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特集 日本陸軍機、民間機

  (Photo) 陸軍三式戦闘機「飛燕」発動機探訪 
~滋賀県平和祈念館~

  by  Windy Wing 2013


【写真1】「ハ40」発動機左側面。左方がプロペラ側となる(本稿の写真はすべて筆者撮影)。

<2023年9月29日付中日新聞電子版より抜粋>
第二次世界大戦中に運用された旧日本陸軍の三式戦闘機「飛燕」Ⅰ型の液冷エンジン「ハ40」が、東近江市五個荘竜田町の造成工事中の住宅地から見つかり、滋賀県平和祈念館(東近江市下中野町)で2023年9月28日、一般公開が始まった。エンジンを所有する東近江市戦争遺跡の会々長は「郷土で戦争の歴史を語る資料として非常に価値が高い」と話す。エンジンは直方体に近い形で、全長1.5メートル、幅1メートル、高さ75センチほど。部品の一部が欠損し、重さは推定で約700キロ。配管のラベルに「昭和18年6月15日」の製造と記載され、表面には製造した川崎航空機工業の社章も刻印されている。


【写真2】同やや上方より。この右端手前側に過給器タービン・カバーがあったものと推定される。

<2023年10月16日付産経新聞電子版より抜粋>
飛燕は川崎航空機工業(現川崎重工業)がドイツの液冷航空エンジンを国産化する形で開発・製造し、昭和18年、旧日本陸軍に採用された。空気抵抗と重量を最大限軽減して速度と機動性を両立し、約三千機製造されたとされる。祈念館によると、2023年2月、東近江市五個荘竜田町の建設工事現場で、飛燕に搭載されていたとみられるエンジン(全長1.5m、幅1m、高さ0.75m程度)が地中から出土した。展示台の製作などには東近江戦争遺跡の会が、祈念館までの運搬・搬入作業には東近江青年会議所が協力し、9月28日に搬入された。祈念館の1階展示室で展示・公開している。観覧無料で、開館時間(午前9時半~午後5時、入館は午後4時半まで)内は自由に見学できる。展示期間の終了時期は未定。休館日は月曜と火曜(祝日にあたる場合は開館)。問い合わせは県平和祈念館まで(0749-46-0300)。


【写真3】左排気管の詳細。押し潰されてはいるが、本機の特徴である溶接痕が鮮やかに見てとれる。

今回、別項の<レベル 1/32 川崎3式戦闘機”飛燕”I型改>製作に合わせて、滋賀県東近江市の「滋賀県平和祈念館」を訪問してまいりました。


【写真4】パイプ類はすでに失われているが、製造年月日が打刻された配管リングが残っている(矢印)。

展示されている発動機にはプロペラシャフトのギアボックス・カバーや過給器タービンが欠落していますが、配管リングにははっきりと「昭和18年6月15日製造」の文字を読み取ることができます。これはちょうど飛燕のI型が陸軍に制式採用された時期にあたるため(部隊配備は同年1月にすでに始まっていましたが)、この倒立V型液冷エンジンは大戦後期に飛燕II型に搭載された「ハ140」ではなくI型用の「ハ40」と考えるのが妥当と思われます。 


【写真5】左側面中央部に赤い文字で「1281」と書かれた発動機製造番号と思われる数字。

本体左側面には「1281」という比較的若い製造番号と思われる数字がペイントされていることから、この発動機は組立て完了を待たずして終戦を迎えたのではなく、実際に「三式戦飛燕I型」に搭載され稼働していたと推定されます。この文字が機と共に大空を駆けめぐるその姿を思い描く時、その朱書きは私の胸中に躍々たるものを湧きあがらせます。 


【写真6】掲示されている滋賀県内の大戦中の施設地図。館内にはこの他多数の資料展示・掲示がある。

私が三式戦「飛燕」という名前を聞いて思い浮かべるのはソロモンや比島をはじめとする東南アジア戦線と帝都防衛、そして最後の沖縄特攻(この作戦に参加した「飛燕」は総生産約3000機のうち100機程度ですが)であって、本土の真ん中の東近江の地とはあまり縁のないようにも感じておりました。しかしながら、館内の展示物などを拝見してみると、この湖東の八日市飛行場や、あるいはかの「桜花」の叡山カタパルト訓練基地など、滋賀県内にも訪ねるべき史跡は多く、今後、こちらの祈念館を拠点にあらためて探訪してゆく楽しみが増えた、とたいへん喜んでおります。


【写真7】展示された発動機の撮影はできるが、赤いライン内への立ち入りは禁止されているので注意。

私にとってひとつの謎は、この民間の地に三式戦「飛燕」の、それも発動機だけが隠されていたその理由です。館の主任専門員の方によると、軍の指示のもとで土中に埋めた、というご説明でしたが、あるいは帝国陸軍の至宝たる液冷エンジンを後世に残したい、との想いで、終戦の混乱期に700kgもある発動機を人々が集い埋める風景の想像が許されるならば、それは永く語り伝えられるべき小さな歴史秘話かもしれません。


【写真8】「滋賀県平和祈念館」

【謝辞】今回の原稿作成にあたり取材協力いただきました滋賀県平和祈念館の所長様をはじめスタッフの方々並びに東近江市戦争遺跡の会の皆様に心よりお礼を申し上げます。


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