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誌上個展

トヨタ S800 (フジミ  1/24)

by 田口博通 Hiromichi taguchi

  Vintage garageは創世記から1970年代までのビンテージレースカーとビンテージクラシックカーの連載コーナーです。クラシックな姿の中に優雅さと繊細さを内包した彼女達にしびれる方々も多いはず。 
 ビンテージ・ガレージは ビンテージカープラモデルの製作だけでなく、その独特の魅力を醸し出すビンテージカーが背景に持つエピソードにもスポットをあてています。 
どうぞあわせてお楽しみ下さい。

 2018年4月号から再開したビンテージ・ガレージ 第5シーズン。今月登場するのは トヨタS800(フジミ 1/24)です。よく知られているように 元は日東の名キットでしたが、日東消滅後、金型を入手したフジミによって再発売され、流通し続けているのは 一プラモデルファンとして嬉しいです。フジミ版は浮谷東次郎仕様としてデカールとホイールも一新されています。
 トヨタS800は1960年代に出現した軽量スポーツカーで、ころっとした空力フォルムと とりはずし可能なルーフのタルガトップが特徴でした。
 このキットは その雰囲気が余すところなく再現されています。


トヨタ S800

実車について

 トヨタのスポーツカーの発生には二つの対照的な流れがあり、その一つがトヨタスポーツ800に代表されるライトウエイトスポーツカーである。
 もう一つは トヨタ2000GTからトヨタ7に至る大排気量大馬力スポーツカーだが こちらの設計と製造の主体はヤマハだったので、当時のトヨタの本流というか実力としてはS800と考えてよいだろう。

 トヨタS800は、1965年(昭和40年)に発売されたトヨタのライトウエイトスポーツカーである。
 超軽量構造と空気抵抗の少ないボディで、45馬力の非力なエンジンにかかわらず、レースでは ホンダS800に対抗して活躍し、「ヨタハチ」の愛称で呼ばれた。
 開発は1962年(昭和37年)に始まったとされているが、トヨタ本体ではなく、系列会社である関東自動車工業の発案と主導で進められ、同社の長谷川龍雄が開発主査を務めた。(長谷川は元戦闘機設計者で、パブリカ・カローラの主査も務めている)
 関東自動車の開発チームでは 当時、同社が製造していた大衆車パブリカのエンジンとシャシを流用し、当初は「パブリカ・スポーツ」の名称で、設計を進めた。
 搭載エンジンは2気筒700ccのパブリカ用エンジン28PSを100ccボアアップして、790ccとし、ツインキャブレターを装備しチューニングしたが、それでも45psと最高速度150 km/hをめざすには非力だった。
 そのため、ボディは徹底した空力設計とライトウエイトスポーツカーの思想で設計され、モノコック構造でわずか580kgに収まっている。この超軽量空力ボディにより、遂に155 km/h の最高速度を達成している。
 長谷川は戦闘機エンジニアらしく試作車では なんとスライド式キャノピーを検討したようだが、最終的には通常ドアと、着脱式のルーフトップとを組み合わせた「タルガトップ」となっている。
 全長3,580 mm ×全幅1,465 mm ×全高1,175 mm という小さな2シーターボディで、現代の感覚では軽自動車である。

(実車写真 wikipediaから引用)




 トヨタS800は 日本のオートレース勃興期に出現し、好敵手ホンダS600に対抗し活躍した。
 好敵手ホンダS600は優れたスポーツカーだったが、トヨタS800とは対極的なハイパワーエンジンで重い車体を引っ張るという設計思想の車だった。
 ホンダS600のエンジンは606cc水平対向4気筒DOHCと4連キャブレターを装備し、57馬力を出す高性能エンジンだった。
しかし、ボディは軽量とはいえず、車重が715kgもあり、エンジン出力で重い車体を引っ張るということになり、最高速度は145km/hにとどまっている。



 1965年7月の船橋サーキットの全日本自動車クラブ選手権レースではトヨタワークスドライバーの浮谷東次郎が 生沢徹のホンダS600を驚異的な追い上げによって終盤で抜き去り、優勝している。
 フジミキットのデカール ゼッケン20はこのレースの浮谷東次郎車仕様となっている。

浮谷は24周目に生沢をとらえた。前を走るゼッケン1が生沢徹のホンダS600 (記録写真から)



ボックスアート 

製作

 まずは、ボディの塗装から。
ボディは白いプラスチックで成型されていて ボンネットを切り取れば、エンジンが見られるようになっている。また タルガトップも別部品になっている。白プラスチックなので、透け防止のため、一度、サフェーサーで塗り、ボディ裏は艶消し黒で塗っておいた。
 ボディのシルバー色は軽いジュラルミン系が良いのだろうが、小さいボディのため 軽く見えすぎるのもちょっと ということで、Finishesのシルバーで塗装した。
タルガトップルーフと窓枠部はグロス黒。
窓枠リムにはハセガワトライツールのミラーフィニッシュを貼っている。


キットのボディパーツ シルバーと黒で塗装。


 デカールは地の白と 文字(シルバー、黒)が別になっていて、白も透けず良質なものだが、重ねて貼るので位置合わせが難しかった。
 デカールが乾いて落ち着いたら、Mrカラーのクリアを全面に吹き、デカールの保護をして ボディの塗装は完了とした。
Finishesのシルバーはもともと粒子が大きいので、クリアをかけても輝きが沈まず、重宝している。
 デカール 右の黒い紙はシートベルトに使用。

塗装したボディ

エンジンとシャーシー

 この旧日東科学のキットが名キットと言われた所以の一つが、当時1/24では珍しく、エンジンを内臓した精密キットだった事だ。
右はエンジン部品で排気管まで一体になっている。
下は塗装まで完成したエンジンで、装備したツイン・キャブレターと2気筒790ccエンジンが上手に再現されている。

塗装したエンジン



 エンジンをシャーシーに組み込み、サスペンション部品を取り付ける。
 S800はほとんどのコンポーネントをパブリカから流用しているので、フロントは縦置きトーションバー・スプリングのダブルウィッシュボーン独立型となっている。
リアはリーフ・リジッドとしたサスペンションで 基本レイアウトはパブリカそのままの流用で、それらがキットではうまく再現されている。
ブレーキは前後ともドラム。
シフトレバーはフロアシフト化されていた。





 シートベルトのバックル部品も入っているので 黒紙を切ったシートベルトと組み合わせ、シートに接着し、下回りは完成。 ホイールとタイヤはフジミによって浮谷東次郎仕様として、新しく起こされているので、それを使用する。


完成

 ヘッドライト部品や透明窓部品を、手工芸用の透明接着剤などを併用しながら、ボディに慎重に取り付ける。
浮谷がレースに出た車の記録写真を見ると 箱絵の通り、バンパーが無いので、バンパーは取り付けなかった。
リアの形状には少し不満は残るが、これで完成。小さい車体が実に愛らしいが、こんな小さな車体で時速150キロでレース場を駆け巡ったとはとても信じられない。



トヨタ S800 その後

  残念ながら 浮谷東次郎は船橋サーキットで優勝を果たした翌月の1965年8月20日、三重県の鈴鹿サーキットでの練習中の事故で翌8月21日脳内出血により23歳で没した。

 トヨタS800は 1966年の第1回鈴鹿500kmでも1,2フィニッシュで優勝している。
 昨年 2017年9月 この鈴鹿500kmの優勝車がトヨタにより復元された。
この復元作業に際しては、TOYOTA GAZOO Racingのエンジニアにより、内外装のレストアのみならず、運動性能に関わるチューニングも施されたそうである。
 その過程では匠といわれるベテランから若手まで多くのメンバーが参加し、技能伝承と人材育成も行われたという。さすがにトヨタらしい。



 浮谷東次郎にまつわる逸話がもう一つ残されている。
スポーツカーにとって、パワーも軽量化も等しく大切な要素であり、理想は、それが両立することである。
そう考えた浮谷はメンテナンスを頼んでいるトヨタの工場に、トヨタスポーツ800にホンダS600のエンジンを積んでほしいと頼んだそうである。その理想のマシンでイギリスのレースに出ようと目論んだそうだ。
彼の事故死でその夢は儚く消えてしまった。
 しかし、もし、実現していたらTOYOTA S800 (pawered by Honda)という名車が生まれ、ヨーロッパのレース場を生沢徹と一緒に駆け巡っていたかもしれない。

左がホンダS600, 右がトヨタスポーツ800(いずれも復元車),   (autocar.jpより引用) 

 

ビンテージ・ガレージ バックナンバー
5th
シーズン
2018年8月号 第25回 PRINCE R380A-1 (インターアライド 1/24)
2018年7月号 第24回 ジャガーEタイプ (グンゼ 1/24)
2018年5月号 第24回 マツダ コスモ スポーツ L10B (ハセガワ 1/24)
2018年4月号 第23回 Team Lotus Type49B 1969 (エブロ 1/20)
4th
シーズン
2017年2月号 第22回 ベンツW154-M163仕様  (W163 (1939) リバイバル 1/20)
2017年1月号 第21回 ダットサンSR311 フェアレディ (フジミ(旧日東) 1/24)
2016年12月号 第20回 スカラブ Mk.4(モノグラム 1/24) 
SCARAB Mk.4 (MONOGRAM 1/24)
2016年11月号 第19回 マクラーレンM8A 1968(タミヤ 1/18)
  Mclaren M8A (TAMIYA )
3rd
シーズン
2016年2月号 第18回 ポルシェ356Aスピードスター (トミー 1/32)
PORSCHE 356A SPEEDSTER(TOMY 1/32)
2016年1月号 第17回 ブガッティT55スーパースポーツ(バンダイ 1/20)  
Bugatti model 1932 type 55 Super Sport (Bandai 1/20)
2015年12月号 第16回 フェラーリ 250 テスタロッサ(ハセガワ 1/24)
Ferrari 250 Testa Rossa (Hasegawa 1/24)
2015年10月号 第15回 シトロエン DS19 (エブロ 1/24)
CITROEN DS19 (EBBRO 1/24)
 
2015年9月号 第14回 フォルクスワーゲン カルマン・ギア 1963年型 (GCIクレオス 1/24)
 Volkswagen Karmann Ghia 1963
2015年8月号 第13回 メルセデス ベンツ 300SL (タミヤ 1/24)
Mercedes Benz 300SL (Tamiya 1/24)

2nd
シーズン
2014年12月号 第12回 オースチン ヒーレー 100-6 (レベル1/25)
AUSTIN HEALEY 100-SIX (Revell 1/25)
2014年11月号 第11回 リンカーン・フューチュラ(レベル1/25) 
LINCOLN Futura (Revell 1/25)
2014年10月号 第10回 メルセデス・ベンツ540K(モノグラム1/24)
MERCEDES-BENZ540K (Monogram 1/24)
2014年9月号 第9回 デユーセンバーグ・モデルSJ(モノグラム1/24) 
DUESENBERG SJ (Monogram 1/24) 
2014年8月号 第8回 ド・ディオン・ブートン (1904年型)(ユニオン 1/16)
DE DION BOUTON 1904 (UNION 1/16 )
2014年7月号 第7回 アルファロメオ2300 トゥーリング(1932)(ブラーゴメタルキット 1/18)
ALFA ROMEO 2300 TOURING(Burago Metal Kit 1/18)
1st
シーズン
2014年1月号  第6回 ベンツ 300SLR (レベルモノグラム 1/24) 
2013年12月号 第5回 BENTLEY 4.5L BLOWER (エレール 1/24)
2013年11月号 第4回 ブガッティ 35B(モノグラム 1/24) 
2013年10月号 第3回 BRABHAM F-3 (エレール  1/24) 
2013年9月号  第2回 ROB WALKER Team Lotus 72C (エブロ 1/20)
2013年8月号  第1回 ホンダF1 RA272(タミヤ 1/20)


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