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誌上個展

 妄想劇場 A6M-I (エアフィックス改造 1/72)

  by 翔バナイカイ 栗人@ケータイ



 ムッソリーニ政権時代、イタリアは地中海における覇権確立を目指し、そのためにイタリア海軍は1930年代から空母保有を検討していた。しかし航空戦力の管轄権をめぐるイタリア空軍との軋轢で計画は何度も中断。ところが1940年11月の英軍艦載機によるタラント空襲でイタリア海軍が大損害を被ったことで状況は一変し、ムッソリーニ指示でイタリア海軍は空母アクィラ(鷲)の建造(より正確には貨客船ローマの改装)を開始した。



 ここで問題になったのがその搭載機である。海軍はこれまでの空軍との軋轢の経緯から空軍から機材の提供を受けることを諦め、搭載機の自己調達に望みをかけた。そこへ同年末に、日本駐在のイタリア大使からある情報がもたらされた。日本海軍が新たに開発した艦上戦闘機が中国大陸で連戦連勝している、というものである。イタリア海軍はイタリア政府に対して、その新開発の艦上戦闘機「A6M」の輸入かライセンス権の取得を日本と交渉するように依頼した。イタリアは1938年に当時先進的であったブレダBR.20を日本に輸出した事例(イ式重爆)があり、もともと日本贔屓であったムッソリーニは、イ式重爆の先例も踏まえ自ら日本政府TOPと水面下の交渉を行った。その結果、1941年始めにイタリア軍は、極秘裏に日本からA6Mの設計資料の提供を受けることができた。



 こうして日本から入手したA6M(零戦)の設計資料を基にイタリア海軍が独自に改修した機体がA6M-Iである(”I”はイタリア国名の頭文字である)。この時の「イタリア化」の内容は日本にも伝えられ、後に零戦を改修する際の参考にもされたと言われている。A6M-Iの生産にあたってはイタリア空軍機の生産能力を圧迫しないように海軍独自で生産ラインが整えられ、空母アクィラ用の搭載機として1941年末ごろから数十機程度が生産された。しかしその生産記録は後にイタリア敗戦時の混乱の中で失われてしまい、今となっては知ることができない。



  一方、搭載母艦となるべき空母アクィラの工事は資材不足等のため一向に進まなかった。その間も地中海戦域では英軍との激闘が続いており、生産されたA6M-Iは1942年の北アフリカ戦線やマルタ島攻防戦の激戦に投入され瞬く間に損耗。もとより数十機程度の規模では目立った戦果を残すこともできず、こうしてA6M-Iは歴史の谷間に消えてしまった。
 最後に、この間対峙した英軍側の記録に「運動性が極めて高い敵戦闘機に遭遇。G50の新型と思われ注意を要する。」といった内容が散見されることも述べておこう。

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  ひところはやった「仮想戦記」に「零戦をドイツに輸出していたら」的なものがありました。しかし零戦の輸出先としては、心底では日本を蔑視していたナチ・ドイツよりも同じ枢軸国ならイタリアの方がまだありえたのでは、と私は考えておりました。また以前、MA誌でエアフィックスのG50のグレードアップに零戦21型のカウリングを使った作例が紹介されておりました(両者のカウリングは確かにそっくり)。
 こんなことから「もしイタリアが零戦を持つことができたら」と考えて暖めていた妄想ストーリー(始めに挙げたお話です)の下で「イタリア化した零戦」を仕立ててみたのが今回の作品です。改造ベースには構成が簡単なエアフィックスの零戦21型の新キットを選び、これを次の内容で勝手に「イタリア化」。
●カウリング下面のキャブレターインテイクにサンドフィルターを追加。これにあわせてオイルクーラインテイク開口部を下げた(これでなんとなくダサい感じがUP)
●風防は密閉式からイタリア風の半開放式に改修、キャノピー後部もソリッド化(先祖返り?)
●速度向上を狙って主翼端の折り畳み部を外し角形に整形(零戦32型の改修の参考になったとか?)
●その他、搭載武装や装備品も色々イタリア化しているが、外形は変化なかったものと想定!
とまあこんなノリで工作を進め、塗装は当時のイタリア空軍戦闘機によくみられた斑点迷彩。カウリングは黄色で派手にきめてみました。部隊エンブレムは手持ちデカールの中から適当なもの選んで貼って仕上げていますので、厳しい突っ込みはご容赦!




 改造元としたエアフィックスの零戦21型の新版キットですが、フォルムは良く、モールドはシャープ、かつとても作りやすい構成のキットでありました。精緻さではもちろん国産T社、FM社、H社の方に軍配が上がりますが、「簡単に作れてその機体のイメージを楽しめる」という点でエアフィックスの本キットは大きな価値を持っています。


カウリング下面のキャブレターインテイクとオイルクーラ周りの「改修」状況。「なんかダサい」感じを出したつもりです。


 コクピット周囲のアップ。 キャノピーはイタリアパイロット好みの半開放式に戻し、後半もソリッド化して 後方視認用の窪みをつけています。「寒かろう」と思い、パイロットフィギュアに手を加えて襟を立ててあげました。


機体下面。「陸上からの運用だけだった」はずですが着艦フックはあえて残して「元は艦上機なのだ」ということを主張しているのです。


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