着剤で固定します。これで上下翼の結合は完了です。


 次は張線ですが、その前に張線を張るとデカールが張りにくくなる垂直尾翼に、機番のデカールを先に貼っておきます。
 張線は0.1㎜径のナイロンテグスです。前述の世界の傑作機の図や写真を参考に、まずは張線の位置や経路を決めます。九三中練は、結構複雑でした。数えてみると片側7経路で左右14経路の張線が必要になることが分かりました。
1/72のスケールでワイヤーの締結金具を作る技術はないため、張線の始点、通過点、終点にピンバイスで0.3㎜の穴を開け、そこにテグスを通し、瞬着で固定し、テンションを加えまた固定という作業を繰り返しました。また上翼には貫通穴を開けずに済ませるように張線経路を設定しました。写真7、8が張線を張り終えた段階の状態です。切断前のテグスが垂れているのが分かるでしょうか。瞬着がはみ出した部分が白くなっています。

(写真7) 張線取り付け直後(前方から見る)


写真8 張線取り付け直後(下方から見る)



6.完成へ
 張線の余った部分を切り取り、瞬着が飛び出した部分を整形、タッチアップが終われば、デカール貼りです。デカールについては最初に述べたような形で貼り付けました。古いデカールのため、余白部分が少しシルバリングを起こしましたがマークフィッターを使って問題なく貼れました。日の丸を流用したライジングデカールは薄くて貼りやすい上質のものでした。デカールが乾燥したのち半艶クリアーでオーバーコートを行いました。 その後、並行して塗装をしてあったエンジン、プロペラ、排気管、潤滑油冷却器、気化器空気取り入れ口、車輪、尾輪、ステップ、尾翼支柱を取り付けて完成です。プロペラは、翅の形状が実機と若干異なるため、少し整形しました。、ステップはキットの部品をそのまま使ったのですが、径が太く実感を損ねてしまったようです。もっと細い真鍮線などで作り直すべきでした。

完成したLSの九三式中練 “赤トンボ”(1/72)



 少ない部品点数でも、それなりの完成品を手にすることができるのは嬉しい限りです。これが、今忘れ去られたプラモの原点のように思います。

完成したLSの九三式中練 “赤トンボ”(1/72)




完成した九三中練を下面から見る




  Home>九三式中間練習機”赤トンボ”製作記(LS 1/72)

Vol.95 2016 July.   www.webmodelers.com /Office webmodelers all right reserved /  
           editor Hiromichi Taguchi 田口博通 /無断転載を禁ず  リンクフリー

「webモデラーズ について」 「広告のご出稿について」

プラモデル模型製作特集1

TOTAL PAGE