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誌上個展

トヨタ 2000GT オープン (ナガノ 1/20)

by 田口博通 Hiromichi taguchi

 Vintage garageは創世記から1970年代までのビンテージレースカーとビンテージクラシックカーの連載コーナーです。クラシックな姿の中に優雅さと繊細さを内包した彼女達にしびれる方々も多いはず。 
 ビンテージ・ガレージは ビンテージカープラモデルの製作だけでなく、その独特の魅力を醸し出すビンテージカーが背景に持つエピソードにもスポットをあてています。 
どうぞあわせてお楽しみ下さい。

 2024年9月号から6年ぶりに再開するビンテージ・ガレージ 第6シーズンは、国内外メーカーから発売されている1950年代から1970年代のビンテージカーを主に取り上げます。
 今月登場するのは ナガノから発売されていた トヨタ2000GTのオープンカーです。1967年の映画「007は2度死ぬ」で登場したオープン仕様の2000GTをモデル化したもので、日本離れしたロングノーズの流麗なボディラインで 非常な人気となりました。
 
 ナガノからは クーペボディの2000GTも発売されており、どちらを買うか、と迷ったご経験のある読者もいらっしゃることでしょう。




 ナガノ1/20  TOYOTA 2000GT 箱絵 


トヨタ 2000GT

実車について

(ヤマハ本社に展示されている実車) wikipediaより引用

 トヨタ2000GTは 1967年にトヨタから発売されたが、良く知られているようにヤマハ発動機が主な開発と実車の生産を行っている。
 ヤマハ発動機は当初 日産と組んでスポーツカーを開発していたのだが、試作車YX-30開発後にそれがご破算となり、後にトヨタと組んでいる。
 トヨタ自動車工業とヤマハ発動機の間に、スポーツカー開発に関する技術提携の契約が交わされたのは1965年9月8日だった。
 分担は トヨタ側で全体レイアウト計画やボディデザイン、基本構想などを行い、ヤマハ側は同社の指導のもとで主にエンジンの高性能化と車体、シャシーなどの設計を担当するということであった。
 
 当時、ヤマハ側はオートバイのトップメーカーであったものの、自動車に関しては製造上の知識、経験はゼロに等しかった。ヤマハ経営陣の目論みは あわよくば、この経験を基に、将来的に自動車事業にも進出したかったのだろうと推測される。 競合オートバイメーカーのホンダがスポーツカーS800で成功を収め、更にはF1レーシングカーに進出し、技術のホンダのイメージを確立したことが ヤマハがスポーツカー分野にトライした直接の理由であったと想像できる。 また、競合オートバイメーカーのスズキも1955年には四輪軽自動車分野に進出し、躍進を始めたことも念頭にあったことだろう。
 一方のトヨタは戦後から当時にかけてトラックが主事業で、自家用車は トヨペットクラウン、コロナを販売していたものの 実用一辺倒のダルマデザインで 人気は今一つだった。競合のプリンス自動車のスカイライン、ニッサンのブルーバードにデザインでも性能でもリードされていたのである。
 スポーツカーについてはトヨタ系列の関東自動車の設計生産による軽量トヨタS800が発売されたのみで、ホンダS800,ニッサンフェアレディに匹敵するようなイメージリーダーとしての本格的なスポーツカーに経営資源をさく余裕は無かったようである。

1960年代当時のトヨタの愛称ダルマ(トヨタ博物館展示)
 トヨペットクラウン初代 1955    トヨペットコロナ初代 1957
     

実車の開発と設計

  2000GTのエンジンについては、ヤマハが「トヨペットクラウン」に搭載されていたトヨタ2000cc直列6気筒量産エンジンを改良して、DOHCヘッドを備え大幅な出力アップを達成した高性能エンジンを開発製作した。
 ヤマハの社史によると、「シリンダーヘッドカバーに黒色艶消し縮み塗装を施したが、エンジンが露出しているモーターサイクルでは当たり前のことも、ボンネットの下に隠れている自動車用エンジンにそのようなデザインを施す例は国産車ではそれまでほとんど見られなかった」 とのことである。
 シャーシーはジャガーEやロータスエランに倣ったX型バックボーンフレームを採用。ステアリングにもラックアンドピニオン式が初めて採用された。
 サスペンションは、前後輪ともコイル支持によるダブル・ウィッシュボーン。日本初の4輪ディスクブレーキとなっている。
 リトラクタブルヘッドライトは国産車としては初めての装備であった。 


 車体であるがボンネットやトランクリッドの材料には、ヤマハボート製造で培われた手づくりのFRP成形技術が使われている。
2000GTは少量生産だったこともあり、ルーフやフェンダー、ドアなどは"匠"の技によるアルミ板金叩き出しで製作を進めた。結果、非常に軽量なボデイが実現されている。

一方、コクピット内部は ジャガーEタイプに倣って高級スポーツカーして贅を尽くしたものとなっている。ヤマハの楽器材料の加工技術を生かして、前期型はウォールナット、後期型はローズウッド製のインストルメントパネルとステアリング、シフトノブとなっている。夏期には異常な高温となる車内で天然木の割れやヒビなどが出ないようにするため高度な技術を必要としたが、楽器づくりで培った木工技術が駆使されている。

 2000GTはそれまでの実用一辺倒のトヨタ車とは明らかに違うボディラインと技術が使われたスーパースポーツカーだった。当時のスポーツカーデザインの主流を作ったジャガーEタイプの長いボンネットと短いコクピット、低い車高で流麗な曲面構成のデザインの影響が感じられる。
 オープン仕様車は「007は2度死ぬ」撮影のため、試作車をベースとして撮影用と予備用の2台が製作されている。なお、ボンドカー仕様の2000GTがオープンカーとなった理由は、ボンドを演じたショーン・コネリーの長身では2000GTのクーペ仕様では狭すぎて乗れないことがわかったためというのが面白い。  




製作

キットの部品内容

ボディの塗装

 ボディ部品は ボデイ、ドア、ボンネットに分割されてホワイトでモールドされている。またリトラクティブライトは固定となっている。クーペのボディーカラーは、前期型では次の3色が設定されていた。
ペガサスホワイト、ソーラーレッド、サンダーシルバーメタリック。

 ボンドカーオープン仕様は、ペガサスホワイト一択なので、MrカラーNo.69 グランプリホワイトをエアブラシで吹き、仕上げにクリアを吹いて塗装は完了とした。ドア内張は 艶消しブラックで、中央部をニュートラルグレーで塗っている。

塗装をしたボディ

エンジン

 ナガノのキットは1/20というスケールを生かして、エンジンが精密再現されている。実車のエンジン本体はクラウン用の直列6気筒7ベアリングSOHCエンジンである「M型」(1,988 cc・105 PS)のブロックを流用。ヘッド部がヤマハの開発したDOHCヘッドとなっている。



 キャブレターはソレックス型3連キャブレター(三国工業がライセンス生産)、クラッチとトランスミッションはアイシン製(アイシン史上初の乗用車向けトランスミッション)となっている。
そんなことも 頭に思い浮かべながら 組み立てを進めると一層楽しくなる。
 エンジンの塗装だが、シリンダーヘッドカバーに黒色艶消し縮み塗装を施したとのことなので、それを再現してみるのも面白いだろう。



排気管を装着して完成したエンジン部(塗装前)

シャーシー

 実車のシャーシーはX型バックボーンフレームにコイル支持によるダブル・ウィッシュボーンとのことなのだが、キットでは下のように簡略化して雰囲気だけ再現した飾り部品がついているのみではある。また、ディスクブレーキ部品もないが、そこは1970年代リリースのキットであり、既にナガノも存続しておらず、ここはおおらかに許してあげて、完成を目指そう。

簡略化して再現されたシャーシー


エンジン、シャーシー、コクピットを仮組した下部ボディ


エンジン、シートと計器パネルを組み込み 塗装が完了した下部ボディ。
計器パネルとシフトノブは艶消し黒の上にサンド色をドライブラシし、透明オレンジを重ねて、木目感を出している。 

完成

 下部シャーシーに上部ボディをかぶせて、透明フロントガラスを手工芸用水性ボンドで接着し、最終組み立てをする。フロントガラスのシルバーモールは、ハセガワトライツールのミラーフィニッシュを貼り付けた。ナガノのこの2000GT は簡単なキットではあるが、製作中 ちょっとしたメカニック感を味わうことも出来、充実した製作時間を過ごすことができるだろう。
 完成した2000GTの姿は 流麗なスタイルで実に魅力的だ。




トヨタ 2000GT その後

 トヨタ2000GTは1967年5月から1970年8月までの3年3か月で試作車を含め、337台が生産された。量産とはいえ、1台1台を手づくりで製作するという形であった。
 本格的な市販スポーツカーとして設計された2000GTは 市販車ベースほぼそのままの仕様(ボディは軽量化のためオールアルミ板金叩き出しに改造)で、1966年5月開催の第3回日本グランプリ(360km)に2台が出場した。
結果は純レースカーとして設計されたプリンスR380の砂子が1位、同R380大石が2位に。続いて、2000GTの細谷が3位に入っている。
2か月後の1966年7月の鈴鹿1000kmレースでは1,2位を決め、初優勝を飾った。翌年1967年の鈴鹿500kmでも鮒子田寛が優勝している。

トヨタ2000GT 1967鈴鹿500km優勝車(ハセガワ1/24) 2019年8月号掲載


 その後のヤマハは2000GTのレース仕様やトヨタ・7の開発や製作などに当たった。トヨタ7には 1968年型(3リットルNA)、1969年型(5リットルNA)、1970年型(5リットルターボと5リットルNA)の3世代があり、いずれもヤマハ発動機とトヨタグループ企業との共同開発である。
しかし、70年代初頭にトヨタ、ニッサンとも排ガス規制対応のために、技術資源を集中するとして、レース活動から撤退してしまう。
2000GTの生産が70年で終了したこともあり、同時に ヤマハの4輪分野での活動も終焉を迎え、以後は 2輪メーカーとしての道に戻るのである。

 歴史にIFは無いが、もしヤマハがホンダを意識してのスポーツカー開発を選択せず、スズキを意識しての軽自動車開発を選択していたら、
もちろん 2000GTは生まれておらず、トヨタ・7 も無かったかもしれない。
しかし、現在のヤマハがスズキに匹敵する大軽自動車メーカーに成長していた可能性も大きい。技術資源の投入を何にするかという経営判断の歴史的結果の妙ではある。

トヨタ 7 (オオタキ 1/24) 2023年2月号掲載


 本格的市販スポーツカーとして設計されたトヨタ2000GTは、337台生産されただけで、ヒストリックカーとしても現在でも非常に人気がある。当初の2000GTの販売価格は238万円だったが、最近のオークションでは1億2000万円を軽く超え、日本車としては過去最高値となっている。

 さて、当初、ヤマハと日産で開発された試作車はもろもろの事情がありご破算となっているが、このデザインの流れがニッサン シルビア(1965)へと受け継がれ結実している。ヤマハのセンスは 2輪だけでなく、4輪にも脈々と生き続けたようである。

1965年発売 ニッサン シルビア

(トヨタ博物館展示)

ビンテージ・ガレージ バックナンバー
5th
シーズン
2019年1月号  第28回 ブラバム BT-18 ホンダ F-2 (エブロ 1/20)
Brabham BT18 Honda F-2 (Ebbro 1/20)
2018年10月号  第27回 トヨタ S800 (フジミ  1/24)
TOYOTA S800 (FUJIMI 1/24)
2018年8月号 第26回 プリンス R380A-1(インターアライド 1/24)
PRINCE R380A-1 (Interallied 1/24)
2018年7月号 第25回 ジャガーEタイプ (グンゼ 1/24)
Jaguar Type E (GUNZE 1/24)
2018年5月号 第24回 マツダ コスモ スポーツ L10B (ハセガワ 1/24)
MAZDA COSMO SPORTS L10B (HASEGAWA 1/24)
2018年4月号 第23回 Team Lotus Type49B 1969 (エブロ 1/20)
Team Lotus Type49B 1969 (EBBRO 1/20)
4th
シーズン
2017年2月号 第22回 ベンツW154-M163仕様  (W163 (1939) リバイバル 1/20)
2017年1月号 第21回 ダットサンSR311 フェアレディ (フジミ(旧日東) 1/24)
2016年12月号 第20回 スカラブ Mk.4(モノグラム 1/24) 
SCARAB Mk.4 (MONOGRAM 1/24)
2016年11月号 第19回 マクラーレンM8A 1968(タミヤ 1/18)
  Mclaren M8A (TAMIYA )
3rd
シーズン
2016年2月号 第18回 ポルシェ356Aスピードスター (トミー 1/32)
PORSCHE 356A SPEEDSTER(TOMY 1/32)
2016年1月号 第17回 ブガッティT55スーパースポーツ(バンダイ 1/20)  
Bugatti model 1932 type 55 Super Sport (Bandai 1/20)
2015年12月号 第16回 フェラーリ 250 テスタロッサ(ハセガワ 1/24)
Ferrari 250 Testa Rossa (Hasegawa 1/24)
2015年10月号 第15回 シトロエン DS19 (エブロ 1/24)
CITROEN DS19 (EBBRO 1/24)
 
2015年9月号 第14回 フォルクスワーゲン カルマン・ギア 1963年型 (GCIクレオス 1/24)
 Volkswagen Karmann Ghia 1963
2015年8月号 第13回 メルセデス ベンツ 300SL (タミヤ 1/24)
Mercedes Benz 300SL (Tamiya 1/24)

2nd
シーズン
2014年12月号 第12回 オースチン ヒーレー 100-6 (レベル1/25)
AUSTIN HEALEY 100-SIX (Revell 1/25)
2014年11月号 第11回 リンカーン・フューチュラ(レベル1/25) 
LINCOLN Futura (Revell 1/25)
2014年10月号 第10回 メルセデス・ベンツ540K(モノグラム1/24)
MERCEDES-BENZ540K (Monogram 1/24)
2014年9月号 第9回 デユーセンバーグ・モデルSJ(モノグラム1/24) 
DUESENBERG SJ (Monogram 1/24) 
2014年8月号 第8回 ド・ディオン・ブートン (1904年型)(ユニオン 1/16)
DE DION BOUTON 1904 (UNION 1/16 )
2014年7月号 第7回 アルファロメオ2300 トゥーリング(1932)(ブラーゴメタルキット 1/18)
ALFA ROMEO 2300 TOURING(Burago Metal Kit 1/18)
1st
シーズン
2014年1月号  第6回 ベンツ 300SLR (レベルモノグラム 1/24) 
2013年12月号 第5回 BENTLEY 4.5L BLOWER (エレール 1/24)
2013年11月号 第4回 ブガッティ 35B(モノグラム 1/24) 
2013年10月号 第3回 BRABHAM F-3 (エレール  1/24) 
2013年9月号  第2回 ROB WALKER Team Lotus 72C (エブロ 1/20)
2013年8月号  第1回 ホンダF1 RA272(タミヤ 1/20)


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                    editor Hiromichi Taguchi 田口博通 /無断転載を禁ず/リンクフリー

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プラモデル模型製作特集3

9月号 TOTAL PAGE view


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