Home  >  スター・ウォーズの世界【番外編】 ~もうひとつのデス・スター物語~>2018年1月号

誌上個展

  スター・ウォーズの世界【番外編】
 ~もうひとつのデス・スター物語~

by Windy Wing 2013


<バンダイ 1/1800000 ビークルモデル013 デス・スター/プロトタイプ>




 後に究極の破壊兵器と呼ばれる軌道戦闘要塞の開発が共和国最高議長によって秘密裏に画策されていた当初、その主力武装となるスーパーレーザーの発射口は赤道上に設計されていた。しかし、そのあまりに強力な発射エネルギーの反動を一般戦艦群と同機構のスラスター推進と重力アンカーで制御吸収しきれないことは開発時からすでに予想されており、幾度とないコンピューター・シュミレーションによる試行錯誤の結果、要塞直径を20%拡大し、ビーム発射角に30°のベクトルを付ける反動放散方式の採用により、ようやく本機はその建造に向けての第一歩を踏み出した。
 しかし、それでもなお、この反動対策は実動上充分と言えるものではなく、シングル・レーザー単射においてさえも数百km単位の誤差が生じる照準精度であったことはスカリフ補給基地破壊の際の記録映像からも明らかである。もっとも、本機による「汎惑星衛星破壊」という基本思想に対して精密な照準補正を求めることは、あたかも散弾銃にライフル・スコープを装備するがごとき誤謬であり、対象となる惑星衛星を目標として外さない程度の極めて緩徐な調整で許容される設計であったこともまた事実である。


 こうして、赤道上にスーパーレーザー発射口を配した<デス・スター/プロトタイプ>は「Death Star into the Dust(デス・スター没案)」として廃棄され、その電子化された青写真のみが略称「Star Dust」のファイル名でスカリフのエンジニアリング・ノードにアーカイブされる一方、<デス・スター/第一次計画>はカイバー・クリスタル・フォーミュラによる低エネルギー収束などの各種改良を受けつつ、十余年の歳月を経て、ついに真性<デス・スター>としてその完成を見る。
 ところがここに、いささか思い込みのキツいひとりの女性が登場する。彼女は帝国軍において軌道戦闘要塞計画に主導的に関わった研究者である父親から、その弱点を記した設計図を盗み出すように指示され、多くの人々に迷惑をかけながら、ようやくスカリフに潜入したにもかかわらず、ノードの膨大な資料の中からたまたま目についた「Star Dust」というデータ・テープ・カートリッジのファイル名を自らの他愛のない想い出にこじつけて、その内容を検証することなくシタデル・タワーから反乱軍の艦隊司令に送信してしまう。そして驚くべきことには、このカートリッジ・データは魚眼の艦隊司令によっても、さらには反乱軍のリーダー的存在となる女王姫によっても、その内容を一切確認されることのないまま、アストロメク・ドロイドに封入して宙空へ放出されるのである。


<バンダイ 1/2200000 ビークルモデル013 デス・スター/第一次計画(建造中)>



 その後、このドロイドが女王姫の双子の兄に拾われる、という、宇宙の広大さを無視した偶然の積み重なりを経て、ファイル「Star Dust」はヤヴィン第4衛星の反乱軍総司令部に届けられ、ここで初めて、情報分析官により完全解凍されるに至る。しかし本来ならば、スーパーレーザー・ビーム発射口の位置を見ただけで、この図面がまったく別物であることに気づくべきであったにもかかわらず、軍隊としての基礎訓練を受けていない素人集団である反乱軍は、その攻撃目標である戦闘要塞への威力偵察を怠っていたために、この明白な相違を戦略会議の場で指摘できる士官はだれひとりとしていなかった。目の前で母星を破壊された女王姫にしてから、その脱出に際して戦闘要塞の情報収集を行う機微に欠けていたことは何より厳しく非難されるべきであろう。
 ただここで、宇宙一の運び屋とあだ名される男は戦闘要塞へトラクター・ビームで牽引された経験から、相棒の大猿とともにその外観を習知していたので、モニター画面に映し出された設計図を一目見るなり、そのとんでもない間違いに気がついたらしい。そこで彼は作戦会議終了後、女王姫の双子の兄に「あんなデタラメのデータを元に出撃するのは自殺行為だ」と忠告するが、あまり物事を深く考えないタチのこの少年は、彼自身も戦闘要塞の全景を見ていたにもかかわらず、「あんたは金が欲しいだけなんだろう」と友情を仇で返すような捨てゼリフを残して戦闘機に乗り込んでしまう。
 かくして、すべての残存兵力を投入した反乱軍の攻撃を受けて、帝国戦闘要塞駐留軍は大混乱をきたした。実は帝国軍としても、女王姫らが脱走後、その手勢を率いて反攻を仕掛けてくるであろうことは充分に想定していたが、スカリフのシタデル・タワーを自らの手で破壊してしまっていたために、何のデータが盗み出されたかは不明のまま、現有の戦闘要塞の設計図を持ち出された、という思い込みで迎撃体制を敷いていたに過ぎない。ところがその反乱軍は、そんな帝国軍には理解不能なことながら、戦闘要塞の最重要装備であるスーパーレーザー・レンズや中枢部リアクター・モジュールには目もくれず、いわば裏口の便所のような熱排気孔ばかりに執拗に攻撃をしかけてくるのである。
 結局、相手の意図も分からぬまま、ハエでも追い払うようなつもりで自ら出撃した黒兜の司令官であったが、思わぬ伏兵に不覚をとり、そのままハイパースペースへ投げ出されてしまう。しかし、その間に熱排気孔に打ち込まれた2発のプロトン魚雷も、戦闘要塞本体には便所の扉を壊されたほどの被害を与えることもなく、反乱軍総司令部たるヤヴィン第4衛星が射程に入ると同時に、スーパーレーザー・ビームは粛々と照射された。そしてその直後、この軌道戦闘要塞は爆発、消滅する。



<バンダイ 1/2200000 ビークルモデル013 デス・スター/スーパーレーザー最終設置工程>




 あらためて確認するまでもなく、ヤヴィン主星はガス状惑星である。このメタンやブタノールなどの原初的可燃性気体の直径20万kmにも及ぶ高圧集積体に対して、帝国軍は反乱軍壊滅にはやるのあまり、目標が可視射程に入った瞬間、惑星接線に沿ってスーパーレーザーを全出力照射したのである。カイバー・クリスタル・フィールドと接触した惑星構成気体の誘爆により、その放出したエネルギーの何倍もの暴発に包み込まれて、さしもの巨大戦闘要塞もあえなく灰燼に帰してしまったのは、思えばあまりに自明の帰結であったろう。
 もっとも、この事象を帝国軍においてひとり予感していた者がいる。ついに反乱軍の本拠地をつきとめ、これを衛星ごと葬り去る佳き日である、と浮かれる司令室内にあって、常に浮かない顔で戦局をにらんでいた総督その人である。理力などとはまったく無縁の彼であったが、最前線で鍛え上げられたその軍略的直感は彼に、何かを見落としている、と警告し続けていた。ヤヴィン4に向けてスーパーレーザーが発射された瞬間、その過ちに気がついた彼が寄せた眉根はとみに印象的である。
 反乱軍の兵士たちはそのような帝国軍の内情など知る由もなく、ただただ友軍の決死隊が戦闘要塞の撃滅に成功した、と歓喜に沸いたのも自然である一方、帝国軍のほとんどの将兵は何が起こったかを知る暇もないまま、運命を巨大戦闘要塞とともにしたために、すべての真実を知るのはただひとり、大爆発の直前にハイパースペースへ放り込まれた黒兜の司令官のみであった。
 その彼にしても、自らの愚かな指揮命令により莫大な建造費をかけた戦闘要塞を自爆させてしまった、と報告するよりは、敵軍兵士の理力を過小評価していた、と銀河皇帝に言い訳しようとしたのも無理のないことであっただろう。戦闘要塞の弱点なるものがどこに仕掛けられていたのか、そもそも、そのようなものが本当に存在していたのかどうか、それはすべてが宇宙の塵と消えた今、もはや知るすべはない。




<バンダイ 1/2700000 ビークルモデル013 デス・スターII>



 いつの世も歴史は勝者が作る。この後、復讐に燃える黒兜の司令官はさらに強大な<デス・スターII>の建造を試み、これを女王姫たちが小熊族とともに阻止する、という反乱軍の輝かしい戦歴の陰で、繰り返される喜劇が生んだ壮大な悲劇を書き遺すことは、いかにそれが遠い昔の銀河の果ての物語であろうとも、後世の史家たちに何かしら資するところもあるだろう。
 ヤヴィン第4衛星の反乱軍総司令部において情報分析官を務めた我が遙かな祖先から語り継がれた、もはや神話とも言える一節を記した理由はここにある。



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