1960年代にこのメルセデスベンツ540Kを最も有名にしたのが、1965年のディズニー映画 「サウンド・オブ・ミュージック」である。後半の場面で、ナチス軍から逃れるために山中を疾走するのだ。
「サウンド・オブ・ミュージック」はご存じジュリィ・アンドリュースが主演した「ドレミの歌」や「エーデルワイス」など数々の名曲を生み出したミュージカル映画である。
物語の舞台はナチスドイツが覇権を握りつつあった1938年のオーストリア・ザルツブルグ。ドイツによるオーストリア併合(1938年)及び第二次世界大戦の前夜のことである。
修道女のマリアは、オーストリア=ハンガリー帝国海軍退役軍人であるトラップ大佐の居城に7人の子どもたちの家庭教師として派遣される。子どもたちは数年前に母親をなくし、父親から厳しいしつけを受けてきたが、快活なマリアの影響で次第に子どもらしい素直さを取り戻していく。
そんなマリアの姿にやがて大佐も惹かれるようになり、2人は結婚することとなったが、大佐はザルツブルグに進駐したナチスドイツから軍人として出頭するよう命令を受け、逃亡を図る。 |
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映画では逃亡の理由について明確に描かれていないが、史実では、オーストリア軍の高級将校は全てナチスにより、森の中で処刑されていたのである。
そんな2人と子どもたちがナチスから逃れるためにスイスへの亡命に使用したのが、このベンツ540Kだ。映画ではその黒塗りの車の豪華な造りから大佐の地位の高さをうかがわせるが、終盤の緊迫した場面で、ナチス親衛隊の追跡を振り切り、夜の山中をスイス国境まで必死で疾走するのである。
名場面はザルツブルクの祝祭劇場で行われたコンクールで「ドレミの歌」と、オーストリアの愛国歌「エーデルワイス」、そして「さようなら、ごきげんよう」を歌って2~3人ずつ舞台から消えていく。審査の結果が3位、2位と発表されて最後に優勝としてトラップ一家が発表されるが舞台に現れず、その表彰式の隙にトラップ一家は劇場から逃げ出していた。
この物語は「トラップ・ファミリー・ストーリー」という実在のコーラスファミリーがスイスに亡命する実話に基づいている。狂ったような強大な力から逃れ 自由を得るためには、これまた、対抗する強い力を必要とする。アメリカ的な価値観でそんなことを描いていたのかもしれない。 |