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誌上個展

 懐かしのB級キット(第15回)
日本海軍艦上偵察機 彩雲(アオシマ 1/72)

by 田口博通

  玩具から始まったプラモデルが ギミック路線か、それとも 全く動かないけれども精密なモデルの方向に行くか メーカーによって多様性に溢れていたのが 1960年台でした。
 当時から、精密というには?がつくけれども ギミックが面白いプラモデルを日本メーカーが多く発売していました。エルロン、方向舵可動は当たり前、というか それが当たり前のトレンドの時代だったともいえます。
 学校前の文具店でプラモデルが売られていることも多く、箱絵が魅力的でショーウインドーに釘付けになり、学校帰りに店の前の道路で座り込んで、プラモを作った経験のある読者も多いはず。小学生の遊びの一部として当たり前にプラモデルがあり、今からは想像も出来ないプラモ黄金時代だったと思います。

 
 金型精度が追いつかず、可動部がガタガタで、細かいディテールは?が二つくらいつくが、デッサンはなんとなく実機の雰囲気を再現しているという今でも捨てがたいキットが多くありました。既に絶版になっているものが多いのですが、幸い、その中には今でも生き残って現役のプラモキットもあります。

 このシリーズは そんな 懐かしいB級キットを取り上げて行こうという連載です。形状とか デイテールを求めるならば、後発の決定版を購入すればいいわけで、ディテールの修正などをせず、オリジナルの雰囲気を壊さず、完成を目指したいと思います。

 
 今回の「懐かしのB級キット」で、取り上げるのは 青島の珍キット 彩雲です。




  「なあ、海軍の彩雲改って知っとるん?」
私「何や、それ、彩雲は知っとるけど、彩雲改は知らん」
 「彩雲の高高度偵察型で、エンジンが強化されて機首が長うなっとん。で、B29よりも高い高度飛ぶために主翼が大きうなって長うなっとるから 主翼が折りたたみできるようになったんやと」
私「ふーん、ほんま・・・・」
 「校門の前の松島文具店のオッチャンが言うとったから間違い無いで、アオシマから出とんやって。 」
私「へー、そいじゃ、帰りに見に行こか!」

 このいかにもな讃岐弁のやりとりは、1960年代初頭、筆者が小学生高学年の時に実際にあった会話です。   
 タミヤから1/50の透明彩雲が発売されていて、前出の松島文具店の校門道路側のガラスケースにドーンと飾られており、毎日 それを見て、「欲しいなー、けど高いからとても無理や」と うらめしく思いながら、学校に通っていましたから、彩雲が何であるかは良く知っていたのです。
 
 今、思えば、この「彩雲改」の話、松島文具店のオッチャンの苦し紛れの説明だったのかもしれません。まるで、現代の健康食品のTVコマーシャルのごとく、無いものがあるとされている、いかにもいいかげんな話でありました。
  余談になりますが、タミヤの透明彩雲を買えたのはそれから10年後、リベンジを果たして完成したのは約50年後の2013年冬のことになりました。




 今回取り上げる青島の彩雲は オリジナルのギミックで主翼が折りたためるようになっていまして、主脚も折りたたみ可動です。

 青島の彩雲はこれまでに紹介した瑞雲、晴嵐などと同様、どれも特徴的なスタイルをそれ以外には見えない程度に表現していました。
 初出は1960年代のことですので、この程度が限界だったのでしょうか。
 とはいえ、72彩雲のキットは20世紀末にフジミからこれが彩雲といえる決定版が発売されるまで、アオシマキットが「唯一もの」として君臨していたのが事実だったのであります。
   しかし、この彩雲のキットは今では珍キットと呼んでもいい部類で、実機では折りたたまない主翼が プラモデルでは折りたためるようにオリジナルに設計されていて、だからこそ 冒頭のような胡散臭い会話の状況になったわけです。
こういうことは、1960年代のプラモデルでは ままあるというか、当たり前のことでもありました。
 1960年代当時を思い返すと、商品性としては実機に似ているか似ていないかは、健康食品のコマーシャルのごとく「効能は個人の感想です。」に過ぎないのでありまして、プラモデルの商品性は可動オモチャとしての目に見えるわかりやすさで価値判断されていたという時代背景だったと思います。
 このアオシマ彩雲は真正B級キットとしての資格は充分といえるでしょう。
 
 今時、このキットをマジに作ろうという奇特な御仁は、世の中にはそうは居られないと思いますので、今回は 追体験として お楽しみください。






 この青島の彩雲は 箱絵が派手なままでデカールがリニューアルされたものが、後年発売されていまして、今回はそれを使用しました。
 キットの出来はというと、「デッサンがそれなりに、拡大解釈すれば実機に似てないこともない」の部類です。部品を見てお解りの通り、カウリングが異常に長く上部のエアインテークもありません。主翼はこれまた長く、翼端形状も丸まっていて、かなりに違います。 垂直尾翼も悲しいほど違います。 
 しかし、全体としてはどうも彩雲らしいというフォルムがつかめるのが不思議な所です。
 
 フジミの彩雲が出てきた現代では、スケールモデルとしての希少価値は無くなっているかもしれませんが、実機では無い主翼折りたたみメカがついているのですから、現在でもその意味では希少価値はあるでしょう。細かいことにこだわらず、素直にそのまま組んで B級プラモ工作の楽しさを堪能してみたいと思います。 

箱絵 (リニューアル版)
 胴体の3本の矢の塗装が スポーツ機ばりの 凄い迫力のある絵ですが、アベノミクスの3本の矢と同じく、もちろんの架空塗装です。 




 部品 一式 部品点数は少ないですが、可動部があるため複雑な構成です。 


製作について

 胴体ですが、水平尾翼を差し込んで左右を接着します。コクピットは人形を乗せる水平のピンがありますから、そのままにしておきましょう。 接着後、幅10mmくらいの半丸ヤスリを用意して、接合部をガシガシと削って行きます。形状修正など考えない方が健康的です。


 主翼は脚、おりたたみ可動翼のメカを仕込んで上下を注意深く接着します。
 可動脚はぐらぐらしますが、これは 後で対策をそっとお教えします。




 胴体と主翼の接合部には隙間が当然できるので、0.5mmプラ板で埋め、瞬間接着剤をパテがわりに使い、ザクザクとやすりで削って派手に成形していきます。

塗装

 上面 Mrカラー 濃緑色、下面 明灰白色で塗装しました。面相筆で筆塗しています。
 上面色は 1回目 まず右斜めに面相筆で一塗り。
2回目 次は左斜めに

3回目 前から後ろに気流に沿って 仕上げ塗り



 日の丸も主翼黄色警戒帯も、テープでマスキングして 艶消し白で下塗りした上に手書きしました。

 日の丸には エアブラシ用の幅広透明マスキングテープを使うと楽です。赤で上塗り後、マスキングテープを剥がし、赤が漏れ出た部分を 面相筆で外面色で丁寧に修正すれば塗装は完了です。  


 よくあることですが、塗装中に主翼折り畳み機構を折ってしまったので、金属線と金属帯で作りなおしました。意外と簡単です。コツは精密に作ろうとしないで、ラフに「遊び」を多くとることです。


 主脚は可動折り畳みなので、内側主脚扉も アルミテープでヒンジを作り、可動にしました。
 
 また、可動脚はぐらぐらするので、その対策として、実機同様に斜め支柱を追加するとよいでしょう。
下のようなヒンジ部品をプラ板を細切りにしたもの2辺とアルミテープで作り、斜め支柱に見立て 脚に取り付けます。プラ板を真ん中で切っているので折りたためます。


主脚と内脚扉を展張した状態。

完成

 
 キャノピー透明度がよくありませんので、内外にクリアラッカーを塗ると若干改善できます。
ピトー管とアンテナ柱は金属線で自作して接着し、見事 完成となりました。 
 マー 拡大解釈すれば 彩雲に見えないこともないという程度のフォルムでしょう。




 おまけ
下は フジミが発売される前に 修正に手をつけて、見事挫折。
今回、上のキットと合わせ、完成したキットです。 
 カウリング上にエアインテークをプラ板で追加。主翼と脚は固定、主翼と尾翼形状はかなり削って 実物に似せようとしていましたが、フジミのキットが発売されたため、アホらしくなって ほったらかしにしていました。
 とりあえず、完成だけさせてみました。



  B級キットにはそれなりの楽しみ方がありまして、修正にトライした悩める子羊版よりも 素直に作った主翼おりたたみオリジナル版の方が楽しめました。
 スケールモデルを目指して修正しようとすると 楽しみから苦しみに変わり、完成がおぼつかなくなる良い例でした。
晴嵐の記事でも書きましたが、「多様性をどれだけ受け入れられるようになったか 『大人力』が試されている」といえるのかもしれません。

 また B級コレクションに一機加わりました。
 おつきあいいただき ありがとうございました。




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