McDonnell Douglas F/A-18A “Hornet” 製作記(Hasegawa 1/72)
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by Kiyoshi Iwama(ひやめし会) |
McDonnell Douglas F/A-18A “Hornet” (1/72) Hasegawa Box Artより
昨年から今年にかけA-6E イントルーダ(1/72)2機を製作しました。2機のイントルーダは、空母ミッドウェイに搭載されていたVA-185
“Night Hawks”とVA-115 “Eagles”の機体に仕上げたのですが、そうなると同時期に一緒にミッドウェイに載っていたホーネットの3飛行隊の機体も作ってみたくなりました。当時の機体はF/A-18Aですが、ハセガワの在庫キットが1機分しかなかったので、所属するクラブのメンバーから2機分を分けて頂き、3機を一挙に作ることにしました。製作の遅い私にとっては大いなるチャレンジでしたが、何とか無事完成に至りました。このキットはハセガワが最初にリリースしたキットにCVW-5の3飛行隊、VFA-195
“Dumbusters”,VFA-151 “Chargers”,VFA-192 “World Famous Golden Dragons”のデカールを追加したもので、上記のボックスアートのような形で限定的にリリースされたものです。デカールが古いので少し心配でしたが問題なく使用できました。
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3機並んだF/A-18A “Hornet” Hasegawa(1/72)
実機について
1970年代前半、米空海軍ではF-15とF-14というこれまでにない高性能戦闘機の部隊配備が始まっていました。しかしその性能に比例するが如く、価格も高騰し、議会でも問題視されていたのです。このため空軍はF-15を補助する低価格戦闘機ACF(Air Combat Fighter)の模索を始め、海軍もF-14と併用しつつ、老朽化してきたA-7と交替させる機体を求め、VFAX計画を立ち上げました。
しかし海軍は議会の反対に会い、空軍の立ち上げたACFをベースに採用を迫られます。このため海軍は、ACFの候補となっていたYF-16とYF-17から双発で艦載機に適していると考えたYF-17を海軍版ACFとし、これをベースに新たな機体を開発することを決断しました。このため、艦載機で豊富な経験を持つマクダネルダグラス社(MDC)がYF-17を開発したノースロップ社と協力し、海軍の要求に見合った機体に設計しなおし、Model 267として提案します。この提案が海軍に採用され、F/A-18の開発がスタートします。その後設計と試作機の製造が進められ、1978年9月13日に試作1号機(Bu.No,160775)がロールアウトしました。MDCのセントルイス工場で公開された機体は、白地にブルーとゴールドのストライプをあしらった姿で、機首まで伸びたLEXや外側に傾いた双尾翼はYF-17の面影を残すものの、太くなった機首、盛り上がった背中、頑強そうな脚などは別機を思わせるものでした。初飛行は1978年11月18日にセントルイスで実施され、50分の飛行を無事終えました。試作機は複座型の2機のYF/A-18Bを含む、トータル10機が製造され、海軍航空テストセンター(NATC)や海軍兵器センター(NWC)で各種飛行試験や兵器投下試験などが実施され、加えて空母アメリカでの空母適合性試験がおこなわれ、1980年にはほぼすべての開発試験を終えました。そして1980年11月13日、海軍/海兵隊のパイロットのF/A-18への転換訓練飛行隊でF/A-18初の艦隊即応飛行隊となるVFA-125がカリフォルニア州のNASリムーアに編成され、1981年2月19日には最初のF/A-18Aを受領します。こうしてパイロットの転換訓練が始まるとともに、実戦部隊の編成も進み、1983年1月7日にはMCASエルトロのVFMA-311が、また1983年8月16日にはNASリムーアのVFA-113に最初のF/A-18Aが配備されました。
以上がF/A-18誕生までの序章ですが、今回はここまでとし、最後にF/A-18Aの主要諸元と特徴を記しておきます。
全長 : 17.06m
全幅 : 11.43m
全高 : 4.66m
最大離陸重量 : 23,542kg(カタパルト射出時)
外部兵装最大搭載量 : 7,577kg
最大速度 : M1.8+(高空)
実用上昇限度 : 15,240m
戦闘行動半径 : 400nm+(エスコート時)
航続距離 : 2,000nm+(フェリー時)
エンジン : GE F404-GE-400
エンジン推力 : 7,260kg×2
外部からは分かりませんが、F/A-18Aの機首部分には対空・対地の戦闘に使用するマルチモードのパルスドップラーレーダ AN/APG-65が搭載されており、機首に搭載されたM61A1バルカン砲、AIM-9L、-7E/F、-120などの空対空ミサイル、AGM-62、-65、-65、-88などの空対地ミサイル、そしてMk82をはじめとする各種爆弾の運用を可能にしています。また胴体中央部の左右パイロンには対地攻撃用に使用するAN/AAS-38 FLIRポッド、AN/ASQ-173 LSTポッドが搭載できます。
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製作
ハセガワのA型のキットは1985年にリリースされていますので、まだ実機が実戦部隊への配備が始まって間もない頃です。そのため考証的には試作機の情報が混入したりしています。しかし情報が少ない中では良く実機の特徴を捉えたキットです。F/A-18の機体形状はF-14同様複雑で、パーツの分割には苦労されたのだと思います。モールドは非常にきれいですが、仮組してみると段差や隙間の出てくるところがあり、その辺は丁寧に削ったり、パテで埋めたりしながら組み立てていきました。今回は3機作るため、まず1機をいろいろいじくって組み立て手順を決めて、残りの2機に反映することで無駄を省くことにしました。部品チェックと仮組で気づいた主な点を書いておきます。
①上下分割となっている胴体の前胴部分がうまくフィットしない。②中胴部の側面パーツと胴体との嵌合精度がいまひとつ。③インテイクリップの取り付け部に段差ができる。④水平尾翼が若干上に反っている。⑤インストに垂直尾翼の傾き角度が書いてない。(外側に20°傾斜)⑥AAS-38 FLIRポッドのパイロンが付いてない。(直接機体のパイロンに付けるようになっているが、これは設計ミス)⑦主翼のフラップと、エルロンの後縁ラインが直線になっている。量産機ではエルロンが多少短くなって後縁ラインに段差が付いている。
欠点ばかりを書いてしまいましたが、全体としては前述のとおりコストパーフォーマンスの優れたキットだと思います。何かと評判の悪いハセガワのデカールですが、このキットのデカールは35年近く経ってもそのまま使用することが出来ました。では順を追って製作過程を紹介します。
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まずはコクピットから始めます。コクピットはサイドコンソールがモールドされたバスタブ形式で、計器盤はデカール仕上げです。主計器盤は機体のアンチグレアシールド部に取り付けます。取り付ける前に両者とも塗装してデカールを貼っておきます。コクピット内はダークガルグレーFS36231(Mr.Color C317)で、主計器盤、及びコントロールスティックのハンドル部はつや消しの黒で塗りました。(写真1)が出来上がったバスタブコクピット、(写真2)が主計器盤です。
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(写真1) コクピット
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(写真2) 主計器盤
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胴体は上下と中胴部左右パネルの4部品で構成させており、上面パーツには水平尾翼が一体成型されています。まず胴体下面部から組み立てます。胴体下面パーツに中胴部側面パーツを接着し、プラ板を貼って接着部を補強します。次に前脚及び主脚の収納部とエアーインテイク内部にあたる部分を白FS17875(Mr.Color C316)で塗り、インテイクの奥にはつや消しの黒で塗ったパネルを貼り付けます。その後コクピットを取り付けました。(写真3、4) |
(写真3) 主脚収納部を塗装した胴体下面パーツ
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(写真4) 胴体下面パーツに取り付けたコクピット
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そして上下パーツの合わせ具合を確認した結果、側面が少し内側に倒れているのでランナーを切って、つっかい棒を入れて胴体幅を調整しました。(写真5)この写真でエアーインテイク内部の様子も分かると思います。
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一方胴体上面パーツですが、モールドの引けのある部分をパテで埋め(写真6でダークイエローに見える部分)、整形後コクピット部をつや消しの黒で塗りました。(写真6)そして乾燥後、主計器盤を取り付けました。(写真7) |
(写真6) 胴体上面パーツの補修と塗装
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(写真7) 主計器盤の取り付け
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次に胴体の上下パーツを貼り合わせ、合わせ目などを修正・整形しました。(写真8)このとき前述の水平尾翼も水平になるよう矯正しています。
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主翼は左右それぞれ一体成型で出来上がっています。パネルラインも細かく綺麗なモールドです。(写真9)F/A-18は駐機時にはフラップ、エルロン、前縁スラットともダウン状態ですが、その改造は手がかかりそうなので今回はパスです。但し、エルロンが試作機の状態ですので、ここだけは修正しました。その後胴体に取り付けました。胴体側にフラップの一部がモールドされており、主翼のパーツとの間に段差と隙間が生じたので修正しています。(写真10)主翼を量産型にするため、写真で分かるようにエルロンの後縁を0.8㎜程削り取っています。
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(写真9) オリジナルの主翼
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(写真10) 胴体に取り付けた主翼
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主翼を付ければ機体の形はほぼ出来上がりですが、さらにレドーム、エアーインテイクのリップ部を取り付け、接合部を整形しました。これで塗装の準備が完了。(写真11)垂直尾翼は傾いていることもあり、デカールの貼り付け作業を考えて後付けにしました。
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機体色を塗る前に、まずコクピット、エアーインテイク内部、脚収納部をマスキングします次に機首先端部をレドーム色で、機首上面のバルカン砲発射口カバーをスーパーステンレス色で、エンジン排気口の取り付け部をスーパーステンレス色+黒鉄色で塗装し、乾燥後マスキングしましました。その後機体下面をグレーFS36375(Mr.Color
C308)で、上面をグレーFS36320(Mr.Color C307)で塗分けます。このとき垂直尾翼もグレーFS36320で塗っておきます。塗り終わった状態の機体下面側が(写真12)です。まだマスキングは外していません。 |
乾燥した後、レドーム先端とメタル色の部分のマスキングを外した状態が(写真13,14)です。
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(写真13) マスキングを外した機首部
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(写真14) マスキングを外した排気ノズル取り付け部
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次にマスキングして機首下面や胴体上部のブレードアンテナをグレーFS36495(Mr.Color C338)で、ストレーキ上面と主翼下面のエルロンヒンジカバーにある航法灯を右舷をクリアブルー、左舷をクリアレッドで塗りました。(写真15)は左舷翼下の航法灯です。
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デカールは前述したようにキットに付属した(写真16)のものを使用しました。3飛行隊各1機分が用意されていますが、国籍マークなど1機分しかないものもあり、それは手持ちのデカールから流用しています。しかし付属のデカールの“NAVY”のレターの色は3機分なく、VFA-192の機体は少し濃い目のものになってしまいました。デカールを貼った一例を(写真17、18、19)に示しますが、(写真19)がVFA-192の”NAVY”レターの部分です。
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(写真16) キット付属の空母ミッドウェイの搭載機のデカール
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その他の機体パーツについていくつか紹介します。(写真20)は右主脚柱、(写真21)が前脚です。主脚柱のリングにはアルミテープを貼り付けています。脚柱に貼ってあるプラカードは黒のデカールで表現しています。前脚には前照灯とインデックスライトを加えました。
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(写真20) 右主脚柱
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(写真21) 前脚
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(写真22)はエジェクションシートです。シートベルトはファインモールドのナノアビエーションシリーズのものを使用しています。
(写真23)はキットには付属してなかったキャノピーのリアビューミラー、開閉ハンドル、そして機首部のピトー管です。プラ板とプラ棒、真鍮線で作り、この後整形して塗装しました。
(写真24)はウィンドシールドとキャノピーです。キットのインストにはフレームの一部がカッパーとなっていましたが、厚木に配備された機体ではこのシールド部にも塗装が施されていたので機体色で塗装しました。
(写真25)はキャノピーの内側で、リアビューミラーと開閉ハンドルを付けています。
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(写真22) エジェクションシート
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(写真23) リアビューミラー、開閉ハンドル、ピトー管
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(写真24)ウィンドシールドとキャノピー
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(写真25) キャノピー内側
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最後に外装品です。F/A-18の兵装は豊富ですが、厚木で普段よく見かけた形態にするため、内舷パイロンにタンク、翼端パイロンにAIM-9Lの訓練弾という姿にしました。(写真26)両脇のFLIRとレーザースポットトラッカー(LST)も搭載したかったのですが、FLIRのパイロンが無いためあきらめかけたのですが、アカデミーのキットには付いていたパイロンが少し調整すればハセガワのキットに取り付けられたため、VFA-192(NF301)の1機だけこれを流用して搭載してみました。(写真27)LSTはハセガワのキットのものです。
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(写真26) 翼端パイロンに搭載したAIM-9Lの訓練弾
(写真27) VFA-192機体に搭載したAN/AAS-38 FLIRポッドとAN/ASQ-173 LSTポッド
デカールを貼り終えた機体や垂直尾翼、外装タンクのパネルラインに墨入れをした後、多少汚しを加えました。その後垂直尾翼を機体に接着し、キャノピーとウィンドシールドを仮止めします。そして保護のための艶消しクリアーを、機体をはじめその他部品にもオーバーコートし、乾燥後残りの部品を組み上げれば完成です。(写真28~34)が完成した、3機のF/A-18Aです。
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(写真28) 完成したVFA-195のF/A-18A
(写真29) 完成したVFA-195のF/A-18A
(写真30) 完成したVFA-151のF/A-18A
(写真31) 完成したVFA-151のF/A-18A
(写真32) 完成したVFA-151のF/A-18A
(写真33) 完成したVFA-192のF/A-18A
(写真34) 完成したVFA-192のF/A-18A
VFA-195の機体を見てモデックスナンバーが100番台になっていることに疑問を持たれた方がいらっしゃるかもしれません。実はF/A-18AがCVW-5に配備された時期にこんなエピソードがありました。
米海軍ではF/A-18の導入にあたり、空母航空団の編成を模索しており、ミッドウェイ級空母ではF-4の2飛行隊とA-7の2飛行隊をF/A-18Aに交代させる計画でした。そのためミッドウェイに搭載されるCVW-5では、F-4SのVF-161とVF-151、A-7EのVA-93とVA-56をF/A-18Aを運用するVFA-161、VFA-151、VFA-192、VFA-195に改編する計画でした。1986年11月14日を皮切りにホーネットの飛行隊が順次厚木基地へトランスパックされてきたのですが、その中にVFA-161の姿がありませんでした。海軍の計画が突然変更され、NFのテイルコードも入ったVFA-161は他航空団へ配置転換されたのです。そのためCVW-5の戦闘・攻撃飛行隊は4VFAから3VFAに削減されました。厚木到着当時の各飛行隊のモデックスナンバーは当初計画通りVFA-151が200番台、VFA-192が300番台、VFA-195が400番台でした。戻ってこなかったVFA-161の100番台が欠番となったため、CVW-5では400番台を付けていたVFA-195に100番台を割り振り、モデックスナンバーを書き換えた次第です(欠番となった400番台は、後に移動してきたA-6E装備のVA-185に振り向けられました)この状態はミッドウェイが引退するまでの4年半ほど続いたのですが、伝統的にVAの系譜にあった飛行隊が100番台のモデックスを付けることは珍しく、VFAだったのでできたのかもしれません。
そんなことからその希少な瞬間を捉えたハセガワのこのキット、特にデカールは貴重かもしれません。
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