
<日本航空史>
UF-XS 実験飛行艇
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by 加藤 寛之 |
プラモデル コラム |
岐阜かかみがはら航空宇宙博物館で綺麗に復元したUF-XSをみたときは、嬉しかった。まさか見られるとは思っていなかったからだ。
一般的には、PS-1開発のためにグラマンUF-1アルバトロスを菊原静男氏の指導のもとに改造した実験機とされる。この実験には米国側が積極的だったようで、機体は供与してくれたものらしい。航空情報『航空ファン読本』1981年夏の号(7月25日発行)によれば、該当の実機は海上自衛隊が導入するより前に「国産飛行艇開発の資料にSA-16Aが1機すでに輸入されており、現在新明和(昔の川西)で改造作業にかかっています」とある。だからちゃんというとUF-1アルバトロスではなく、空軍発注のSA-16Aで、Bu.No.149822だそうだ。
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本日本航空史への登場にあたって情報が必要だから、あらためて調べ直した。『航空情報』1963年3月号に「23年ぶりの新飛行艇」の表題で7ページにわたって写真があり、巻頭にも1ページあった。写真ページの実機解説は簡単なものだが、読者ページに「UF-XSを見て」という投稿があって、これによく書いてあった。『航空ファン』は3月27日の飛行の記者公開をまったのだろうか1963年6月号に写真を5ページ掲載している。これもまた解説は簡単で、本文といえばUF-XSの構想の一般論で済ませていて肝心の実機のことは書いていない。もうひとつ『世界の傑作機』(青版)№81「新明和PS-1/US-1」ならばUF-XSも載っているだろうと思って開いてみたら、ほとんどナシ。ネット情報は、転載で済ませたかのような、似た内容が大半だった。そこで『航空情報 世界航空機年鑑』1964年版も持ち出した。これはかなり整理して解説している。開館直前にこの博物館を取材した『エアワールド』1996年5月号の記事も役に立った。
これでイイや、で集まったものでOKとして、ネットに書かれていないことを中心に書いてみる。
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観てすぐに気付くのが、主翼のエンジン。内側が本来のエンジンで3枚ペラ。外側が増設で2枚ペラ。外側への増設はプロペラ後流効果を用いるのが目的だった。当然、異種のエンジンで、翼の強度の関係で内側と同じものはつけられなかったという。コックピット頭上の突出は吹出し式フラップの空気のためのT58ガスタービンエンジン2基で、これはどちらかが故障しても1基で作動するようになっていた。だから、エンジンは全部で6基になる。燃料は・・・分からないけど、レシプロ用のものを一緒に使ったんだろうね。胴体底部は艇体の縦横比を増すために一度内側へ絞ってある。コックピット前に立っている棒は、おそらくポーポイズ防止のめやす棒だろう。機首を二重にしたような波消し装置も新造だが、このアイデアは昭和15年頃の川西航空機時代に考案されたものとある。主翼にはスラットやスポイラがつき、胴体尾部には水中安定装置(ハイドロダンパー)を装着したようだ。T尾翼も新造だ。『航空情報 世界航空機年鑑』1964年版には「原型をとどめるのは主ケタと艇体のごく一部、そして内側エンジン2基くらいである」と書いてある。そして主翼改造には、X1Gシリーズの成果が大きく取り入れられているのが分かるという。オマケを書くと、翼端フロートは水上試験で容積不足がわかり増積されたそうだ。私は未確認だが、原型のアルバトロスと比較すれば分かるだろう。このような改造の主契約者は新明和だが、日本飛行機と富士重工も協力会社として参加している。
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岐阜かかみがはら航空宇宙博物館にある復元機は、展示する前に痛んでいたところを修復しており、塗装も初期状態のように再現されて、実に美しい。プロペラ先端の警戒色塗装はちょっと違うが、どうってことない。機体の黒っぽい色は哨戒機用の色だと思うのだが、本稿の掲載写真では現役時代の色と現状では色が違う。『航空情報 世界航空機年鑑』1964年版のカラー表紙にあるUF-XSの機体色は掲載の現役時代のカラー写真に近く、揚陸用のタイヤやプロペラの黒っぽさよりもずっと明るくて緑がかっている。そうはいっても、機体を明るく撮りたい工夫や光の条件、フィルムメーカーの発色特性、印刷工程、印刷の色、その後の色補正、写真・印刷物ともに経年変化等々、色が異なってしまう原因はいくらでもあるので、私はどちらが実機に近いと判断できない。もっと正直にいえば、これ以上は各自でお願いします、ということだ(でも、もしもプラモデルがあって作るとしたら、私は緑っぽくするかなァ)。
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追記:波消し装置、細長い艇体、ポーポイズといった飛行艇の課題と関係性については、別冊航空情報『しられざる軍用機開発(下巻)』(平成11年)収録の、菊原静男「2式大艇と「シーマスター」~近代飛行艇はどう変わったか」(原載:『航空情報』昭和31年2月号)が分かりやすいと思う。
X1G:「webモデラーズ」2024年2月号<日本航空史> 「日本のX-1は?」参照
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