今昼間迷彩について、特にドイツ軍用飛行機の用いたるものを考うるに、色彩の点においても彩色実施の方法においても英仏と全然異なりし方法を採り、ドイツ式迷彩として独特の点あり。地上の建造物、移動兵器、戦闘部隊、水上の船艦、水中の潜水艦等は単に側面及び上方の二方または上方よりの敵航空機の眼に備うるところあれば足るも、飛行機は一般に地上にありては空中に備え、空中にありては側面上方下方の三方に備うべく鳥類と同一原理によりて地上迷彩と異なりし多くの考慮を必要とす。だいたい翼上下面、胴体上側下面、支柱に分類すべく以下詳細なる試みんとす。翼の上面は空中よりの瞰視に備え地上の色彩を模し、下面は上空にありて陰影を生じ明快なる天空を背景とし暗黒なる一小点となり、その存在を下方の敵に感知せしむる傾あり。故に翼上面に比して希薄なる色調を要求し、仏英等は黄白色になせり。胴体の上側二面も、翼背と同じく腹部よりも暗黒なる色彩を施すこと鳥類と同理なり。今飛行機モノコック胴体の模型を造り全部灰色に塗りたりとせば腹部の陰影はその存在を多少明るくすべく、上面を白色腹部を黒色にせば上背は光線により強められますます白く腹部は陰影のため更に暗黒の度を増し、その存在は最も明瞭となり。反対に上背を黒色に下腹部を白色に中間を灰色になすときは、上部の光線を受けたるところと下部の陰影と中和して特別に光りたるところも暗黒なる部分もなく、その存在は全く理想的に側方の敵に対して欺騙することを得。 |
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ドイツ飛行機は翼における迷彩を製造能力発揮のため一定になしたるも、胴体においては多種多様の迷彩を施し、押収ドイツ機を一覧せる際に何人もその研究的努力の些少ならざりしを知るなり。支柱は「ルンプラー」「ファルツ」その他において空中と地上の両目的により区別され、前者の空色は空中における迷彩なり。脚車輪尾橇等は迷彩を論ずるほどのものに非ず、各任意に所理せり。翼迷彩を見るに、英仏のものは一体として一色に彩色するか又は雲形曲線模様にて五色に塗り分けあれど、ドイツの飛行機翼又は或式の胴体にありては総て不正多辺形の連鎖模様となし、「モザイク」式に彩色せり。而して前記の理由により翼背は口絵第三葉6のごとく濃く、翼下面は翼下面は7のごとく桃色を加えて色調を弱めたり。飛行機その他の迷彩はいずれも人工的のものなれど、その根本の原理は自然の教うる法則に従い各種動物の保護色より出発考案せらるるもの多し。
ドイツ飛行機翼および胴体の迷彩もこの考慮より案出されしものとすれば、その鱗状モザイク式迷彩はまさにその範を蛇類のそれに取りしものというべく、静的にも動的にもまた地上にも空中にもよく外界と中和する点において大いにその着眼の凡ならざりしを思わざるべからず。 |