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三菱 F1M2 零式水上観測機11型 (ハセガワ 1/48)

by 田口 博通 Hiromichi Taguchi

ニューキットレビューのコーナーは WEBマガジンの即時性を生かし、市販品の購入後、どの雑誌よりも もっとも早い新製品レビュー報告の実現を目指しています。

先月のレビューは グラマンEC-2 ハセガワ1/72  組み立て易い決定版キットでした。
今月は 待望久しい 1/48 零式水上観測機で、ハセガワからシャープな新金型キットが登場しました。果たして その出来は?


■ 実機について
 三菱が佐野栄太郎技師を主務者とし、愛知、川西との競合に勝って、昭和14年10月に海軍に正式採用されたのが零式水上観測機である。
 戦艦に搭載し、弾着高空観測を任務とする機体に求められた性能は、高高度で弾着観測が可能であることと、敵戦闘機に匹敵する格闘性能を合わせもつということだった。
 このため、三菱は格闘性能がよい複葉形式をあえて選び、当初は 翼厚10%の薄翼、アスペクト大の楕円平面翼であった。旋廻中の強力な自転現象に苦しみ、対策として、直線テーパー翼に大改造し、主翼に翼端ネジリ下げを実施、上半角を増やし 上翼が4°18′下翼が4°30′となり、最終的に現在の主翼形になった。
 また、方向安定性不足のため、垂直安定板を85%増積し、方向舵も30%増積したので、最終的に大きな垂直尾翼となった。
外形で特徴的なのは 抵抗を減らすため、翼間支柱がI型一本となっていることである。このため、主翼桁間隔が狭く、翼ネジレ強度を海軍から心配された。

 主翼張り線は 2本式で、前側が22Φの気流型(流線形)飛行張り線、後ろ側が14Φの気流型降着張り線である。その間にジュラルミン管の張り線振れ止めがついている。主翼は折りたたみ可能である。
エンジンは瑞星13型。潤滑油冷却器を主フロートの前脚に収容させ、空気抵抗の少ない機首形状となった。
 胴体は後部が金属モノコック、前部が鋼管溶接構造である。
 
 任務上、第一の兵器というべき通信機は96式空2号無線電信機を搭載した。出力40W,短波の場合500海里に連絡可能。
 武装は 前方にビッカー九七式7.7mm三型改一ベルト給弾400発を2丁装備。後方は92式7.7mm旋廻機銃円盤型弾装が装備された。
 格闘性能を重視した海軍最後の複葉機であるが、単翼機の技術を取り入れて、設計されているため、軽快な運動性を持つ洗練されたシャープな外観となっている。




 

■ キットの印象   
 タミヤの零式観測機の発売から42年ぶりに ハセガワから1/48の新金型 零式観測機11型が発売された。ランナー数がポリ部品を入れて13枚.部品点数は1/481としては多目である。
 マーキングは3種で 千歳所属 Y1-23 (箱絵のもの)、国川丸所属 L-2-11、佐世保 951基地隊 951-8 が付属している。
 今回のレビューではこの中から、フロートが明灰白色の佐世保951空を選んでいる。
 
 タミヤ1/50で問題だったキャノピー形状も良いようだ。後席キャノピーは2種類ついており、波しぶきよけを格納状態か、展開状態かを選べるようになっている。スジボリやリベットは凹彫りこみ。
 主翼の羽張りモールドもいい感じで 完成の姿に期待がもてる。
 
 完成してみると、全体のスタイルは ハセガワらしく 端正で破綻がない。直線テーパー翼は形状、薄さ、上半角ともよく再現されていて、シャープな印象を受ける。胴体は断面も写真のイメージそのままだ。
 カウリング形状はいいのだが、プロペラ中心がデフォルメして下がっているような印象を受ける。実機は1/48換算で0.5mmくらい下がっている。
 複葉機は総じて組みにくいのが通例だが、本キットは がんばっているほうだとはいえる。各部品の合いもよい。
 ただ、カウリングが3分割で歪易く、組み立てるには骨が折れる。コクピットや、上下翼支柱などにも、組みにくい部分があり、もう少し設計上の配慮があれば、組み易くなったと思われるので その点が惜しい。
 
 別売りで張り線と計器板などのエッチングパーツが発売されている。シートベルトは 残念ながら含まれていない。
箱絵

別売りのエッチング パーツ

■ コクピットの組み立て
  コクピットの主要部品

前部座席


後部座席
 床板に箱組みで 前後、サイドのパネルを接着し、その中に座席などの部品を納めるようになっている。部品点数が多く、うまく組み上げることさえできれば、実感のあるものになるはずだ。

 部品が ランナー A,D,L,E,Nの5枚に渡っていて、部品番号の小さい方から使うわけでもないので、部品探しにストレスがつのってくる。ここで挫折すると水の泡なので、辛抱辛抱。
 
 補助計器版や後席のフットバーなど、片持ちで接着する小さな部品が多いので、接着したら重力で傾き易いので注意が必要だ。
 後部座席を座席架L17にいもづけするようになっているので、双方とも傾かないように特に注意。
 
 また商(組み立ての基準となる部位)が2重基準、3重基準の設計となっている部品が多い。CAD設計にありがちだか、組み立て公差やプラ成型公差を吸収するような部品設計が不十分みたいで、組み立てる際に逆にゆがみを生じやすい。

 このため、このキットは自分自身で基準を決めて接着することが必要で、サイドパネルのホゾや、計器版の横機銃架バーなどは むしろ勘合する部分をやすりで少し削って、遊びを多くしておいた方が組み立てやすくなる。
 バー類や座面、後席計器などは床板に平行に、また、前席計器板、操縦桿、ハンドル類は床板に垂直につけたいものだ。
 結局、私は、床板と後隔壁と右パネルの3部品を基準に組み立てることにし、ゆがみや傾きは 現物あわせで、削って強引にあわせた。それでも、部品L2とE3はどうすれば組み立てられるか頭を悩ました。
組み立てに頭と使い、自分で工夫をバンバンしなさいというキットではある。

 後部座席の九一式機上観測鏡(黒い筒)は 本来の零観の主兵器である。零観はあくまでもこの観測鏡を搭載するために計画された機体だったのだ。 右横に保管格納状態とするようになっているが、床真ん中の観測穴(装托盤)に装備し、使用状態にしてやっても面白いと思う。

 塗装は、サイドパネルなどはリブがはっきりしているので、グンゼの三菱内部色で塗装し、少し明るめの色でドライブラシを施すと実感が増す。機器類は、黒、暗緑色などで塗装し、黒を加えた銀などで極軽くドライブラシして塗装はげを再現してみた。

組みあがれば 実感たっぷりのコクピットとなる


後席機銃架も含み、全体が組みあがるとこのようになる。 後席の前についているの透明部品は 航空羅針儀と呼ばれるもの


 エンジン とカウリング
 エンジンはシリンダーも一体で ポリ部品P1を組み込んで、ハウジングケースを接着すると出来上がりとなる。モールドも秀逸なので、丁寧に塗装すれば、グッドなエンジンが出来上がる。
 この時、同時にカウリングの内側を暗色で塗装しておくこと。 カウリングは3分割で、組み立て時にこのエンジンも内枠として使われる。
ゆがみなくカウリングをくみ上げるには仮組みして すりあわせをよくするなど、コツがいる。
また、カウリングとエンジンの軸方向をきちんとあわせないと、ダウンスラストがついてしまったりするので 要注意だ。

■ 胴体の組み立て ■ 塗装
 説明書の組み立て順は 胴体に尾翼、主下翼と主上翼を取り付け、次に補助フロートを取り付け、最後に主フロートを接着するように指定されている。
 しかし、今回のレビューでは、塗装のしやすさや支柱の組み立て易さも考え、説明書とは違う組み立て順とした。

 写真のように、胴体に主下翼と水平尾翼を取り付け、主フロートを取り付けてしまう。  前部座席の胴体上部品G1もこの時点で接着し、胴体の継ぎ目などをきれいに整形しておく。
 主フロートには20gのおもりが指定されているが、安全を見て、もう少し多目に入れておいたほうがいい。
主フロートは進行軸を機体軸に一致するように 慎重に取り付けよう。
 
 主上翼と補助フロートは別に塗装しておき、最後に支柱類をとりつけ、全体を組み立てる。支柱の塗装は筆でタッチアップする。
 塗装は、最近、筆塗りに凝っているので、全体を筆塗りしたが、逆に時間がかかってしまった。マスキングしてエアブラシの方が簡単だったと思う。

上面は三菱系暗緑色 グンゼ特色No.124
下面は明灰白色(三菱系) グンゼ No.35
主翼前縁 黄橙色 グンゼ No.58
主フロートのプロペラ警戒赤には モンザレッド グンゼ No.68
を使っている。
 
 組み立て後、デカールを貼り、保護のために半ツヤケシクリアーを吹きつけたが、せっかくの筆塗りの 筆のタッチが消えてしまい、残念無念。
胴体と主下翼、尾翼、主フロートを一体で組む
胴体と主フロートを塗装

前縁黄橙帯と主フロートの警戒赤をマスキングして筆で塗装
下面とカウリングの塗装

全体組み立て前の各塗装済み部品


■ 支柱と主上翼の取り付け
 まず、胴体と主下翼間の短い支柱 E15とE16 を取り付けるが、うまくいかず 苦労すると思う。 
安心して下さい。この支柱は冷静に考えると 支柱の接着ピンがひっかかり、原理的に誰にも取り付けることができないことがわかります。割り切って、支柱上側のピンをカッターナイフで削ってしまって、胴体には いもづけしてください。

 最大の難関、主上翼の取り付けだが、胴体の上翼間支柱E7とE13を先に主上翼に接着してしまうと、支柱の接着ピンが胴体と干渉し、無理をして支柱を入れようとすると、弾性を超えて折れてしまう。
 ここは頭をひねるところ。 今回は次のようにしてみた。
 
 写真のように E7とE13は主上翼の楕円接着穴を彫って少し遊びを大きくしておき、胴体の接着穴に先に支柱のピンを入れる。テープで仮止めして、動ける自由度を持たせておく。まだ接着してはいけない。 主翼間支柱D3とD12も下主翼に取り付け、テープで仮止めしておく。 
 これら4本の支柱をそっと主上翼の穴にさしこみ、テープで仮止めする。
 上下主翼の平行性など全体のバランスをとった後で、最後に各部に流しこみ接着剤を流し、固定するという按配だ。
必要に応じて、瞬間接着剤も併用するとよい。
 
 複葉機は、2枚の主翼がゆがんでいると どうしようもなく格好が悪い。歪まないように組めるかが、最大のポイントなので、各自工夫しながら組み立てを進めてみてください。

 主下翼と胴体間の短い支柱は 支柱上側の接着ピンを削り取り、いもづけする。
翼間支柱はテープで仮止めしながら組み立てる。上下翼の平行性など 歪まないようにバランスをとった後、接着固定する。

正面形
 

■ 小物、張り線、完成へ
 補助フロートは 主下翼に垂直に取り付ける。正面から見ると 開き気味になるように。キットの説明書に正面図が入っているといいのだが。丸メカニックNo20(零式観測機)をお持ちの方は 3面図が付属しているので、参照下さい。

 支柱をタッチアップし、デカールを貼る。佐世保空の胴体日の丸は、白枠に胴体色でオーバー迷彩したものが付属していたが、貼ってみると おもちゃぽく感じてしまい、白枠を切り取ってしまった。
後部旋廻機銃は格納状態としたが、戦闘警戒状態としても格好いいだろう。
プロペラは表が銀、裏がつやけし黒。先端に 赤の二本線である。 
透明ライト部品類がたくさんついているので、飛ばしてしまわないように。万一無くしてしまった場合も、主翼上のライトなどは 透明エポキシを針先で盛れば、実感あるライトができるので、あわてなくても大丈夫。
 カウリングの機体への取り付けも注意が必要で、プロペラも差し込んでしまい、機体軸と推力軸が平行になるように見ながら接着する。うかつに接着するとダウンスラストがついてしまうので、要注意である。
 
 後部風防は、波しぶきよけ風防を展開状態としたものを使用したが、接着場所がなく迷った。しぶきよけ風防の下に0.5mmプラ板でレールをかさ上げし、接着してある。
 ちなみに格納状態の後部風防部品は、内側もしぶきよけ風防枠を塗装する必要がある。

 張り線は、最初 大枚はたいてせっかく購入したエッチング製のものを苦労して張ってみた。が、断面に厚みがなく流線形になってもいなくて、張り線付け根覆いの実感が今ひとつで、人様にレビューでお見できるレベルに仕上がらなかったので、写真では取り外した。

 後日、1/48換算で飛行張り線は0.4mm、降着張り線は0.3mmのシンチュウ線を叩いて、流線形断面にして取り付けるつもりだ。

 よって、今回のニューキットレビューは キットに入っている純正部品だけで、このようになる、としてみていただきたい。

 ハセガワの1/48零式水上観測機は、うまく完成に持ち込みさえすれば、写真のように、素晴らしいスタイルになる。
 少し、組み立てに難しい部分もあるが、良いキットなので、ぜひ あなたも 完成を目指して トライしてみてください。

完成写真
















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 Vol.2 2009 Mar.       www.webmodelers.com /Office webmodelers all right reserved /editor Hiromichi Taguchi 田口博通
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