Windy Wing 2013
【はじめに】
もしもあなたが自らをモデリングの求道者と規定し、一つの作品を完成させてなお満足せず、さらなる高みを目指すモデラーであるならば、本稿を読む必要はありません。しかしもしあなたが、凝りすぎたコックピットで飽きてしまって、それを接着した胴体だけがたくさんたまっているモデラーなら、あるいは、複雑怪奇な塗装で精も根も尽き果てて、結局トリミングしていないデカールを貼ってしまうモデラーなら、あるいは、何とか完成はさせたものの、疲労困憊の果てに取り付けたピトー管や増槽があさってを向いているモデラーなら、しかしそれでも展示会では女子モデラーに「○○先生ですかぁー、お作いつも拝見していますぅー」とサインをねだられたいモデラーであるならば、そう、あなたです、そんなあなたは以下、キット購入から写真撮影まで本講座で論じられるすべての項目を熟読して、栄えあるモデリングの「見栄道」を極めるべきなのです。
【キットの選定】
そもそもモデリングにおける「見栄道」とは、いかに労少なくして耳目を集める作品をWEBモデラーズ誌をはじめとするメディアに掲載させるかを目指す究極の志向に他なりません。そして実は「キットの選定」こそがその目標達成のために最も初めに行うべき、かつ、最も重要な行為なのです。しかしその基準は簡単明瞭、楽なキットを選ぶ、ただそれだけです。いかにス○ォードやブレ○ガンの魅力的な箱絵CGに心惹かれても、基本形を作るだけで体力の大半を消耗するようなキットは絶対に避けるべきです。それでは具体的にどのようなキットがよいのかというと、それは国産の最新キットに尽きます。最近の国産キットはそれこそ痒いところに手が届きすぎるほどのユーザーを甘やかした構成になっていて、中でも「何もすることがなくてつまらん」と評されるようなキットは何もすることがなくて楽です。さらには、どんなに陳腐な機種であっても、それが「ニューキット」であればウェブ上での注目度は五割増しになる、というメリットもあります。このように「見栄道」においては、製作するキットを自分の好きな飛行機から選ぶ、という自己中心的な行動は厳に慎みます。
【キットを購入したら】
こうして選定したキットがネットで一番安いショップから届いたら、まずすべきことは、パーツのチェックでもなければ、組立図を素読することでもありません。箱を開けることですらありません。まずなすべきは、外箱の絵や写真をよく眺めて、完成時に撮影する写真の構図を決めることです。最近は普通のモデリングでも、見えないところは手を入れない、という良い風潮が広がりつつありますが、「見栄道」ではこれをさらに一歩推し進めて、写らないところは作らない、を基本理念とします。したがって、完成写真にどこが写って、どこが写らないかは非常に重要なポイントとなります。一般に通常サイズのキットであれば、撮影方向は「右前アップ」、「左前あおり」、そして「左後やや俯瞰」の3枚で充分で、これ以上の枚数を投稿するのはただボロを出すリスクを増やす行為以外のなにものでもないことをよく認識しましょう。
【塗装の選択】
次に決定しなければならないのはその塗装です。これはゴチャゴチャしていて帯のないものを大原則とします。その理由は、あなたがふと勘違いしてエアライナーを選択してしまった場合、それがどれほど完璧な仕上がりであったとしても、水平尾翼の手前でわずかな窓帯の塗料のはみ出しが見つかってしまったら、もはやそれだけでその作品は全否定されます。しかし、もしもそれが大戦ドイツ機ならば、そのモットリングが2ミリや3ミリ大きいからといってイチャモンをつけてくる人はまずいません。このように塗装の選択は作品全体の完成度を大きく左右するので、まかり間違っても片翼に5本もインベンション・ストライプのある機体などは選んではならないのです。
【機体の工作】
ここまで熟考できたら、ようやく機体の工作に入りますが、ここでの心得ごとは常にいかに手を抜くか、を意識しながら作業を進めることです。コックピット内部などは上から覗き込むような写真でも撮らない限りほとんど写りませんので、ここは手でパーツをもぎって上半分に機内色を吹きつけ、計器板のデカールを貼るだけで充分です。これは従来の重厚長大型モデリングに侵されたあなたには心理的ハードルの高い工程ではありますが、一旦ブレイク・スルーするとこれがむしろ快感となることを「見栄道」はお約束します。一方、左右胴体や胴体主翼の合わせはよく目をつけられるので、ここは細心の注意をもって工作します。しかしこの時も、上面さえ合っていれば、下面はどれほどずれていても意に介する必要はなく、その点でも最新の国産キットのパーツ整合性はあなたの強い味方となってくれます。
【塗装と汚し】
ここまで製作はさくさくと進んでいるはずですが、塗装においても油断せずに同様の手抜きを怠らないよう心がけます。もとより、サーフェーサーなどというものはまったく必要ありません。そのためにあなたはゴチャゴチャした塗装を選んだのであって、そのような下地処理が必要となる全面銀や白色の機体などには生涯近づいてはなりません。つまり、いきなり全体塗装となるわけですが、「見栄道」ではキャノピー以外では原則、マスキング・テープを使用しません。米英大戦機の迷彩などは上下の境も含めて完全なフリーハンドによるスプレーが可能で、少々の塗料の回り込みなどはウェブ掲載の低画素写真ではまず判別できませんので、ここは0.3mm径で大胆に吹きまわりましょう。また、スミ入れもしたければしてもかまいませんが最小限にとどめ、翼下などの見えないウェザリングは無用の長物と考える習慣を徐々につけてゆきましょう。
【デカール貼り】
デカールについては、残念ながらトリミングやテカリが難クセの格好の標的になるところなので、ここだけは少し丁寧に処理せざるをえません。それでも、これも写真に映るところだけにとどめ、ぼけてよく見えない垂直尾翼のスワスチカのスキマのトリミングなどに無駄な神経を使うべきではありません。しかしそれ以前に、マーク類についてはMYKデザ○ン/ア○タのデカールのようなトリミング不要の材料を積極的に使用すべきであって、「見栄道」では「好きなキットを選んでからMYKを探す」から「MYKにあるものの中から作るキットを決める」という発想の転換が強く求められます。
【細部工作】
最後の工程として、脚周りやピトー管、あるいはアンテナなどの小さな部品を取り付けてゆくわけですが、ここは凝ります。というのも、ウェブ誌の読者はとにかく全体を見ずに隅っこのアラ探しに血眼になっています。「見栄道」ではこれを逆手にとって、脚柱のディテールや開けたキャノピーの内側、あるいは表面に乱立する無数のアンテナ類だけは徹底的に凝りまくってやるのです。すると彼らは「神は細部に宿る」などとのたもうて、あなたに絶賛の嵐を送ること間違いありません。もちろん、凝るのは写真に映る部分だけ、という基本理念はここでも揺るぎません。例えば、タイヤの自重変形は作品のポイントアップに欠かせない大事な表現ですが、そのタイヤのパーティングラインを消すのは前半分だけで充分です。もっとも、こんな工作のプラモデルなど展示会に出せるわけがありませんから、もしも会場で女子モデラーに「今回はどんな作品を出されているんですかぁ~?」と尋ねられたら、「Mr.○ラーのスーパーメタ○ック・シリーズはどうもボクの金属色に対する解釈と相容れない部分が多くて・・・」とかなんとか言いながら、さりげなくその場を離れましょう。
【写真撮影】
さて、これでようやく作品が完成しました。といっても、あなたは今までのモデリング後のような疲れはまったく感じていないはずです。それどころか「プラモデルを作って気分が爽快になった」という、これまでに味わったことのない不思議な感覚を満喫していることでしょう。そこで、そのあり余った体力と気力のすべてを作品撮影にぶつけるのです。ここで手を抜いてしまっては、今まで苦労して手を抜いてきた意味がなくなります。そしてこの撮影の際に要となるのが「望遠」「逆光」「feeling lucky」の三種の神器です。この3つを駆使して、当初に決めた構図で、採光、絞り、角度をわずかずつ変えながら写真を撮りまくってください(ちなみに3枚プロペラ機を撮影する時には必ずプロペラが逆三角形になるように配置しましょう。正位置で撮影すると年齢がバレます)。フィルムカメラの時代ならいざ知らず、デジカメならばどれほど撮っても懐が痛む心配はありません。どんな作品でも一方向から百枚も撮影すれば、一枚くらいは秀麗に見えるショットが撮れないとも限らないのです。「製作三日、撮影十日」、ここが最後の踏ん張りどころです。
【そして、投稿】
それではいよいよWEBモデラーズ誌に投稿です。この際に添える原稿はできるだけ短くすることで逆に「何でも知ってる感」を演出します。その意味で文頭の「実機解説」はウィキ○ディアのコピペではたちまち物知らずが露見してしまいますので,できれば省略した方がいいのですが、どうしても形を整えるために必要な場合には、誰も持っていないような大昔のプラモのインストを丸写しにしましょう。そしていよいよメインとなる「キット批評」です。あなたはただこれがしたいがためだけにかかる艱難辛苦を乗り越えてきたのですから、ここは好き放題書いてもかまわないわけですが、より効果的にインパクトを与えるためには、書き出しは「とても作りやすいキットで」と穏やかに、次の段落で「あえて欠点を挙げるならば」とやむなく感をにじませつつ、最後に「タ○ヤのデカールは原色のドットがどうにも荒く」と上から目線の一言で締めることを忘れないでください。
【おわりに】
さあ、これであなたも一流WEBモデラーの仲間入りです。ここに掲げられた「見栄道」の極意をキット製作の折々に復唱しながら、明日の億り人ブロガーを目指すのです。感動!
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えー、本稿は1983年当時、一世を風靡したホイチョイ・プロダクションの『見栄講座―ミーハーのための戦略と展開―』のパロディのホビージャパン1984年8月号掲載の『モデラーのための見栄講座』のそのまたパロディです。賢明なるWEBモデラーズ誌読者の皆様におかれましては、決して参考になどされませんように・・・(誰がするかっ!)。
プラモデル誌上個展
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