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特集 厚木 ATSUGI

McDonnell Douglas F-4S “Phantom II” 製作記
(Hasegawa 1/48)

by Kiyoshi Iwama(ひやめし会)


F-4S Phantom II “USS Midway” (1/48) Hasegawa Box Photoより


 1973年、アメリカ海軍の空母ミッドウェイの横須賀母港化に伴い、第5空母航空団(CVW-5)が厚木にやってきました。当時CVW-5の主力戦闘飛行隊は、VF-161”Chargers”とVF-151”Vigilantes”で、使用していたのがF-4B”Phantom II”でした。以来この2飛行隊が、F-4N,J,Sと機体を更新しながら1986年にF/A-18Aと交替するまでの13年間、CVW-5の主力の座を占めたのです。 このCVW-5のファントム時代の最後を飾った2飛行隊のCAG機はカラフルで、いつかは作ってみたいと思っていた機体です。その機会がやっと訪れました。今年5月の静岡ホビーショー合同展示会への展示を目標に、まずはVF-161のCAG機を製作し、念願を半分叶えることができました。本誌の「厚木特集」にあたり、拙作の製作過程を記事にまとめてみました。


実機紹介

 F-4ファントムについては多くの著書もあり、ここではS型について簡単に触れておきます。ヴェトナム戦争は戦闘機の開発に多くの教訓を残しました。空軍はファントムに機関砲の搭載と空戦能力の向上を求め、ヴェトナム戦争中にF-4Eを開発し、投入しました。一方海軍は、MiG-21など小回りの利く戦闘機との空戦で苦戦を強いられたもののF-4への機関砲の搭載は行わず、あくまで中・短距離ミサイルで対処したのです。 しかし空戦での劣勢に対しては、所謂“Top Gun”の名で知られる試験評価部隊を強化しパイロットの戦技向上に努めるとともに、機材の性能向上にも力を入れました。


 当時、海軍/海兵隊の主力戦闘機はF-4Jファントムでしたが、F-14やF/A-18が海軍/海兵隊の航空部隊に行き渡るまでは運用が継続されるため、F-4Jの寿命延長が計画されたのです。その主な内容は機体構造の信頼度向上とアビオニクスの更新、エンジンの無煙化でした。この新しいバージョンはF-4Sの呼称が与えられ、プロトタイプ機に選ばれたF-4J(158360)の改修工事がカリフォルニア州のNARF(Naval Air Rework Facility) North Islandで始まり、1977年7月22日に初飛行が行われたのです。課題となっていた空戦時の運動性については、海軍ではF-4Eに似た主翼前縁スラットの評価中であったため、試作改修機には取り付けられませんでした。 しかし、エンジンのJ79-GE-10Bへの換装により黒い排気ガスからは解放され、敵機からの視認性も大きく低減できました。またアビオニクスは、ウェポンシステムがAN/AWG-10Bへと更新されデジタル化が実現、通信装置や航法機器も新しい機材へと換装されたのです。その後前縁スラットの有効性が確認され、48号機から取り付けが始まります。


 F-4Sの部隊配備ですが、1978年6月に海兵隊のVMFA-451 “Warloads”が最初に受領します。海兵隊から始まったのは、海兵隊が高価なF-14の装備をあきらめたからです。そして海軍では1年半後の1979年12月に、VF-21 “Free Lancers”が初のF-4S運用部隊となりました。 結局F-4Sは265機がF-4Jから改修され、そのうち前縁スラット付きの機体は218機となっています。また配備部隊数は海兵隊が13個飛行隊、海軍が12個飛行隊という結果になりました。

F-4S Phantom II Hasegawa(1/48)


キット紹介

 さてF-4ファントムIIのキットは実機と同様人気があり、各社から大小いろんなスケールのものがリリースされているベストセラー・キットです。しかし1/48スケールのF-4Sのキットと言えば意外と少なく、ハセガワとイタレリからリリースされたものしか思い浮かびません。いずれも最初のリリースからは10年以上の年月が経っています。今回使用したハセガワのキットは、「F-4S Phantom II “USS MIDWAY”」というタイトルが付いたもので、2005年にリリースされた限定生産品でカルトグラフ製の美しいデカールが入っていました。
ハセガワのファントムIIのキットの歴史を紐解くととても一言では語りつくせません。1980年にハセガワがリリースした1/48のF-4Jキットが衝撃的だったのを覚えています。しかしこの時のキットは凸彫りのパネルラインでした。その後このキットは細部の修正が施され、しかも凹彫りのパネルラインに改修されて再版されます。モデラーとしては嬉しかったですね。しかし現在の目線から見るとエアー・インテイクが抜けてなかったり、付属のウェポンに精密感が欠ける、パイロンなどは当初発売の凸彫のパネルラインであったり等など、不満な点も目につきます。しかし組み上がったシルエットを見る限り、現在もベストキットの一つと言えるのではないでしょうか。そんなこともあり、今回はエッチングパーツやレジンパーツを利用して、少々グレードアップしたモデルに仕上げてみました。改修点などを中心に紹介します。



製作

 最初に今回の製作にあたり、本体のハセガワのキット以外に使用したアクセサリーを紹介しておきます。
・メインのエアー・・インテイクのシームレス化: Cutting Edge製シームレスインテイク・レジンパーツ(CEC48476)
・コクピットのディテールアップ: Eduard製 エッチングパーツ(FE319)
・エジェクションシートのディテールアップ: Quickboost製 レジンパーツ(QB 48 004)
・エンジンノズルのディテールアップ: AIRES製 レジンパーツ(4118)
・ミサイル類: ハセガワ製 エアクラフトウェポンC

1.  胴体の改修

 いつもならコクピットの製作から始まるのですが、今回はシームレスインテイクを胴体に組み込まなければならないため、胴体の改修から始めました。シームレスインテイクのカッティングエッジ製レジンパーツを写真1に示します。カッティングエッジはハセガワのキットのパーツを型に利用したと思えます。インテイク部の外表面の彫刻など、キットと同じ出来栄えでした。パーツの説明は写真にある通りですが、境界層のスプリット・ベーンとその基部のパーツはキットと同一形状ですので、作業性のいいキットのパーツを使用しました。この他にインテイク内に設置するピトー管が入っていましたが華奢なためプラ板とプラ棒で自作しています。インテイクパーツとエンジン圧縮機のファン部とを組み合わせると写真2のような感じになります。 元のキットはインテイクの奥が見えない状態になっていましたが、レジンパーツを組み込むためには、インテイク奥の壁とインテイク部の側面から底面までの一部を切り取らなければなりません。レジンパーツの寸法を測り、鋸で切り取った後整形したのが写真3の下側のパーツ(胴体左舷パーツ)です。上側の切り取る前の胴体右舷パーツと比べるとどのように切り取ったか分かっていただけると思います。しかしこのように切り取ると左右の胴体パーツを合わせても胴体の剛性が下がります。(胴体の断面形状が定まらないという問題が出てきます)そこで胴体の内部断面に合わせプラ板を切り取り胴体の隔壁を作り、補強することにしました。

(写真1) シームレスインテイクの部品
(写真2) インテイクをエンジンと結合した形態

写真3 胴体パーツの切り取り


2. コクピット

 次にコクピットです。キットのコクピットも計器板やコンソールに細かく彫刻が施され、塗り分けるだけでも十分ですが、今回はエッチングパーツでディテールアップしてみました。まず計器板やコンソールの彫刻を削り取ります。その後コクピットのパーツや内壁部をグレー(FS36231/Mr.カラー317)で塗装します。また操縦桿のグリップと胴体パーツのグレアシールド部は艶消しの黒で塗装しておきます。次にエッチングパーツの計器板やコンソール部品などを貼り付けていきます。 エッチングパーツには計器のガラス部分がありませんので厚さ0.2㎜の透明シートを計器盤の大きさに切り取り、計器パーツとカバーパーツの間に挟み込んで接着していきます。こうして出来上がった前席の計器盤が写真4、後席用が写真5です。また写真6はコクピット部です。座席は未だついていませんが、上述した計器板や前脚収納部を取り付ければコクピットが完成です。(写真7)


(写真4)前席用計器板
(写真5) 後席用計器板
(写真6) コクピット
(写真7) 組み上がったコクピット

3. 胴体の組み立て

 コクピットが完成したので、インテイクパーツとともに胴体へ組付けます。その前にインテイクパーツを組み込むための下準備をしなければなりません。胴体とのマッチングをチェックし、問題なければインテイク内面をペーパー掛けします。次に内面とスプリット・ベーン基部をインシグニアホワイト(FS17875/Mr.カラー316)で塗装します。レジンパーツはサフェーサーを下地に塗っておいた方がいいのですが、組立後は触れることがないので離型剤だけを落としそのままラッカー塗料を吹き付けました。またインテイクリップの前縁内側は外側のグレー(FS16440/Mr.カラー315)が回り込んで塗装されていますので、この部分も先に塗っておきます。そしてインテイク内壁の中ほどにピトー管を接着します。(写真8)
次に塗装の終わったスプリット・ベーン基部を取り付け、これにエンジン圧縮機ファン部を接着します。レジンの精度が悪く圧縮機ファンの部品と左右のインテイクパーツを組み合わせるのが難しいため、ファン部分を左右切り離して接着することにしました。組み上がったインテイクパーツを左右別々に胴体パーツに組み込みます。(写真9)エンジン圧縮機ファン部の後ろに見える白い板が補強用に追加した隔壁パネルです。接合部に段差が出ないように気を付けて接着したのですが、僅かに段差ができました。高くなったレジン側をペーパーやすりで根気よく平滑化していきます。注意したのは削り過ぎてパネルラインやリベットが消えてしまうことです。(写真10)
修正が終わった胴体パーツにコクピット部を組み込みます。(写真11)はコクピットを組み込む前の左側コクピット内壁部です。AWG-10Bのコンピュータが納められているボックスもエッチングパーツでディテールアップしました。
(写真12)がコクピット部を組み込んだ右側胴体パーツです。

(写真8) インテイク内に取り付けたピトー管
(写真9) インテイクパーツの組み込み
(写真10) 接着したインテイク部(白い部分)の機体表面側
(写真11) コクピット左内壁


(写真12) コクピットとインテイクパーツを組み込んだ右胴体パーツ


 次はいよいよ胴体の左右接合です。流し込み接着剤を使用して左右の胴体を接合していきました。(写真13)(写真14)は、接合部を整形した後の胴体をコクピット付近上方から見たものです。グレア―シールド部の塗装が剥げていますが、接着後段差を修正した際に生じたものです。 後に塗り直しました。最後にレドームとレドームの基部にあるエアースクープの取り付けです。レドームは一体ではなく半割となっています。左右を接着し機首部に取り付けるとやはり少し段差が生じ、整形が不可欠です。基部のエアースクープも接着し、工作を終えた機首部が(写真15)です。


(写真13) 組み上がった胴体部


(写真14)胴体接着後の整形
(写真15) レドームとエアースクープの取り付け


4. 主翼の胴体への結合

 主翼は大きくは3つのパーツで構成されています。左右内翼と胴下部が一体となった中央翼部下面と内翼上面と外翼上下面が一体となった左右の主翼パーツです。胴体への結合は、まず中央翼部下面を胴体に取り付け、左右の上面パーツを取り付けるという手順になります。このキットには主翼下面に貼り付ける補強材のエッチングパーツが同梱されており、まずそれを中央翼部下面へ接着します。
その後主翼を胴体に取り付けるためのフィットチェックをすると、隙間や段差が数か所生じることが分かり、プラ板とパテで修正しました。写真16が主翼上面と胴体との隙間修正後の状態で、写真17が主翼下面と胴体との接合部の隙間と主翼付け根に発生した段差の修正後の状態です。


(写真16)  主翼上面と胴体との隙間修正後の状態
(写真17) 主翼接合部の隙間と段差修正後の状態



主翼と胴体の接合後に外翼前縁部のスラットと外翼と内翼のつなぎ目にある境界層制御フェンスを取り付けます。これで大きな工作は完了です。

5. 塗装

 まず、全体にサフェーサーを吹きつけ、乾燥後1000~1500番のペーパーやすりで表面の平滑化を行うとともに、サフェーサーで埋まったパネルラインの溝に軽くPカッターを通しておきます。次に尾部の排気口周りの金属塗装を行います。黒鉄色、焼き鉄色、銀、艶消しの黒などを重ねたり、塗分けたりしながら塗装していきます。 (写真18)その後、メタル部分やコクピットなどをマスキングし、全面にグレー(FS16440/Mr.カラー315)を吹き付けていきます。塗り終わった状態が(写真19)です。これで基本塗装が完了です。


(写真18)  エンジン排気口部の塗装 
(写真19) 機体全面塗装が終わった状態


 次はVF-161のCAG機にするための塗装です。CAG機の塗装は垂直尾翼からレドーム先端にかけて、機体の背面部に黒色塗装が施されています。そして垂直尾翼には白で縁取られた赤い稲妻が描かれるという派手なものです。稲妻はデカールで表現するのですが、垂直尾翼後端にはECMアンテナのレドームがあり、この部分にかかるデカールをうまく貼り付ける自信がありません。そこでレドーム部分は塗装をしておいて、平面部分のみデカールで対処することにしました。そこでまずこのECMアンテナ部分にインシグニアレッド(FS11136/Mr.カラー327)で塗りました。次に黒色塗装ですが、その前にマスキングを行います。 コクピットから機首にかけてのラインには曲面が含まれますので、側面から見たときに如何に直線的になっているかを注意してマスキングテープを貼っていきます。また正面から見たとき左右が対象になっているかにも注意を払います。キャノピーやウィンドシールドも透明部分をマスキングし、コクピットの上に仮止めします。また主翼端にあるAN/ALR-45 RHAWアンテナ部も黒色に塗装するため周囲をマスキングしておきます。そうした状態でセミグロスブラック(Mr.カラー92)を吹き付けました。マスキングを外し、既に塗装してあったインテイク側面のAN/ALQ-126 ECMアンテナを取り付けると写真20の状態となりました。


(写真20) 塗装の終わった機体


6. その他機体部品  

 その他にもいろいろパーツがありますが、完成品写真からは分かり難い部品だけ紹介しておきます。写真21は前脚カバーです。前照灯にはクリアパーツが入っていますが、インデックス灯の部分は穴が開いているだけです。クリアパーツのランナーを引き延ばし、カットし、グリーン、アンバー、レッドのクリア塗装をして穴に埋め込み、そしてプラ板で作ったカバーを裏側に取り付けました。(写真22)
 また(写真23)が射出座席です。クイックブースト製のレジンパーツをタミヤの水性塗料で塗り分けました。フェイスカーテンのハンドルはキットのものに置き換えています。(写真24)がエッチングパーツで製作したコクピット前席に取り付ける光学サイトです。透明パーツが0.2㎜ですので、キットのパーツより実感があります。


(写真21) 前脚カバー(表側)
(写真22) 前脚カバー(裏側)


(写真23) マーチンベーカ Mk7 射出座席
(写真24) 前席用光学サイト


 最後が搭載兵装の紹介です。F-4SではAIM-7F/AIM-9Lの運用が可能となっていますがキットには入っていません。そこでハセガワのエアクラフトウェポンCの中からAIM-9Lサイドワインダーミサイル4発とAIM-7Fスパローミサイル4本を選び、使用しました。 (写真25)がAIM-9L、(写真26)がAIM-7Fです。いずれもデカールを貼り終えた状態です。


(写真25)  AIM-9L サイドワインダーミサイル
(写真26) AIM-7F スパローミサイル

7. 完成へ

 組立の終わった機体にデカールを貼っていきます。デカール貼りが苦手な私にはいつも苦労する過程です。乾燥したところで、クリア塗料でコーティングします。今回は半光沢とつや消しの中間くらいに調合し、吹き付けました。最後にパネルラインへの墨入れと多少の汚しを加え、6項で紹介した機体部品やウェポンを取り付け完成です。意外に主脚の取り付けには難航しました。アクチュエータの位置がうまく決まらなかったからかもしれません。(写真27~32)が完成写真です。
 最近発売された造形村のキットなどと比較するとやはり時代を感じさせられます。しかしハセガワのキットも完成した姿は決して見劣りはしません。今回はシームレスインテイクなどを組み込んだために少し手間がかかりましたが、ストレートで組めばもっと苦労なく完成できたと思います。このキットはスタイルがいいので、むしろ塗装のバリエーションを楽しむ方が、プラモの楽しみ方としては上図な方法なのかもしれません。

(写真27) F-4S Phantom II assigned to VF-161 at NAF Atsugi in 1981


(写真28) F-4S Phantom II assigned to VF-161 at NAF Atsugi in 1981


(写真29) F-4S Phantom II assigned to VF-161 at NAF Atsugi in 1981



(写真30) F-4S Phantom II assigned to VF-161 at NAF Atsugi in 1981


(写真31) F-4S Phantom II assigned to VF-161 at NAF Atsugi in 1981




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