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誌上個展

<日本航空史> 第一次大戦後のドイツ押収機の塗装と彩色絵葉書(1)

  by 加藤 寛之
プラモデル コラム

 本稿は2013年に書き起こしたもので、今回「日本航空史」へ投稿するにあたり、若干の手直しをし前後編に分割した。文中にある絵葉書は後編(2)で紹介したい。


『於自千九百十四年至千九百十四年世界大戦獨逸軍用航空機材写真帖』(大正十年、陸軍航空部蔵版、非売品)は、第一次世界大戦後にドイツとオーストリアから押収した機材から日本が分配を受けたもののうち、大正九年十月から大正十年二月末日までに到着したものを外見的に研究した結果を収録した冊子である。この冊子は『雄飛 空の幕あけ所沢』(所沢航空資料調査収集する会編集、平成17年)に、外観と掲載内容、収録写真が抜粋で復刻収録されている。 その冊子の原本を閲覧できる機会があった。原本には押収機の塗装についての記述があり、色図2枚が収録されていた。以下に該当部分を抜粋し、当時に市販された絵葉書と比較をしてみたい。なお同誌には、オーストリアからの機材は上記の間に日本へ到着しなかったと書かれている。
 塗装についての概要説明は、上掲写真帖の文中「第一 飛行機」にある。以下に紹介するが、元の文章は旧字体の漢字と旧カナ使いのカタカナで書かれており、現在ではかな書きにする漢字も使われている。句読点や濁点もない。慣れないと読みにくいこと甚だしい。

 本稿はさしつかえない程度に現代表記に置き換えてみた。文中では、「五色の「モザイク」式染出色布を用い」た迷彩効果にも触れていることが興味深い。各機の色は一覧表と塗装図で分かるので、別掲の絵葉書と併せて見ていただくと一層の味わいがあろうと思う。

**** 押収軍用航空器材説明書
第一 飛行機

木鉄混用の機体における胴体は、安定板とともに全体を一合板にて製作せるもの多くして精巧なり。近時各国ともにこの型式に傾きつつあり。
保護色は概して五色の「モザイク」式染出色布を用いて擬装を施し、夜間爆撃用機体はさらに暗黒なる迷彩を施し、探照燈の照明を避くる考案をも注意すべき点なりとす。
****

 続いて、迷彩についての文章である。主に、迷彩の理由や効果、仕組みなどを解説している。押収機が研究資料であるための記述だといえよう。上述した2枚の色図や迷彩一覧表とあわせてご覧頂きたい。

****(附録)ドイツ軍航空迷彩(カムフラージュ)
航空部附陸軍技手 山口 巌述

 迷彩は原語Camouflage に対する我陸軍の訳語なり。1916年ないし1918年間にわたる欧州大戦において各交戦国間に急激に異常の発達をなす。吾人の想像せざりしほど広範の範囲に応用せられ、兵器にして迷彩を施さざるものは航空機の出現発達せる今日にありては全滅せざるまでも、その損害程度迷彩を施せるものに比し、はるかに大なるを常とするに至れり。すなわち空中、地上、水上、水中のいずれに属する兵器も競いて実際的迷彩を施し、特にドイツは四面の敵に備うるに攻撃的にも防御的にも最善の努力と注意をこれに払い、他の諸国よりもより科学的により合理的の迷彩を施しつつありき。 地上、水上、水中の迷彩は略し、爾には航空機に関してドイツの採りし迷彩手段の解剖を試みんとす。迷彩は大別して昼間用と夜間用との二者となすべく、後者は暗黒的色調を帯はしむること「ゴーダ」「ツェペンシターケン」「フリードリヒハーフェン」等の夜間爆撃機における如く、暗夜爆撃任務遂行中下方よりの敵照燈によりてその存在を明かにせらるるを防ぐを目的とし大なる色彩的変化なけれども、前者に至りては白昼空中地上の総ての複雑なる対比色に適応せざるべからず。真に千差万別の迷彩法を生じ、最も興味あるものなり。

 今昼間迷彩について、特にドイツ軍用飛行機の用いたるものを考うるに、色彩の点においても彩色実施の方法においても英仏と全然異なりし方法を採り、ドイツ式迷彩として独特の点あり。地上の建造物、移動兵器、戦闘部隊、水上の船艦、水中の潜水艦等は単に側面及び上方の二方または上方よりの敵航空機の眼に備うるところあれば足るも、飛行機は一般に地上にありては空中に備え、空中にありては側面上方下方の三方に備うべく鳥類と同一原理によりて地上迷彩と異なりし多くの考慮を必要とす。だいたい翼上下面、胴体上側下面、支柱に分類すべく以下詳細なる試みんとす。翼の上面は空中よりの瞰視に備え地上の色彩を模し、下面は上空にありて陰影を生じ明快なる天空を背景とし暗黒なる一小点となり、その存在を下方の敵に感知せしむる傾あり。故に翼上面に比して希薄なる色調を要求し、仏英等は黄白色になせり。胴体の上側二面も、翼背と同じく腹部よりも暗黒なる色彩を施すこと鳥類と同理なり。今飛行機モノコック胴体の模型を造り全部灰色に塗りたりとせば腹部の陰影はその存在を多少明るくすべく、上面を白色腹部を黒色にせば上背は光線により強められますます白く腹部は陰影のため更に暗黒の度を増し、その存在は最も明瞭となり。反対に上背を黒色に下腹部を白色に中間を灰色になすときは、上部の光線を受けたるところと下部の陰影と中和して特別に光りたるところも暗黒なる部分もなく、その存在は全く理想的に側方の敵に対して欺騙することを得。 ドイツ飛行機は翼における迷彩を製造能力発揮のため一定になしたるも、胴体においては多種多様の迷彩を施し、押収ドイツ機を一覧せる際に何人もその研究的努力の些少ならざりしを知るなり。支柱は「ルンプラー」「ファルツ」その他において空中と地上の両目的により区別され、前者の空色は空中における迷彩なり。脚車輪尾橇等は迷彩を論ずるほどのものに非ず、各任意に所理せり。翼迷彩を見るに、英仏のものは一体として一色に彩色するか又は雲形曲線模様にて五色に塗り分けあれど、ドイツの飛行機翼又は或式の胴体にありては総て不正多辺形の連鎖模様となし、「モザイク」式に彩色せり。而して前記の理由により翼背は口絵第三葉6のごとく濃く、翼下面は翼下面は7のごとく桃色を加えて色調を弱めたり。飛行機その他の迷彩はいずれも人工的のものなれど、その根本の原理は自然の教うる法則に従い各種動物の保護色より出発考案せらるるもの多し。
ドイツ飛行機翼および胴体の迷彩もこの考慮より案出されしものとすれば、その鱗状モザイク式迷彩はまさにその範を蛇類のそれに取りしものというべく、静的にも動的にもまた地上にも空中にもよく外界と中和する点において大いにその着眼の凡ならざりしを思わざるべからず。



 如何となれば、蛇類の「モザイク」式鱗状迷彩は静止の際と運動の際のいづれにも有効にてその色彩の配合と光沢により複雑なる外界の色調によく合致してその居を欺き、後者はその運動により多くの色彩円盤における如くの混和して中性的色彩感覚を観者に与え、周囲の天然物の色と中和し迷彩として充分なる効果あればなり。 今各式のドイツ飛行機の迷彩を表示するにあたり、表中に「口絵第三葉の234・・・・10同第四葉111213・・・・18」と称すべきところを、単に123・・・・161718等の数字のみにて記入することとせり。図示せざるものは色彩を記載せり。写真対称番号と迷彩説明番号とを混同せざるよう注意ありたし。



ドイツ軍用飛行機迷彩一覧表
 次に注意すべきは、色彩の施行法に特徴あることなり。フランス国は羽布を張りて後に染料を混じたる塗料を施し、イタリアは同じく羽布を張りて普通塗料を施し最後に「エナメルペイント」とせり。しかしドイツにては羽布に染料を施し、翼に張りし後は単に塗料を掛くるのみにて色彩は布と生地に施されあるなり。 ドイツ式の迷彩法は生産能率大にして色彩の保存にも大いに有効なり。しかし多くの普通染料にては塗料に溶解して目的を達せず。特に或彩料を用いざるべからず。
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 「ドイツ軍用飛行機迷彩一覧表」にある飛行機名称のうち、「フォッケル」は「フォッカー」、「ユンケル」は「ユンカース」である。いくつかの機体については、個々の説明のなかに塗装に関する記述が見られるので、その部分のみ掲載しておく。


****フォッケル(FOKKER)D.Ⅷ形単葉駆逐機(単座)
「フォッケル」の胴体「カムフラージュ」(迷彩)には二種あり。黄色の多きものと、暗き色調を呈せるものとあり。

ハルベルスタッド(HALB)CL.SI型偵察機(複座)
迷彩として胴体に施せる塗料は若狭塗のごとき色調を帯ぶ。
アヴィアデック(AVITIC)C.Ⅲ型偵察機(複座)
 翼胴体ともに迷彩を施さず支柱は鋼管なり。

ゴータ(GOTHA)G.Ⅸ.爆撃機
 夜間爆撃機なれば翼支柱、胴体のいずれも黒色の「カムフラージュ」を施したり。
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 この時に運ばれてきたフォッカーD.7の色に関して、『航空ファン』1963年7月号掲載の小橋良夫「フォッカーD.7戦闘機のマークと塗装」に記述があるので氏の記事から該当部分を転載して紹介したい。なお、私はここで挙げられた報告書を未確認である。

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 大戦終了後、日本に運ばれてきたD.7は、所沢陸軍飛行学校々内の航空参考館に永い間陳列されていた。
 その時の陸軍調査官が書いた報告書「押収独逸軍用飛行機材説明書」のカムフラージュ欄には、D.7のモザイクの配色が次の5色であると書かれている。
 ダークグリ-ン、ダークパープル、ダークコバルト、エメラルドグリーン、ダークイエロー
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(次号に続く)



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