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誌上個展

<日本航空史> 96式艦上戦闘機の謎

  by 加藤 寛之
プラモデル コラム

 96式艦上戦闘機は、途中で胴体を太く変更した飛行機だ。爆撃機の主翼を流用して旅客機や貨物輸送機を作るときは胴体が太くないと困るので、これは分る。でも、なぜスリムな胴体で設計してあった戦闘機を、わざわざ途中で太い胴体にしたのか。その理由が分からない。

 『日本軍用機三面図集 海軍機篇』(鳳文書林、昭和37年)は、「胴体を太くし密閉風防、カウルフラップを装備した」と簡単な記述だ。『日本航空機総集 三菱篇』改定版(出版協同社、奥付紛失)には、「・・・、発動機の過冷防止、風圧に対する操縦者の保護のため、胴体を太くしてカウルフラップおよび密閉風防を装備・・・」と少し丁寧に書いてある。「発動機の過冷防止」=「カウルフラップ」、「風圧に対する操縦者の保護」=「密閉風防」だと思うが、それでは「胴体を太くして」は何か?

胴体が細い樫村機


『日本航空機総集 三菱篇』の巻末に、本庄季郎氏が「三菱の飛行機(機体)発達の略史」を寄せており、「風洞試験の結果が殆ど正確に飛行試験結果と一致した最初の飛行機は昭和9年(1934)4月に完成した96式陸上攻撃機の原型である八式特偵・・・」とある。96式艦上戦闘機の原型である9試単座戦闘機は昭和8年2月完成だというから、この設計に風洞試験の結果は充分に活かせなかったのかも知れない。その後の三菱機の胴体は丸みを増してきて、一式陸上攻撃機や雷電は丸々としているし、ゼロ戦や烈風もふわっと丸い。スリムに見える百式司令部偵察機も、エンジンカウリングから後方へのナセルの整形は、一式陸上攻撃機なみに丸い。そこで私は、“もしかしたら、96式艦上戦闘機の太い胴体への改造は、これの導入では?”と思っている。特に太胴は密閉式風防の導入と同時だから、全体をみると太めの流線形になっている。とはいえ、胴体を太くすれば重くなるし、飛行性能も変わるだろう。『九六艦戦/零観』(「軍用機メカ・シリーズ」16、光人社、1995年)をみると60㎏以上重くなっていて、「各舵、特に昇降舵は重く、効きも鈍重の感ありとなる。各種の操作は、2号1型と大差ないとしながらも、加速度大なる時における操作は相当重い」ことになったらしい。重ければ上昇力も低下する。それでも太くしたのは、「この方がいい」と判断したからだろうが、納得できない。「胴体を太くした試作機は作らなかったのか?」ということも疑問。胴体を変えれば内翼との関係も変化するので相互関係の確認に試作機を造って飛ばすのが当然だと思うが、太い胴体にした試作機について何かを読んだ記憶がない。零戦の記事を書くと96式艦上戦闘機の話になってしまう堀越技師がなにも言及していないところをみると、他の人の仕事なのかもしれない。ここに、何かが伝承されずに欠落しているように思う。

胴体が太い2号2型


 96式艦上戦闘機には、まだ分らないことがある。イスパノスイザ発動機を搭載した96式3号だが、どうしてこの形と分っているのだろうか。誰かが図面が起こした当時、その実機や写真を見ていた可能性はある。もう一つの可能性と思っているのが、模型製作用の図面が原図ではないか、という想像。戦後になって初めのころに出版された図面には、その転用のものがあることが資料を集めてみて分ったからだ。イスパノエンジンの排気管は特徴があるのだが、その排気管の数が2・2・2でもなく、1・2・2・1でもない数の不自然さや、エンジンの幅というのか形と似合わないほど絞った機首平面形など、簡易図面ならば起こりそうだ。

 まだある。「96式艦上戦闘機」(『世界の傑作機』№27、文林堂、1991年)のp.43 下の2式高等練習機は、尾輪柱が長い。尾輪柱を長くする改造は、地上姿勢を操縦者に覚えてもらうことで着陸時の引き起こし角度を抑制し、尾翼に乱れた気流を当てないためだと思う。F4Uコルセアやキ102の長い尾輪柱は、その目的だった。複座になった2式高等練習機もそれが起こったのだろうか。

 私が気になることを書いてみた。実は、こうして書けば誰かが資料を示して教えてくれるかもしれない、との期待があるのだ。その際はぜひ、「…ではないか」でなくて、「…の資料によると」とか論理が明確な記述で、よろしくお願いいたします。


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